インタビュー

BNCTとがんの治療

BNCTとがんの治療
宮武 伸一 先生

大阪医科大学医学部付属病院 がんセンター先端医療開発部門特務教授

宮武 伸一 先生

この記事の最終更新は2015年09月26日です。

BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)とは、がん細胞だけが取り込むホウ素化合物を点滴し、体外から中性子線を照射してがん細胞内部からアルファ線とリチウム線を発生させて死滅させる治療法です。従来の抗がん剤や放射線療法と違って、がん細胞に大きくダメージを与える反面周囲の正常細胞のダメージが少ないという特徴がありますが、全ての患者さんに実施できるとはかぎりません。

本記事では、大阪医科大学医学部付属病院がんセンター先端医療開発部門特務教授 宮武伸一先生に、BNCTによるがん治療の適応や効果、リスクとデメリット、他の治療法とどのように違うのかについて解説していただきます。

BNCTの対象となるがんは、悪性脳腫瘍悪性黒色腫、頭頸部腫瘍、一部の肝臓がん、肺がん大腸がん骨肉腫です。ただし、現時点では臨床研究を行っている段階のため、今後他のがんの治療にも適用される可能性はあります。また現状で多い相談は、「手術や抗がん剤などあらゆる治療をすべて行った上でも再発をしてしまうが、なんとかならないか」というものです。これを受けてBNCTによる治療をしているケースもあります。また、ほかの放射線治療(X線、陽子線)では治療に反応しないがんもBNCTの治療対象になります。

世界初の頭頸部がんに対するBNCT は、再発耳下腺がんに対するものでした。2 度に分割してBNCT を行った結果、がんは縮退し、皮膚は乾性落屑(皮膚が乾燥して皮膚の表層が細かくはがれ落ちる状態)すら起こさなかった(つまり、健康な部分への影響は極めて小さかった)ことが報告されています。

その後の研究で、悪性脳腫瘍、特に悪性神経膠腫にはBNCTが効果的であることが少しずつわかってきています。BNCTでは一度に大線量の照射が可能です。そのため、X線治療では見られない早期(2日程度)の腫瘍の反応(MRI 画像の造影病巣の縮退・消失)が見られることも珍しくありません。

また、BNCT後に手術を行って病理組織検査を行ったところ、がんの完全消失が確認される一方で、耳下腺や脂肪細胞がしっかりと残っていることが確認されています。このことから、BNCTはがん細胞だけを選択的にダメージを与える治療法であるとして、現在も研究が続けられています。

BNCT(中性子捕捉療法)は放射線治療の一種です。従来の放射線療法と違って、正常細胞にダメージを与えにくい治療法ではありますが、放射線を体に浴びるリスクはゼロにはなりません。少ない可能性ながら、急性期の放射線障害(下痢など)、あるいは1~2年後以降に晩発性の放射線障害(白血球減少など)が起こる可能性があります。

また、確実にすべてのがん細胞を死滅させられるとは限りませんので、再発の可能性はあります。そのため、治療後も定期的な通院が必要になります。

加えて、脳に対してのBNCTは一生のうち原則として1回しか行えません。耐容線量が小さい(放射線による悪影響が出やすい)ためです。耳下腺など、数回BNCTを行うことができる臓器もあります。

現時点で広く実施されている放射線治療は、X線やガンマ線と呼ばれる放射線を使っています。しかし、広い範囲に微小浸潤(がんの範囲は広いものの、浸潤している深さは小さい)するがん(悪性グリオーマなど)を放射線療法で治療するためには、広い範囲の正常組織に大量の放射線を照射する必要が生じます。すると当然のことながら、微少浸潤がみられるがん細胞周囲の正常細胞は、放射線によってダメージを受けます。そのため、治療が困難となっているのです。

一方、BNCT治療によって中性子線を体外から照射した場合、がん細胞内にあらかじめ取り込まれたホウ素が核分裂を起こしてアルファ線と7Li粒子を放出します。

これらは従来の放射線療法で使われてきたX線やガンマ線と異なり、がん細胞の隣にある正常細胞まで届きにくいため、がん細胞だけにダメージを与えることが期待できます(正確には正常細胞もダメージは受けますが、がん細胞に比較して明らかに少なくなります)。

また、BNCTで発生するアルファ線と7LiはX線やガンマ線に比べて生物学的な効果が6倍程度高いとされており、治療効果が高いことが期待されています。

そのほか、BNCTには「ホウ素化合物」を点滴するという点で化学療法としての側面もあります。すなわち、従来の放射線治療と化学療法の良い点を集めた「ハイブリッド治療」といえるのではないでしょうか。

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