院長インタビュー

地域に溶け込んだ精神科診療に取り組み続ける、さわ病院

地域に溶け込んだ精神科診療に取り組み続ける、さわ病院
澤 温 先生

社会医療法人北斗会さわ病院 会長兼最高顧問

澤 温 先生

この記事の最終更新は2018年08月03日です。

大阪府豊中市にある、さわ病院の院長を務めておられる澤 温(さわ ゆたか)先生は、「地域は病院だ、家庭は病室だ、町中開放病棟だ」という考えのもと、精神科医療と福祉、高齢者医療と福祉、特に認知症診療の充実と、これらを地域へと浸透させるための活動にご尽力されてきました。

精神科診療に対する考え、さわ病院の診療の特長、これまでの取り組み、地域にお住まいの方や後進の医師に伝えたいことなどについて、澤先生にお話を伺いました。

病院外観(さわ病院よりご提供)

体の病気も心の病気も、医療機関での治療が終了すれば終わりということは少なく、何かしらの継続的な医療が必要なことがほとんどです。そのため、病気の程度や進行具合などに応じて、患者さんが必要とする医療サービスを切れ目なく提供できる体制の整備が必要です。すなわち、患者さんが置かれた環境や生活、コミュニティとのつながりを意識しつつ、病院やご家庭など場所の違いにとらわれない包括的な支援が、重要な意味を持つのです。

特に地域との関係がしっかりしていると、「病気になっても地域に見守ってもらえる」という患者さんの安心感にもつながるため、精神科医療では重視されています。反対に、地域との関わり方を考えないことには患者さんのための医療とはいえないのではないか、とも考えています。

精神科の医師と精神科病院の院長それぞれの立場から、精神科診療に向き合って出てきた考えをまとめたものが、「地域は病院だ、家庭は病室だ、町中開放病棟だ」という言葉です。

父の跡を継いで院長に就任して数年後、サンフランシスコとバンクーバーの医療機関を視察したことがあります。

精神疾患を有する患者さんへのケアの方法を知るのが目的だったのですが、当時の日本ではあまり導入されていなかったグループホームの存在やその仕組みを知る機会にも恵まれました。グループホームの患者さんの姿を目にして、日本の患者さんにも役立てたいと考え、帰国後グループホーム「キャッスルヒル」「北斗ハイツ」それぞれの開設に取りかかりました。

精神科病院建設では地域の方からご理解をいただきにくく、ときに厳しいご意見をいただくこともあります。関連施設を開設する際には、周辺地域にお住まいの方から反対意見も寄せられました。

このときは、地域にお住まいのみなさんに向けた説明会を開催、社会にとって必要な病院であることを理解していただき、精神疾患や患者さんに対する誤解を解き偏見をなくすため説明を重ねた結果、少しずつ賛同の声をいただけるようになりました。

 

このように、さわ病院のあゆみは、患者さんや地域に必要とされるサービスを提供するための挑戦の連続だった、といえるでしょう。

診察室(さわ病院よりご提供)

患者さんの症状を改善して、社会に復帰してもらい、病気などを抱えながらもその方らしい生活を営み、満足に過ごせるようにする。これが、さわ病院が社会に対して果たすべき使命であり、達成すべき目標であると考えています。

さわ病院では、急性期から社会復帰まで、精神疾患を有する患者さんの状態に応じた診療やケアを継続して提供できるよう、職員一同努めています。

診察室内の様子(さわ病院よりご提供)

面談や検査をつうじて、患者さんが抱える身体的・心理的・社会的要因を探し、症状などの状態を診ながら診療を進めます。特に、うつ病による自殺はいまだ深刻な社会問題のため、うつ病や抑うつ状態の早期発見・早期治療や十分なケアをつうじて自殺予防などに努めています。

災害発生時には職員をDPAT(都道府県が組織する災害派遣精神医療チーム)に派遣して、現地での精神科診療のサポートも積極的に行っています。今後は発達障害、児童精神疾患、睡眠障害に対する診療にも力を入れる予定です。

救急入口(さわ病院よりご提供)

 

さわ病院では精神科救急にも対応しています。自殺未遂、認知症をはじめ救急状態の患者さんを診て、治療を含め迅速に適切な対応をとることは、患者さんのより早い社会復帰のために欠かせません。当院は行政のシステムができるずっと前から、精神科救急に尽力してきました。

精神科救急の重要性は、多くの方が認識されているところです。しかし現実には、救急搬送を受け付けていない精神科病院も多く、また精神科の医師を配置していない一般身体科の救急医療機関も多くあります。そのため、救急車応需拒否と搬送困難事案の増加が深刻化しています。

高齢化進行に伴い、認知症患者さんの数も増加すると見込まれていますが、高齢の方が身体疾患を合併していることはとても多いです。今後、精神疾患を有する患者さんの身体合併症や緊急度などを適切に判断するため、まず身体科で受け入れ治療した後に精神科へ送ったり、状況に応じて身体科に戻したりするといったように、身体科と精神科の協同診療体制の強化が急務と考えています。

サービスセンター入口(さわ病院よりご提供)

さわ病院では、院内に併設する認知症疾患医療センターが中心となり、もの忘れに対する診療と、患者さんやご家族などを対象に精神保健福祉士による相談を行っています。

認知症の症状は「もの忘れ」と思われがちですが、病気の進行とともに抑うつ状態や暴言など精神の不安定のほか、不眠、便秘など身体症状が現れることも多いです。ご自宅等での療養が難しい方には入院をご案内して、症状の緩和や病気の進行をゆるやかにする精神療法や薬物療法などをします。入院による身体機能低下を防ぐため、各種レクリエーションや作業療法なども行います。

ご自宅での療養を希望される認知症患者さんに対しては、デイケア「オレンジ倶楽部」をご案内しています。オレンジ倶楽部では、通所によるリハビリテーションなどをつうじて心身機能の維持や向上を目指せるほか、介護によって患者さんとご家族の双方にかかる負担の軽減にも貢献しています。

さわ病院では、大阪府北部の精神科診療中心地としての実績とノウハウ、医師のマンパワーをいかして、精神医学教育・研修にも力を入れています。

当院の研修の目的は、医療人に必要な倫理性・社会性の涵養、学問による自己研鑽、コアコンピテンシーの習得、積極的な学術活動により、精神保健の向上と社会福祉に貢献できる医師の育成です。先に身体科で学んだ知識をいかしながら、精神科救急や身体合併症を有する認知症患者さんも診療して、ときに患者さんに直接アクセスするため自発的に地域に出向くことは、その後の医師人生でも非常に有意義な経験といえるでしょう。

また当院は、各種画像検査や血液検査、生理検査など検査設備を有しているので、院内にいながら全身状態を評価することが可能です。

当院を受診された患者さんがその方らしい生活を過ごせるよう、精神科救急から認知症診療までさまざまな場面で求められる看護を実践しています。

病院全体で仕事のオン・オフの切り替えを徹底していることもあり、勤務時間中は忙しくても、休むときはしっかり休んでリフレッシュする文化が根付いています。また院内にカトレア保育園を併設しているため、子育てしながら活躍する看護師が多いのも特長です。

またグループ内で北斗会看護専門学校を運営しており、必要な知識と人間性を兼ね備えた看護師を毎年多数輩出しています。

精神疾患は誰もがなりうる可能性があり、決して特別な病気ではありません。その症状は、数か月スパンで改善されることが多いです。患者さんの病気のみに注目するのでなく、患者さん本人にも向き合って話に耳を傾け客観的に接するようにしてください。

精神科の医師として、精神科病院の院長として、これまで多くの患者さんと接して得た経験を、「社会医療法人北斗会医療憲章こころ病む“ひと”をみる人のための10ケ条」にまとめました。私の行動指針と自戒の言葉として、今でも大切にしています。みなさんも自身の自分なりの行動指針を作り、自律に努めてください。

北斗会 医療憲章(さわ病院よりご提供)

「地域は病院だ、家庭は病室だ、町中開放病棟だ」の考えに基づき、患者さんを「生活者」ととらえてサポートする精神科診療の充実と発展に努めてきました。しかし、精神疾患に対するイメージの払拭、自殺率の引き下げ、精神科救急体制の整備、高齢社会到来によって増加する身体症状を有する認知症患者さんへの対応など、精神科診療が抱える問題は未だ山積しています。

大阪府北部の精神科医療を支える病院として、診療などの活動をつうじて精神科診療の重要性を発信し続けることで、精神科診療の向上に努めていきたいと考えています。

対応が丁寧だったか、親身だったか、治療効果を実感できたかなど、満足感を感じるポイントはそれぞれです。さわ病院では、「この病院に来てよかった」と思ってもらえるような診療を心がけています。

退院すると薬の服用を止めてしまう方もいますが、処方された薬を飲まないと病気が再発する可能性が高くなります。薬は処方された量を守って飲むようにしてください。

精神疾患は誰もが発症する可能性があります。病気そのものや患者さんに対し偏見を抱くなど特別視するのでなく、ほんの少しだけ理解を深めてもらえればと考えています。

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  • 社会医療法人北斗会さわ病院 会長兼最高顧問

    澤 温 先生

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