福岡県久留米市にある医療法人聖峰会 田主丸中央病院は“地域のために 地域とともに”という理念のもと、救急医療をはじめ、総合内科、リハビリテーション、緩和ケアと全人的医療を実践し、質の高い医療を提供しています。また、法人として福祉分野にも注力し、地域の方々の健康を総合的にサポートしています。
2012年にはこのような取り組みが評価され、田主丸中央病院は地域医療支援病院に認定されました。
田主丸中央病院の地域に根ざした取り組みや今後の展望について、田主丸中央病院 理事長・院長である鬼塚 一郎先生にお話を伺いました。
1954年、私の祖父がれんこん畑しかないような町はずれの土地を購入し、小学校の廃材を使って、現在の田主丸中央病院の元となる田主丸結核療養所を開設しました。その後、祖父の弟(当時の院長)が病気になったため、大学で心臓外科をしていた私の父が35歳で院長になりました。
その後、父はこの地域で下火になってきた結核ではなく、急性期・救急医療にしっかり取り組んでいくことを目標として病院を拡大していきました。
また、急性期の治療が終わって自宅に戻っても、家で寝たきりの状態になっている高齢の方が少なくない状況を改善したいという思いから、病院だけでなく介護福祉施設の運営も始めました。今となっては考えられないことですが、当時はまだ、介護といえば家族、特にお嫁さんが務めるのが当然で、“老人ホームは姥捨て山だ”と批判される時代でした。
2000年には私の叔父が院長になりました。叔父は、自身の専門である放射線科の画像診断装置を充実させたり、電子カルテを導入したりと病院機能の強化をはかる一方で、地域の開業医の先生との連携を推進し、それが後に地域医療支援病院の認定を受けるための土台づくりになったと考えています。
その後2015年に私が院長の職を引き継ぎ、病棟の建て替えや緩和ケア病棟・地域包括ケア病棟の開設を進めました。地域の皆さんになくてはならない存在として、質の高い医療や介護・福祉サービスを提供していきたいと考えています。

田主丸中央病院は、救急指定病院に認定されています。
当院では24時間365日、救急患者さんを受け入れており、救急車搬入台数は、地域の救急車出動数の約65%となる、年間約1,900件前後(2023年度実績)に及びます。特に心筋梗塞など、緊急性の高い患者さんにも迅速かつ適切に対応することが中核病院としての役目だと考えています。当院周辺の地域でも高齢の方が増加していることから、高齢者の方の救急受け入れにも注力しています。また、当院では救命救急士を3名採用し、救急処置の補助や患者さんの病院間搬送などで力を発揮してもらっています。今後も、迅速で適切な医療を提供することによって地域の救急医療を支えていきます。

田主丸中央病院の放射線科では“正しい治療は正しい診断から”をモットーに、最新の医療機器を用いて正確な放射線学的検査・診断を心がけています。
当院では、院内すべての放射線学的検査を放射線科専門医が細かくチェックする体制を整えています。CTやMRI検査はもちろん、単純レントゲン写真に至るまで、すべての画像を必ず放射線専門医によって読影を行っています。

当院を受診いただく患者さんの満足度向上を目指す上で、病院の質を上げるということは非常に大切なことと考えています。医療の質、看護の質、接遇の質などといったものを具体的にどうすればよい病院となるのかを考えたときに、この総合管理部という部門を立ち上げました。
当院の本田順一医師を中心に、認知症ケア、緩和ケア、スキンケア、感染管理、医療安全管理、がん化学療法の6つの課で構成されており、それぞれ専門の看護師を配置しています。具体的には、医療事故防止のしくみ作りや、情報収集、職員教育など幅広い業務を行っていきます。
患者さんだけでなく職員にとっても満足度を上げ、より良い病院となるよう業務の効率化や改善活動を病院全体で取り組んでいます。
当院では、患者さんの待ち時間短縮のために“来院前AI問診”を導入しました。これは、スマートフォンなどであらかじめ問診票に入力していただき、少しでもスムーズな受診となることを目的とした取り組みです。
また、職員も院内で使用する連絡ツールは長い期間PHSを使用していましたが、近年はスマホに変更しました。これによりカルテの音声入力ができるなど、より業務がやりやすくなったと実感しています。
医師の働き方改革が施行されましたが、医療業界では人材不足が深刻で、働き手が少なくなることが予想されています。デジタル機器の積極的な活用で業務の効率化を図り、多くの患者さんの医療ニーズに応えられるようにする考えです。
田主丸中央病院の魅力の1つに、職員がとても明るいということが挙げられます。患者さん、来客の方にはもちろん、職員同士も診療科や職種の垣根を越えて、明るく積極的な挨拶が聞こえてきます。正直、これといった理由やきっかけは思い当たらないのですが、自然に病院の文化として根づいており、当院の自慢の一つです。
法人職員のほとんどが参加する職員旅行や大忘年会などの行事も職員のストレス発散や部署を越えた交流の場として役立っているのではないでしょうか。
日頃から職員同士が職種を越えたコミュニケーションをとれていることが、院内全体の明るい雰囲気に繋がっているのかと考えます。

田主丸中央病院には病児保育も有する院内保育所を併設しており、お子さんを持つ職員も安心して働いていただけるような環境となっています。
また、2017年4月には当院併設の介護老人保健施設サンライフ聖峰1階に病児保育室を開設し、体調の悪いお子さんを預かって保育・看護を行っています。病児保育室では、外部の方のお子さんもお預かりしています。

当院は、地域を元気にするスポーツの力を信じて、地域のスポーツ振興に積極的に協力しています。
地域のスポーツイベントにスポーツドクターとして医療提供もしていますが、そのほかにも当医療法人で、数名のアスリート職員の採用も行いました。2022年には男女8名のラグビー選手を採用しています。彼らのスポーツ活動の応援として柔軟な職場対応をするかたわら、スポーツで培った、目標に挑戦し続ける姿勢・集中力・体力といったスキルを介護の現場で生かしていただいています。
2023年7月に久留米市を襲った大雨による水害では、当院の想定を超えた水量が押し寄せ、医療活動が停止するといった浸水被害に遭いました。入院患者さんは階上の病室へ緊急避難することでなんとか対応できましたが、電源設備やたくさんの医療機器が故障し、暑い中エアコンは使えず、患者さんの入院食も調理できないなど、大きなダメージを受けました。
ありがたいことに、たくさんの救援物資をいただいたり、ボランティアの方が駆けつけてくださったりと、多くの方々に助けていただきました。
これを教訓として再びの被害を避けるため、自然災害から地域を守ることのできる強靭な病院作りの一環として、巨額を投じて防水壁や止水版の設置を行いました。
また、いただいたご恩を返したい思いで、被害がまだ残る地域や、令和6年元旦の能登半島地震によって被害を受けた地域などで、当院のスタッフがJMATチームの一員として支援活動を行っています。
当院は従来より情報発信を積極的に行っており、被災時においてはより力を入れてほぼリアルタイムでSNSに当院の状況を載せていきました。
状況を直接公開することで当院の様子がわかり、入院患者さんの安否をご家族や関係者、そしてメディアに取り上げていただけたことで広範囲の方にいち早くお知らせできたことがよかったと感じています。
今回の被災では、当院にとって大きなダメージを受けた出来事ですが、それを上回る学びや地域の方との絆を再確認し、病院としてさらに昇華するきっかけとなりました。
これからも当院は“地域のために 地域とともに”という理念のもと、地域医療への貢献に尽力してまいります。

私はかつてアメリカに留学し、その後大学病院での勤務を経て、2010年に当院に入職、2015年に叔父から院長の職を譲り受けました。
院長という立場は、医師として患者さんを診るだけでなく、広い視野をもって病院という大きな組織をまとめていかなければなりません。
様々な方の意見を聞きながら、変化を恐れずに、その都度、皆さんの望む医療を提供したいと考えています。
そのために、田主丸中央病院では地域の皆さんの意見を聞くモニター会を定期的に開き、実際にいただいた意見を反映するよう努めています。また、地域の様々な行事にも積極的に参加、地域の活性化に努めています。
田主丸中央病院では、最先端の高度医療を実施しているわけではありませんが、医療や介護・福祉の連携に重きをおいて、総合的に質の高い医療を提供していきたいと考えます。
今後も、登録医の先生方、関連介護施設と連携しながら職員が一丸となって地域に必要とされる医療と介護に取り組んでいきます。
医療法人会聖峰会田主丸中央病院 理事長・院長
様々な学会と連携し、日々の診療・研究に役立つ医師向けウェビナーを定期配信しています。
情報アップデートの場としてぜひご視聴ください。
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。