染色体や遺伝子に関する分野の研究は近年目覚ましい進歩を遂げており、病気の原因が染色体レベル、遺伝子レベルでわかるようになってきました。今回は染色体異常疾患、遺伝子異常疾患について、大阪医科大学小児科教授の玉井浩先生にお話をお伺いしました。
染色体異常疾患とは、染色体の変異によって起こる病気全般を指します。染色体異常は新生児の約0.6%の頻度で生じるといわれており、大きくわけて構造異常と数的異常の2つに分けることができます。
注意していただきたいのは、染色体は両親から受け継ぐものではありますが、必ずしも遺伝しているわけではないということです。両親の染色体が正常でも、卵子、精子を形成する際、また受精卵を形成する際など様々な過程で変異が生じることがあります。「遺伝性疾患」という言葉が一人歩きしてしまっていることで、染色体異常は遺伝する病気だと考えている方もいらっしゃるので、気をつけて考えていかなければなりません。
次に遺伝子異常疾患ですが、染色体異常が遺伝子をコードしている構造そのものが大きく変異しているのに対し、遺伝子異常というのは、一つの遺伝子が変異することで生じる単一遺伝子疾患、またはいくつかの遺伝子に変異が加わることで生じる多因子遺伝子疾患などがあります。
単一遺伝子疾患はさらに、常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝、X連鎖性劣性遺伝に分類されます。優性遺伝というのは、一対の遺伝子のどちらか片方が、その異常遺伝子を持つ場合に発症してしまう遺伝形式であり、劣性遺伝というのは一対の遺伝子のどちらも異常遺伝子をもつ場合にのみ発症する遺伝形式を指します。
遺伝子がコードされている染色体が常染色体の場合かX染色体の場合かによって、男女の発症の違いが生じるため、このように分類されています。
遺伝子異常の原因も、遺伝的要因と環境要因のどちらもあり得ます。遺伝的要因の場合は、優性遺伝では患者の両親のいずれか(または両方)も患者であり、劣性遺伝では、患者の両親ともに変異遺伝子の保因者ということになります。環境要因の中には、放射線、化学物質など様々なものが含まれ、原因不明のことも多々あります。
前述のとおり、染色体異常疾患は構造異常と数的異常に分けることができます。構造異常とは、染色体の一部が切断されて違う染色体とくっついてしまったり、ひっくり返ってしまったりと、1本の染色体の中で構造自体が変わってしまう異常のことをいいます。
一方、数的異常とは、染色体の本数が少なかったり、多かったりする状態のことを指します。染色体はひとつの細胞に23組ありますが、その1組1組が、母由来の1本と父由来の1本、合計2本から成り立っています。つまり、1つの細胞には46本の染色体があるというのが正常の状態です。しかし、分裂の過程で2本のところが3本になっていたり、1本になっていたりすることもあります。
1本しか存在しない状態をモノソミー、逆に3本の状態をトリソミーといいます。
例えばX染色体が1本しかない状態をターナー症候群といいます。また性染色体が1本多く、XXYとなっている性染色体トリソミーの状態をクラインフェルター症候群といいます。
常染色体では13、18、21番染色体でトリソミーが生じやすいことがわかっています。13、18トリソミーは実際のところ自然流産となることが多く、万が一流産にならなかった場合でも生後1週間以内に半数以上が亡くなってしまい、現在のところ治療法も確立されていません。なお、21トリソミーはダウン症として広く知られています。
大阪医科薬科大学 名誉教授/小児高次脳機能研究所・LDセンター顧問
日本小児神経学会 小児神経専門医日本小児科学会 小児科専門医
大阪医科大学卒業後、小児科専門医・小児神経専門医を取得。現在は大阪医科薬科大学小児高次脳機能研究所・LDセンター顧問として、学習障害をはじめとする発達障害、ダウン症やウィルソン病の研究、診療に当たっている。患者さんの病気ではなく、まずその人を知ること、そしてより社会に知ってもらうことを目指し幅広い活動を続けている。特にダウン症・ウィルソン病を専門領域とし、臨床・研究のみならず、ウィルソン病友の会の顧問医師や日本ダウン症療育研究会会長として、ウィルソン病患者やダウン症児、またその家族のサポートに力を入れている。
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