新しい命が誕生するお産の現場では、思わぬアクシデントが起こることも少なくありません。仮死などで生まれた赤ちゃんでは、そのときの対応によって、その子の人生にも大きな影響を与えることにもなりかねません。出産時に受けたダメージをより最小限に抑えるための治療法が低体温療法です。飯塚病院で低体温療法に取り組んでいる小児科の海野光昭先生にお話しを伺いました。
本来、赤ちゃんには、出産時に受けるさまざまなストレスに対する防御機能が備わっています。しかし、その防御機能の限界を超えるダメージ、例えば出産時の仮死や胎盤早期剥離(胎盤が子宮の壁からはがれること)などのダメージがかかると赤ちゃんの脳の機能は障害され、新生児脳症という状態に陥ります。
赤ちゃんが受けたダメージが大きい場合、いわゆる脳性麻痺や寝たきり状態といった重度の障害(精神運動発達遅滞)が残ることも少なくありません。こういった出産時に受ける赤ちゃんへのダメージを最小限に抑え、障害を回避することを目的に行われているのが新生児低体温療法です。
新生児低体温療法とは、簡単にいうと赤ちゃんの体温を下げる治療法のことです。通常の赤ちゃんの体温は36℃台後半から37℃台なのですが、それから3℃ほど低い33.5℃まで体温を下げ、その状態を72時間続けます。これにより、出産時に受けた仮死などのストレスによって起こる脳への有害な事象を抑えることができる有効な治療法として、NICU(新生児集中治療室)で行われるようになりました。
治療は専用の冷却装置を用います(選択的頭部冷却もあるため)。冷やす装置に赤ちゃんを入れて行います。
この治療法は、2010年に国際蘇生法連絡協議会(ILCOR: The International Liaison Council of Resuscitation)の蘇生法勧告2010において標準治療として推奨されました。
そして日本でもこれを受け、日本蘇生協議会からガイドラインが出されました。ガイドラインでは、中等度あるいは重度の新生児仮死に対する治療法として新生児低体温療法が強く推奨されています。
低体温療法は、どんな赤ちゃんにでもできるというものではありません。治療を行うにあたっては適応が決められていますので、ガイドラインの基準に沿って実施されることになります。また、除外基準といって、低体温療法を行うことができない場合も基準のなかで決められています。
日本蘇生協議会のホームページも参照にしてください。