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インタビュー

侵襲性肺アスペルギルス症-周囲の人が病室にカビを持ち込まない配慮も大切

侵襲性肺アスペルギルス症-周囲の人が病室にカビを持ち込まない配慮も大切
河野 茂 先生

長崎大学 学長/長崎大学医学部第二内科 名誉教授

河野 茂 先生

「侵襲性肺アスペルギルス症」とは、時に死に至ることもある危険な病態です。体が著しく弱っている方が感染しやすい侵襲性肺アスペルギルスを防ぐために、私たちは大きな病気や治療と対峙している患者さんに対して、どのような心掛けをすべきなのでしょうか。侵襲性肺アスペルギルス症の診断や治療法などと共に、長崎大学 学長の河野茂先生にお話しいただきました。

侵襲性肺アスペルギルス症とは進行が速い急性の肺アスペルギルス症であり、治療が遅れると致死的な呼吸不全などを来すこともある危険な病態です。

また、侵襲性肺アスペルギルス症は「コンプロマイズドホスト(易感染宿主:いかんせんしゅくしゅ)」といわれる、著しく免疫力が弱っている方が感染しやすい疾患という特徴があります。具体的には、白血病の方や免疫抑制作用のある抗がん剤を使用しているがん患者さん、臓器移植を受けられた方などがコンプロマイズドホストに該当します。

つまり、侵襲性肺アスペルギルス症の患者さんとは、「もともと非常に体が弱っている人」ということです。そのため、侵襲性肺アスペルギルス症は早期診断・早期治療が非常に重要になります。

しかし、侵襲性肺アスペルギルス症には、「診断をつけにくい」という問題点があります。侵襲性肺アスペルギルス症を早期に診断するためには、前項で挙げたような患者さんの血中のアスペルギルス抗原値を定期的に測り、数値に変化がないか確認を続ける必要があります。抗原値に上昇傾向がみられたときには、早い段階で侵襲性肺アスペルギルス症の可能性を疑います。

また、胸部X線やCT検査による画像所見の変化も診断の大きな助けとなります。

侵襲性肺アスペルギルス症とは、前述したように急速に進行する肺アスペルギルス症です。ですから、最初はごく普通の肺炎のときに現れるような浸潤影(陰影)が写っていても、あるときそこに空洞病変が現れることがあります。また、空洞の周囲に“halo sign”と呼ばれるすりガラス状の陰影が現れることがあります。このhalo signは、侵襲性肺アスペルギルス症に特異的ではありませんが、病初期の特徴的な画像所見です。

このように、血中抗原と肺の画像を目安とし、疑わしい変化があれば「侵襲性肺アスペルギルス症ではないか」とあたりをつけ、可能な限り早い段階で治療を開始します。

白血病の患者さんや臓器移植を受けられた患者さん(ハイリスク患者)は、免疫機能の低下により感染症にかかりやすくなります。そのため、通常は術前などに感染を防ぐための抗生物質を「予防投与」されています。しかし、予防的な抗生物質の投与量では感染を抑えられないことや、投与された薬の種類ではカバーしきれない病原菌により感染症に罹患してしまうことも往々にしてあります。これを医学の世界では「ブレイクスルー感染症」と呼んでおり、侵襲性肺アスペルギルス症の多くもブレイクスルー感染によって起こります。

侵襲性肺アスペルギルス症の治療は、まず抗真菌薬の投与からはじめます。しかし、有効な抗真菌薬が少ないため、治療は非常に難しいという問題があります。現在は、アスペルギルスに強い効力を持つアゾール系抗真菌薬(第一選択薬はボリコナゾール; VRCZ)やアムホテリシンB リポソーム製剤、副作用が少ないキャンディン系抗真菌薬など、私が真菌による肺疾患を専門に扱い始めた40年ほど前に比べて選択肢は増えました。

しかしながら、アスペルギルスによる疾患がコンプロマイズドホストの方に起こると、これらの薬剤をもってしても治療は容易には進みません。その際には複数の薬剤を併用しますが、併用したとしても治る場合と治らない場合があるというのが現状です。

コンプロマイズドホストと呼ばれる患者さんを、侵襲性肺アスペルギルス症をはじめとする感染症から守るためには、お見舞いに来られるご家族やご友人の方の配慮が必要です。特に気を付けたいのは、「生花を病室に持ち込まないようにする」ことです。アスペルギルスをはじめとする真菌(糸状菌)は、植物に非常に多く付着しているため、花束などを善意で持ってきたつもりが、病室にカビを持ち込んでしまうことに繋がってしまうのです。

アスペルギルスは通常1立方メートルの空間に10個、20個と多数存在していますが、病院では免疫力が低下している患者さんを守るために、これらを排除した無菌病棟などを設けています。ですから、特に強力な治療を受けている患者さんや免疫を抑えるような治療をされている患者さんの病室に入るときには、外から真菌(カビ)が付着している可能性があるものを持ち込まないように心掛けていただきたいということを、ぜひ多くの方に知っていただきたいです。