アレルギー疾患のひとつである気管支喘息は、私たち日本人に比較的身近な病気であり、患者数は増加傾向にあります。この気管支喘息の患者さんのうち、一定数の方に「アレルギー性気管支肺アスペルギルス症」の合併がみられます。空気中に無数に存在する「アスペルギルス(真菌)」が原因で起こるアレルギー症状とはどのようなものでしょうか。また、喘息を持っている方が、自分がアレルギー性気管支肺アスペルギルス症かどうかを確認するためにはどのような方法があるのでしょうか。長崎大学 学長の河野茂先生にご解説いただきました。
「喘息の症状」があり、更にX線で肺の写真を撮影すると、肺炎のような「浸潤影」(いわゆる「影」)がみられる病態のことです。
具体的な症状としては、ゼーゼーという呼吸音がする、息苦しさを感じる、咳が出るといった喘息症状に酷似したものが挙げられます。
しかし、一般の方に広く知られている「喘息(気管支喘息)」は気管支に炎症が起こるものであり、X線検査をしても肺に異常陰影がみられることはありません。
また、免疫機能が著しく低下している「コンプロマイズドホスト」(易感染宿主:いかんせんしゅくしゅ)が罹りやすい日和見感染症のような重症度の高い肺炎が起こっているわけでもありません。
では、なぜ肺炎ではなく喘息の症状が出ているにもかかわらず、肺に異常陰影がみられるのかというと、その部分に多くの「好酸球」が集まっているからです。
好酸球とはアレルギー反応をコントロールする白血球のひとつであり、何らかのアレルギー疾患に罹ると増加する物質です。アレルギー性気管支肺アスペルギルス症に感染すると、粘性で褐色の痰が出やすくなりますが、その痰の中にも好酸球の増多がみられます。
ですから、医師は喘息症状を呈している患者さんの肺に異常陰影がみられる場合、気管支肺アスペルギルス症を疑って喀痰の中の好酸球を検査することが重要です。
このほか、気管支肺アスペルギルス症に罹っている方を詳しく検査していくと、末梢血(検査で採る血液)の好酸球の増多、血清総IgE(抗体)の上昇、アスペルギルス抗原に対する皮膚反応が陽性を示す、などといった特徴的な所見もみられます。
これらは全て1977年に出された“ABPA(アレルギー性気管支肺アスペルギルス症のこと):Rosenbergの診断基準”の1次基準と重なるものばかりです。ですから、気管支肺アスペルギルス症は、慢性や侵襲性肺アスペルギルス症に比べると、比較的確定診断がつけやすい病態であるといえます。
1.発作性呼吸困難・喘息
2.末梢血好酸球の増多
3.アスペルギルス抗原に対する即時型皮膚反応陽性
4.アスペルギルス抗原に対する沈降抗体陽性
5.血清総IgE高値>417 IU/mL
6.移動性または固定性の肺浸潤影の既往歴
7.胸部CTにおける中枢性気管支拡張症
アレルギー性気管支肺アスペルギルス症の治療の特徴は、副腎皮質ステロイド薬を使用することで高い効き目が得られることです。免疫力の低下が原因となる侵襲性肺アスペルギルス症では、免疫を抑制してしまうステロイド薬は用いません。
ですから、真菌による疾患であるにも関わらずステロイド薬を用いるということが、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症の最大の特徴といえます。
ただし、ステロイド薬によりアレルギー症状を取り除くことができますが、アスペルギルス自体は体内に棲み続けてしまうので、根治的な治療になるとまではいえません。
喘息の患者さんのうち、平均5%程度、大体20人に1人はアレルギー性気管支肺アスペルギルス症も合併しています。ですから、喘息をお持ちの方は「痰」を観察して、ご自分がアレルギー性気管支肺アスペルギルス症ではないかを確認してみるのがよいでしょう。
気管支喘息だけであれば、白っぽい色味をした粘り気のある痰が出ます。しかし、ドロリとした膿性で褐色(黄色っぽい)の長い痰が出た場合は、ただの気管支喘息ではない可能性があるので注意が必要です。このような痰が出た場合は、容器などに保存してかかりつけ医にみせ、痰の中に好酸球やアスペルギルスがいないか検査してもらいましょう。発見や治療が遅れると慢性化してしまい、元々お持ちの気管支喘息も悪化してしまうことがあります。
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