原因不明の不調や、季節・環境の変化に伴う不定愁訴、月経関連の悩みなどを抱えている人の中には、漢方治療に関心を抱いている方もいるでしょう。九州大学病院総合診療科には「漢方外来」が設けられており、女性を中心に多くの患者さんが訪れています。漢方外来では一体どのような診察が行われているのでしょうか。漢方外来を担当されている九州大学大学院医学研究院地域医療教育ユニット准教授の貝沼茂三郎先生にお伺いしました。
九州大学に限らず、漢方治療を専門とする外来では、一般的に望(ボウ)・聞(ブン)・問(モン)・切(セツ)の4種の診察を受けます。
望診とは、患者さんの見た目(第一印象)をみることをいいます。西洋医学においても患者さんの見た目から様々な情報を得ますが、漢方医学の望診では、「顔色」を一瞥することを特徴としています。たとえば、赤ら顔の方は陽証の可能性があり、青白い顔色をしている方であれば陰証の可能性があります。
また、真夏でも冬物の服を着込んでいる患者さんがいらっしゃれば、陰証ではないかと考えます。舌の色や舌苔の厚さから体調に関する情報を得る「舌診(ぜっしん)」も、望診に含まれます。
患者さんの声の状態や、臭いなどからどのような状況であるかを考えます。
西洋医学の問診と似ており、いつから、どのような症状に困っているのかを患者さんに伺います。また、漢方医学特有の考え方である陰陽や虚実どちらに該当するのか、気血水のどこに異常があるのかを見極めるために、「お風呂に入ると症状はよくなりますか。」「食後に強い眠気はありませんか。」といった独特の質問を医師側から投げかけることもあります。質問内容は患者さんの症状により変えていますが、「睡眠」「食事」「排泄」に異常がないかどうかは、ほぼすべての方に対して聞くようにしています。
切診は、患者さんの体に直接触れる診察です。中でも漢方医学特有の方法で行うのは、「脈診」と「腹診」です。
脈診では、医師の手で患者さんの脈の強弱をみることにより、虚実どちらの可能性が高いかを考えます。水毒独特の所見、瘀血独特の所見なども脈に現れることがあります。
腹診は、お腹に触れる診察です。西洋医学の場合は仰臥位で膝を曲げた状態で行いますが、漢方医学の場合は仰臥位で、膝を伸ばした状態で診察をします。
膝を伸ばした姿勢をとってもらうことで、腹直筋の異常な張りなどを見つけることができます。
これら望聞問切(ボウブンモンセツ)の四診によって、陰陽・虚実・気血水のどこに異常があるのか、医師は自分なりに推論していきます。この段階で、どの漢方薬を用いるべきかを診断します。このような漢方医学の診断のことを「証(しょう)」を決めるといいます。
初診時の診察は四診全てを詳しく行うため、トータルで約30分ほどの時間がかかります。
漢方医学と西洋医学の治療の大きな違いは、「標準治療」が定められているか否かということです。
西洋医学の場合には様々な疾患ごとにガイドラインが存在しており、“まず薬剤を○ミリ処方する、次に投与量を○ミリ増やす”というように、治療の順序や薬の投与量が定められています。そのため、経験の浅い医師でも、多くの場合熟練の医師と変わらぬ治療を行うことができるのです。
対する漢方医学には、ガイドラインは存在しません。証の診断もあくまで「仮説」ですから医師には経験が求められます。また、漢方薬の適応は患者さんに実際に服用してもらい、反応をみることで判断します。お困りの症状が改善されない場合は、その時々で軌道修正をし、違う薬を処方することもあります。
漢方外来では舌の色や顔色をみますので、食事をしてから時間をあけ、化粧をしていない状態で来院していただくことが理想です。このほか、お腹を出しやすい服装で来ていただくなど、腹診を受けやすい状態で受診していただくと診察がスムーズに進みます。
富山大学附属病院 和漢診療科 診療科長・特命教授
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。