連載こんな時は要注意!脳が発するSOS

繰り返す鼻血に潜む難病

公開日

2019年04月01日

更新日

2019年04月01日

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2019年04月01日

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東京都立多摩総合医療センター 脳神経外科 部長

太田 貴裕 先生

「オスラー病」を知っていますか【1】

鼻血(鼻出血)は多くの方が1度は経験したことのある症状だと思います。鼻をかんだときにおきやすいですし、突然出ることもあります。お子さんが、鼻がかゆくていじると鼻血が出やすくなります。たかが鼻血と思われるかもしれませんが、その裏に別の病気が潜んでいることがあります。

「鼻血の家系」ってあるの?

「母もよく鼻血を出していましたし、おばあちゃんもそうだったようで、母からは『うちは鼻血の家系だから』と聞いています」「毎週のように鼻血が出ます」「ただ最近鼻血が出るときには15分とか20分くらい続くことがあるんです」。60代女性の患者さんはそう言います。鼻血が出たときには、ティッシュペーパーを小さく丸めて鼻の中に詰めているそうです。

でも、多くの方はそこまで頻繁に鼻血は出ないと思います。“鼻血の家系”ってあるのでしょうか?

この患者さんの問診と視診で、「鼻血」以外にも「手の指や唇に赤いポツポツがあること」「ご家族に同じ症状の方がおられること」を確認したうえで、「オスラー病」と診断しました。

遺伝のイメージ

なかなか診断されない病気

オスラー病は「遺伝性毛細血管拡張症(Hereditary Hemorrhagic Telangiectasia: HHT)」のことで、指定難病に認定され、日本には約1万人以上の患者さんがいると推定されています。ただ、症状が現れる場所が鼻腔(びくう)、脳、肺、肝臓、皮膚、消化器などさまざまで、受診する科も多くなってしまうために、患者さんがオスラー病と診断されるのが難しかったり、診断されるまでに時間がかかったりすることが多くみられます。また、自分がオスラー病で、症状が出ている、ということに気付いていない方も多いと思われます。

オスラー病には診断基準があります(この基準が決められた会議が開催された地名から「Curacao criteria<キュラソー・クライテリア>」といいます)。

1)繰り返す「鼻血」

2)皮膚や粘膜の「毛細血管拡張」(口唇、口腔、指、鼻が特徴的で、他に眼球結膜や耳も)

3)肺、脳、肝臓、脊髄、消化管の動静脈瘻(どうじょうみゃくろう)や動静脈奇形(いずれも動脈と静脈が末梢<まっしょう>血管を経ずにつながる病気で、まとめて「シャント=短絡」と表現することもあります)

4)第1度近親者(両親、兄弟姉妹、子ども)にこの病気の患者さんがいる

この4項目のうち該当するものが3つ以上あると「確診(definite)」、2つで「疑診(probable)」、1つだけならば「可能性が低い(unlikely)」とされます。ただし、子どもは普通でも鼻血が出ることがよくあります。また、この基準の「鼻血」には量や回数に決まりはありません。ある程度の年齢になってから出現する症状もあるので、子どもは該当項目が2つであっても、注意して観察することが必要です。

多岐にわたる症状

では、具体的にどのような症状があると、オスラー病が疑われるでしょう。

  • 鼻血がある(出血量はまちまちです)
  • 息苦しい感じがある。坂道・階段がきつい(肺動静脈瘻の可能性があります)
  • 肺・脳・脊髄・消化管・肝臓などの動静脈瘻(シャント)と診断されたことがある
  • 慢性の貧血がある(胃粘膜の毛細血管拡張からじわじわと出血して貧血になっていることがあります)
  • 短時間、言葉が出なくなったり、半身の麻痺が出たりしたことがある(脳梗塞<こうそく>の前触れの症状かもしれません。肺動静脈瘻があると血栓と呼ばれる血の塊が脳へ飛んでいく可能性があり脳梗塞を起こしやすくなります)
  • 親族にオスラー病の患者さんがいる
  • 親族に高頻度の鼻血・脳膿瘍(のうのうよう)・肺出血・呼吸困難などの症状の方がいる
  • 親族に若くして亡くなった方がいる

また、口唇・舌・顔面の皮膚・体幹・指に毛細血管の拡張が認められる場合があります。見慣れた医師ならば視診ですぐに分かります。

重い合併症を起こすことも

この病気は全身の血管に異常が起こり、出血症状がおこる遺伝性の疾患です。原因として、代表的な2つの遺伝子が分かっています。症状はいろいろですが、この病気の遺伝子はそれを持つ親御さんからお子さんへ伝わり、両親の一方がオスラー病の場合、お子さんもオスラー病の遺伝子を持つ確率は50%となります。ただし、病気の遺伝子を受け継いだからといって必ずしも発症するわけではありません。

オスラー病は全身にいろいろな病気をおこし、重症の合併症を起こすことがあります。例えば、今回紹介した頻回の鼻血であれば、大量出血した場合には血圧が低下したり意識を失うような出血性ショックの状態になったりする可能性があります。前述のように遺伝子に原因があるため、根本的な治療法は今のところありませんが、オスラー病のさまざまな合併症の多くが予防可能です。オスラー病と診断された場合には、脳や肺など必要な検査を行い、予防できる病変については治療を受けていただくことをお勧めすることがあります。

オスラー病の患者さんの鼻出血の治療法

鼻からの出血を繰り返す場合、鼻の中を加湿することが大事です。マスクをつける、鼻孔(鼻の穴の入り口に近い部分、中ではありません)に綿球をそっと入れるだけでも効果があります。

マスクをつける女性

もし鼻血が出たときは座って軽く下を向き、血液がのどに流れにくいようにして、ティッシュなどを詰めずに鼻を外からつまむような感じで(鼻翼を押さえて)圧迫します。大量の出血で貧血になるような場合には輸血をしないと命に係わることもあるので、病院を受診してください。なかなか血が止まらない場合や、血の塊がのどをふさぐような場合には救急車を呼んで病院を受診したほうが良いでしょう。

オスラー病を疑った場合、どの病院を受診すればよいのか?

オスラー病については日本オスラー病患者会があります。また、患者会のウェブサイトには日本国内でオスラー病を診察できる病院については診療可能な病院リストが掲載されています(「オスラー病」「医療施設情報」で検索してください)。ただし、全国で46病院(2018年12月現在)と少数のため、簡単には診察を受けられない方もいるかもしれません。普段から鼻出血が頻発するなど気になる症状がある場合、上記病院リストの担当医師にメールで質問する方法もあります。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

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東京都立多摩総合医療センター 脳神経外科 部長

太田 貴裕 先生

脳神経外科のエキスパート。脳動脈瘤・頚動脈狭窄症・脳動静脈奇形・もやもや病に対する血行再建術などの脳血管障害全般における開頭手術と血管内治療のハイブリッド治療を行っている。血管内治療による急性主幹動脈閉塞症に対しての経験が豊富であり、また髄膜腫・神経鞘腫など良性脳腫瘍の外科治療も手掛けている。