「環境ホルモン」という言葉を覚えていますか? 一時期大きな関心を集め、テレビやニュースでも散々取り上げられたことが記憶に新しい方もまだたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、「危ない」「何だか怖い」というイメージばかりが残り、具体的に環境ホルモンとは何なのかという知識については、あまり印象に残っていないかもしれません。今回は、山王病院病院長の堤治先生に、環境ホルモンとはいったい何なのか、環境ホルモンが発生する原因は何なのかについて解説していただきました。
世界保健機関・国際化学物質安全性計画(WHO/IPCS)の定義によると、endocrine disruptor(内分泌かく乱物質)とは「内分泌の機能に変化を与え,それによって個体やその子孫あるいは集団(一部の亜集団)に有害な影響を引き起こす外因性の化学物質あるいは混合物」といわれています。
外因性内分泌かく乱物質・外因性内分泌かく乱化学物質などという名前もありますが、日本では環境ホルモンと呼ばれています。Environmental hormoneという英語はありませんから、環境ホルモンとは、日本独自の命名ということができます。環境ホルモンは主に性ホルモンに似た働きを示しますが、真の意味でホルモンではありません。
構造的にはエストロゲンに非常によく似ていて、ある時は女性ホルモンであるエスロトゲン作用をするかと思えば、あるときはエストロゲンの作用を抑える抗エストロゲン作用をすることもあります。まさしくホルモン作用をかく乱します。
ホルモンは体内で分泌されるものであり、環境ホルモンとはある一つのホルモンあるいは物質の名前ではありません。生体のホルモンの働きを狂わせてしまう物質の総称です。環境ホルモンは、体内の正常な働きをするホルモンの働きを過剰にしたり、逆に働かなくさせてしまいます。これにより、様々な異常が引き起こされます。
たとえば、性ホルモンのかく乱がそれです。生殖器の異常や精子減少症、卵巣がん、乳がん、はたまた性行為の異常なども環境ホルモンの影響ではないかと考えられています。
環境ホルモンは今まで地球上にいなかった人間が作り出した化学物質です。化学物質のなかには、ホルモンのような働きをする物質があります。環境ホルモンはありとあらゆる箇所に存在し、日々の生活の中で、無意識のうちに体の中に取り入れられています。身近にある環境ホルモンとして具体的なものはサランラップに含まれるノニルフェノール、塩化ビニールの手袋に含まれるフタル酸、ごみを燃やすことで発生するダイオキシン、絶縁物質のPCBなどが有名です。
そういうものがいったん環境を汚染してしまい、体内に取り込まれると、それらの物質がホルモンの働きを妨げたりホルモンの代わりとなってしまったりします。繰り返しますが、人類が作り出した化学物質には環境ホルモンとして働くものが多く存在するのです。
植物エストロゲン(ゲネスティン)も環境ホルモンの一種と言われています。大豆に含まれるダイゼインなどがそれに当てはまります。これは当然ながら自然界に存在するものなので、人物が作り出したものではありません。ですから植物エストロゲンは環境ホルモンではないという意見もありますが、大きな意味での環境ホルモンと言って差し支えないでしょう。
山王病院(東京都) 名誉病院長
堤 治 先生の所属医療機関
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