インタビュー

BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)とは―がん細胞だけを破壊する治療法

BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)とは―がん細胞だけを破壊する治療法
宮武 伸一 先生

大阪医科大学医学部付属病院 がんセンター先端医療開発部門特務教授

宮武 伸一 先生

この記事の最終更新は2015年09月25日です。

外科手術で取り除くことが難しいがんにおいても、抗がん剤や放射線療法によって健康を回復できるケースが増えています。

ただし、これらの治療は身体的負担が大きい治療法です。がん細胞と同時に健康な細胞にまでダメージを与えてしまうため、身体的負担が大きくなりすぎる場合は抗がん剤や放射線による治療法が困難になります。しかし、このような場合でも中性子線を体外から照射してがん細胞だけを破壊できるBNCT(ホウ素中性子捕捉療法)という治療法が注目を集めています。

本記事では、大阪医科大学医学部付属病院がんセンター先端医療開発部門特務教授 宮武伸一先生に、BNCTとはどのような治療法なのか詳細に解説していただきます。

BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)とは、Boron Neutron Capture Therapy の頭文字を取ったものです。中性子線(放射線の一種)を体外から照射してがんの治療を行う方法です。中性子線を利用するという点においては、広義の意味で放射線療法ともいえますが、従来の放射線療法とは治療のメカニズムが大きく違います。また、後述するようにがんに選択的に取り込まれるホウ素化合物を点滴するため、化学療法という側面もあります。つまり、これによりがん細胞に選択的にダメージを与えられるという特徴があるのです。健康な細胞にはまったくダメージがないというわけではありませんが、負担は少なくなります。

あらかじめ、がん細胞の細胞内に選択的に取り込まれる(がん細胞には大量に取り込まれるが、正常細胞に取り込まれる量は少ない)特性があるホウ素化合物を患者さんに点滴しておきます。

この状態で患者さんに中性子線を照射すると、がん細胞の内部に取り込まれたホウ素化合物が「アルファ線」と「リチウム線」を放出します。これらの粒子線は、がん細胞内部で非常に高いエネルギーを発生させるため、結果としてがん細胞が死滅してしまいます。

がん細胞内部に膨らむホウ素が、アルファ線を放出してがん細胞のみを死滅させる

また、これらの粒子線は発生直後に高エネルギーを発生させるものの、ほぼ細胞1個分程度の距離を移動すると消えてしまいます。したがって、がん細胞の内部から粒子線が放射されても、周囲の健康な細胞まで損ねてしまう可能性は低いとされています。

BNCTによるがんの治療イメージ

従来、中性子線は、原子炉がなければ照射することが困難でした。しかし加速器(サイクロトロン)の実用化によって、陽電子をベリリウム等の金属(ターゲット)に照射することで、以前より容易に中性子線を発生させられるようになりました。原子炉は非常に大きく、病院に導入することは難しくなります。しかし、加速器にはなんといっても小さいというメリットがあり病院に導入することも可能になります。その結果、これらの治療が可能となっています。

サイクロトロン型小型加速器

BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)が実施できる施設は現時点(2015年)では限られています。日本国内では、大阪医科大学、京都大学原子炉実験所、筑波大学、川崎医科大学、四国こどもとおとなの医療センター(香川県)、徳島大学などです。

また、現段階では健康保険が適用になる医療として認可されるには至っていません。陽電子を発生させるサイクロトロンについても、医療機器として認可されるに至っていないため、医療機器の認可取得および保険適用での治療ができるよう、治験を進めています。