がんに対する侵襲性の少ない治療法として近年注目を集めている「放射性治療」。かつては、がん周囲の組織まで放射線を照射してしまうリスクなどが懸念されていましたが、技術の進歩により、現在では安全かつ確実に放射線によるがん治療ができるようになりました。がんに対する放射線治療の進歩について、高邦会高木病院放射線治療センター長の早渕尚文先生にお話しいただきました。
放射線治療を受けるがん患者さんは、1995年から2010年までの15年でおよそ3倍も増加しました。
【放射線治療患者数の推移】
1995年2005年2010年
新患数(人)7.1万15.6万20.1万
施設数(件)504735770
施設平均患者数(人)142220311
(日本放射線腫瘍学会 データベースより)
上記の表からもわかるように、放射線治療を行うことのできる施設もおよそ1.5倍程度は増加していますが、急増する患者数には追いついておらず、結局「1施設ごとの患者数が急激に増えている」というのが現状です。
まずは、なぜ放射線治療を受ける患者数が増えているのかということからお話ししましょう。
これまでは、放射線治療は「たいして効果がない上に副作用が強い治療法」であると認識されていました。根治可能ながんに対しては基本的に外科的治療(手術)が行われており、放射線治療は末期のがんなど、「もう放射線治療“しか”ない」という絶望的な状況で使用されるものでした。本来は、放射線治療も外科的な治療同様にがんの「根治的治療」のひとつです。しかし、放射線の照射によりがんの周囲の正常組織まで壊されてしまうため、がんを治癒させるために必要な線量を十分に投与できなかったという背景があり、上記のように絶望的な状況にまで進行してはじめて放射線治療が選択されていたのです。
しかしながら、近年の画期的な技術の進歩により放射線治療の治療成績は著しく向上し、放射線治療は末期のがんに対してのみ使用されるものではなくなりました。これが、放射線治療を受ける患者さんが増加した最大の理由であると考えます。
では、放射線治療の画期的な進歩とはどのようなものか具体的に解説していきます。
1)CT、MRI、PET、エコーなど、画像診断の進歩により、①何が②どこに③どの範囲にあるのかといったことが精密にわかるようになりました。
2)放射線治療そのものが進歩し、腫瘍には治癒させるために十分な線量を照射しながらも、正常組織の障害を最小限にとどめられるようになりました。こちらは、福岡山王病院の放射線治療装置(リニアック)です。
IGRT(Image Guided Radiation Therapy)というのは、「イメージガイド下放射線治療」とも訳されるもので、CTを用いて腫瘍の位置を3次元的に画像で確認しながら、より高い精度で放射線照射を行うことができる装置です。
コンピュ-タの助けを借りて正常組織の照射線量を抑えつつ、腫瘍部分に放射線を集中的に照射できるIMRT(強度変調放射線治療)と名前はよく似ていますが、これとは全く異なるものです。IMRTは非常に短い照射時間で、腫瘍に限局して放射線を照射ができることが特徴です。
加えて、「肺がんに対する手術と低位放射線治療の成績の比較」で詳しくお話する定位放射線治療も、原発性肺がんなどの治療成績の向上に寄与しています。
かつては正常組織にまでダメージを与えていた放射線治療ですが、IGRT、IMRT、定位放射線治療などにより、現在は「ピンポイント治療」が可能になったというわけです。
3)「抗がん剤と放射線治療の組み合わせ」もまた、がんの治療成績を上げています。放射線治療だけでは腫瘍の制御が不十分な場合には抗がん剤を加えるとより効果をあげることが可能です。放射線治療とどの抗がん剤を組み合わせるかについても進歩しています。
高邦会高木病院 放射線治療センタ-長
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