インタビュー

新生児低体温療法とはどのような治療法?

新生児低体温療法とはどのような治療法?
海野 光昭 先生

聖マリア病院

海野 光昭 先生

この記事の最終更新は2016年01月02日です。

新しい命が誕生するお産の現場では、思わぬアクシデントが起こることも少なくありません。仮死などで生まれた赤ちゃんでは、そのときの対応によって、その子の人生にも大きな影響を与えることにもなりかねません。出産時に受けたダメージをより最小限に抑えるための治療法が低体温療法です。飯塚病院で低体温療法に取り組んでいる小児科の海野光昭先生にお話しを伺いました。

本来、赤ちゃんには、出産時に受けるさまざまなストレスに対する防御機能が備わっています。しかし、その防御機能の限界を超えるダメージ、例えば出産時の仮死や胎盤早期剥離(胎盤が子宮の壁からはがれること)などのダメージがかかると赤ちゃんの脳の機能は障害され、新生児脳症という状態に陥ります。

赤ちゃんが受けたダメージが大きい場合、いわゆる脳性麻痺や寝たきり状態といった重度の障害(精神運動発達遅滞)が残ることも少なくありません。こういった出産時に受ける赤ちゃんへのダメージを最小限に抑え、障害を回避することを目的に行われているのが新生児低体温療法です。

新生児低体温療法とは、簡単にいうと赤ちゃんの体温を下げる治療法のことです。通常の赤ちゃんの体温は36℃台後半から37℃台なのですが、それから3℃ほど低い33.5℃まで体温を下げ、その状態を72時間続けます。これにより、出産時に受けた仮死などのストレスによって起こる脳への有害な事象を抑えることができる有効な治療法として、NICU(新生児集中治療室)で行われるようになりました。

治療は専用の冷却装置を用います(選択的頭部冷却もあるため)。冷やす装置に赤ちゃんを入れて行います。

この治療法は、2010年に国際蘇生法連絡協議会(ILCOR: The International Liaison Council of Resuscitation)の蘇生法勧告2010において標準治療として推奨されました。

そして日本でもこれを受け、日本蘇生協議会からガイドラインが出されました。ガイドラインでは、中等度あるいは重度の新生児仮死に対する治療法として新生児低体温療法が強く推奨されています。

低体温療法は、どんな赤ちゃんにでもできるというものではありません。治療を行うにあたっては適応が決められていますので、ガイドラインの基準に沿って実施されることになります。また、除外基準といって、低体温療法を行うことができない場合も基準のなかで決められています。

  1. 妊娠36週以上での出産であること(正期産またはそれに近いこと)
  2. 体重が2500グラム以上あること
  3. 生後6時間以内であること
  4. 低酸素虚血の存在を示す所見(医学的な知見に基づいた判断)があること
  5. 中等度以上の新生児低酸素性虚血性脳症(赤ちゃんの脳に酸素を含んでいる血が行き届かず、様々な脳神経障害を起こす障害の総称)を示していること
  1. 生後6時間を超えている
  2. 妊娠36週未満である
  3. 出生体重が1,800グラム未満である
  4. 大きな奇形を認める
  5. 必要な環境がそろっていない
  1. 正期産(37週~41週の間に生まれた胎児)もしくは正期産に近い児で中等症から重症の低酸素性虚血性脳症に対しては低体温療法が行われるべきである
  2. 全身冷却法、選択的頭部冷却法ともに、適切な方法である
  3. 低体温療法は、明確に定義されたプロトコールに則って、新生児集中治療と関連科による診療を行う能力のある施設で行われるべきである
  4. 治療法は、無作為比較試験で使われたプロトコール(生後6時間以内に開始し、72時間冷却し、少なくとも4時間はかけて複温(体温を上げる)する)と同じものであるべきである
  5. 冷却による副作用、特に低血圧と血小板減少には注意する。低体温療法を受けた児は、長期フォローアップが必要である

日本蘇生協議会のホームページも参照にしてください。