漢方治療の際には、患者さんが温めたほうがよい陰証の人か、熱を冷ましたほうがよい陽証の人かという観点から対象を「陰陽」の2タイプに分類し、更に「虚実(きょじつ)」どちらに属するかを見極めていきます。体型をみて考えるといわれることも多い「虚証」「実証」とは、一体何を指すのでしょうか。また、実際には何をもって判断するものなのでしょうか。九州大学大学院医学研究院地域医療教育ユニット准教授(九州大学病院総合診療科漢方専門外来担当)の貝沼茂三郎先生にお伺いしました。
患者さんが虚証と実証のどちらに属するかは、病原体などに対する生体反応のパターンから考えていくものです。
華奢な人は虚証、がっちりとした体型の人は実証といわれることがありますが、体型と虚実は必ずしもイコールで結びつくものではありません。
たとえば、同じウイルスに感染した方が二名いるとします。一人は若い青年で、感染後に39度の高熱が出たものの、翌日には熱が下がり体調もすぐに回復しました。しかし、もう一人の方は高齢で、微熱しかでなかったものの、不調が長引き、治癒するまでに1か月の期間がかかりました。
西洋医学では後者の方の反応を、「マクロファージやサイトカインの反応が不十分だったことにより、症状がダラダラと遷延した」と考えます。
これに対し漢方医学では、後者の方を「虚証」と考えます。虚証とは、回復のために必要な物質が「不足」しており、侵入してきた異物に対する反応が低下した状態のことを指すのです。
前者の青年は、ウイルスを駆逐する物質が十分に産生されたために、翌日には異物が排除されて回復したという状態です。このように「十分」は健康にとってよいことですが、産生される物質が「過剰」になると、高サイトカイン血症が起こり、全身性炎症性反応症候群(SIRS)や多臓器不全に発展してしまうことがあります。このように、ウイルスなどに対してよくも悪くも強く反応するタイプを「実証」といいます。
慢性疾患などが原因で内臓脂肪が体内に蓄積してしまっている状態も、漢方医学では「実」に分類します。このように、必要なものが不足しているだけでなく、必要以上に何らかのものをため込むこともバランスの乱れに繋がるため、漢方医学では「中庸」を目指して治療を行います。
また確かに、痩せている方には、免疫機能が低下しており、薬に対するレスポンスが悪い「虚証」の方が多くいらっしゃいます。しかし、華奢で体が冷えている高齢者で「一見虚証」の方が、インフルエンザウイルスなどが侵入してきたときに40度近い高熱を出すような反応を示すことは多々あります。
ですから、体型と虚実は必ずしもイコールでは結び付けられません。また、入ってくる病原体に対して生体の反応パターンは変わりますから、同一人物が常に「虚証(もしくは実証)」というわけでもないのです。
富山大学附属病院 和漢診療科 診療科長・特命教授
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