私たちが日ごろ生活している空間には、「アスペルギルス」をはじめとする真菌(カビ)が無数に存在しています。アスペルギルスはごくありふれた真菌であり、誰もが空気と共に体内へ取り込んでいますが、時としてこの真菌が肺の疾患を引き起こすことがあります。なぜ、どこにでも存在する真菌によって病気になってしまう人がいるのでしょうか?本記事では「肺アスペルギルス症」と総称される3つの病態はどうして起こるのか、長崎大学 学長の河野茂先生にお話しいただきました。
アスペルギルスとは、空気中や土壌、水中などに広く分布している真菌(カビの一種)のひとつです。
アスペルギルスは1立方メートルあたりの空気中におよそ10個~20個といった割合で存在しているごくありふれた真菌であり、日常生活を送る中で「誰でも吸い込んでいる」といっても過言ではありません。ですから、アスペルギルスを体内に取り込んだからといって、誰もが病気になるわけではないのです。
肺アスペルギルス症には3つの病態があり、このうち症状が慢性に経過するものを「慢性肺アスペルギルス症」といいます。慢性肺アスペルギルス症に感染してしまう方とは、現在進行形で気管支拡張症(気管支が拡がったまま戻らず気管支壁が傷害される疾患)などの器質的な疾患を患っている方や、過去に肺結核を患ったことがあり病変部位に空洞ができている方など、肺になんらかの問題がある方です。
肺に上記のような病変があると、口や鼻から吸い込まれたアスペルギルスがその部分に棲みつき、やがて「菌塊(きんかい)」と呼ばれるカビのかたまりのようなものが形成されてしまいます。このような状態を、「アスペルギローマ」もしくは「慢性型の肺アスペルギルス症」というのです。
急性の肺アスペルギルス症に感染しやすい方とは、「コンプロマイズドホスト」または「易感染宿主(いかんせんしゅくしゅ)」と呼ばれる、免疫機能が著しく低下した状態にある方です。
具体的には、白血病を患っている方や抗がん剤などの免疫抑制薬を使用している方などが挙げられます。
真菌や細菌などの異物から自己を守る好中球(こうちゅうきゅう:白血球の一種)が減少している人は免疫力が低下しており、アスペルギルスが侵入したとしても体内でこれを処理することができません。この結果、アスペルギルスが肺に生着するだけでなく増殖してしまい、「侵襲性肺アスペルギルス症」という予後が悪い病態に進展してしまうのです。
侵襲性肺アスペルギルス症は、アスペルギルスが原因で起こる肺の疾患の中でも特に重症度が高く、治療が遅れると死に至る呼吸不全を来すこともあります。
肺アスペルギルス症には慢性、急性のほか、「アレルギー性」、つまりアスペルギルスに対してアレルギー反応を起こす病態があります。
アスペルギルスに対するアレルギー反応が原因で起こる病態には、気管支喘息や過敏性肺炎(※頻度は稀です)など複数の種類があります。このうち、最も多いのは肺に起こる「アレルギー性気管支肺アスペルギルス症」という病態です。
以上のように、肺アスペルギルス症は、(1)アスペルギルスが生着する慢性型のもの、(2)侵襲性が高いもの、(3)アレルギー性のものという3つの病態に大別されます
※このほかにも異なる病態がありますが、一般的ではありません。
これら3つの病態の共通点は、全て「ホスト側(アスペルギルスを取り込んだ人間側)」に何らかの問題があってはじめて生じるということです。
●肺に器質的な疾患がある:慢性肺アスペルギルス症
●全身の免疫機能が著しく低下しているコンプロマイズドホスト:侵襲性(急性)肺アスペルギルス症
●アレルギー反応を起こしやすい方(いわゆる“アレルギー体質”):アレルギー性気管支肺アスペルギルス症
このように捉えると、肺アスペルギルス症についての理解が進みやすくなるでしょう。
河野 茂 先生の所属医療機関
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