概要
くる病とは、カルシウムやリンなどの電解質が骨に沈着する量が少ないため、骨が脆くなる病気のことです。子どもが発症する病気であり、骨が柔らかくなることで骨が正常に成長しなくなります。その結果、脚が曲がって成長したり、身長が伸びにくくなったりするといった症状が現れます。
くる病の原因はさまざまですが、その1つは食生活の乱れなどによる骨を硬くするリンの吸収を促すビタミンDの不足です。また、ビタミンDは紫外線を浴びると皮膚で生成される性質があります。そのため、極端に紫外線を避けた生活を送るとくる病を発症しやすくなることが知られています。
そのほか、遺伝的な原因により体内でビタミンDをうまく利用することができなくなる病気でもくる病を発症することがあります。このような病気によって引き起こされるくる病を“ビタミンD依存性くる病”と呼び、小児慢性特定疾患、難病の1つに指定されています。また同じく遺伝性にリンが低下してしまい、活性型ビタミンD製剤で治療できないくる病を発症することがあります。この病気は“ビタミンD抵抗性くる病”と呼ばれており、やはり小児慢性特定疾患、難病に指定されています。日本ではくる病の原因としてこの“ビタミンD抵抗性くる病”がもっとも多いと考えられます。
好ましくない生活習慣によるくる病の治療は、日光浴の推奨や食事療法が主体となりますが、重度なくる病や生まれつきの病気によるくる病の場合には不足したリンやビタミンDなどを補うための薬物療法や、リンの低下をもたらすホルモンのはたらきを抑える薬物療法が必要となります。治療が遅れると脚の変形や低身長など将来的に大きな問題となる症状を引き起こすことになるため、くる病が疑われる場合は速やかな病院受診が必要です。
以前の理解はカルシウムでしたが、今では血中リン濃度が低下することで小児はくる病、成人では骨軟化症を発症することが分かっています。カルシウムは関係ありません。
原因
くる病は、骨を硬くするリンや食事から摂取したリンが腸で体内に吸収されるのを促すビタミンDが不足することによって引き起こされます。
リンやビタミンDの多くは食事から体内に取り入れられるため、特にビタミンDが含まれている食品の摂取量が少ない状態が続くとくる病を発症しやすくなります。これを“ビタミンD欠乏症性くる病”と呼びます。
一方、私たちの皮膚は紫外線の刺激を受けるとビタミンDを生成するはたらきがあります。つまり、体内で利用されるビタミンDは食事から摂取するものと体内で生成されるものがあり、紫外線を極端に避けるような生活を送っているとビタミンDが不足し、くる病を発症するケースも少なくありません。
また、母乳にはカルシウムやリンが多く含まれるもののビタミンDの含有量は少ないため、特に母親がビタミンD不足の状態になると母乳に含まれるビタミンD量もさらに減少し、くる病を発症しやすくなります。
そして、遺伝子の異常で体内のビタミンDがうまく利用できなくなる病気によってくる病を引き起こすものも知られています。
ビタミンDの体内での活性化を行う酵素や、活性化したビタミンDが結合して作用するはずの受容体を作るのに必要な遺伝子に異常があり、ビタミンDの正常なはたらきが起こらない病気を“ビタミンD依存性くる病”と呼びます。また血液中のリンの濃度を一定に保つために必要なFGF23という骨で作られるホルモンが遺伝子の異常によって必要以上に多く作られるために、血液中のリン濃度が低下し、同時にビタミンDのはたらきも抑えられてしまう病気を“ビタミンD抵抗性くる病”と呼びます。日本ではこの“ビタミンD抵抗性くる病”がくる病の原因としてもっとも多いことが知られています。“ビタミンD依存性くる病”、“ビタミンD抵抗性くる病”共に小児慢性特定疾患および指定難病です。そのほかに、さまざまな原因による腎臓の障害によって血液中のリンが低下するファンコーニ症候群などがくる病の原因となります。
症状
くる病を発症すると骨が柔らかくなるため、骨が正常に成長しなくなります。具体的には、脚がいわゆる“O脚”や“X脚”のように曲がって生育したり、身長の伸びが遅くなったりするといった症状が現れます。そのため、転びやすい、歩行開始が遅れるなど運動発達の面でもさまざまな影響を及ぼすことが特徴です。そのほかにも、頭蓋骨が柔らかくなっているため事故などで頭に衝撃を受けたときに重度な頭部外傷を引き起こしやすいとされていることや、歯の成長にも異常が生じるため虫歯になりやすくなるなど症状は多岐にわたります。
さらに、ビタミンDの欠乏によるくる病や、上で述べた“ビタミンD依存性くる病”の場合には、これらの症状に加えて血中のカルシウム濃度が極端に低下するため、手足がこわばったり、けいれんを起こしたりするなどの神経症状を引き起こすことがあります。
検査・診断
症状などからくる病が疑われるときは次のような検査が行われます。
画像検査
骨の状態を調べるため、X線検査を行います。くる病では、大腿骨など脚を形成する骨の変形や骨の密度低下が認められるようになります。
また、骨端線(骨の端の軟骨)が大きくなったり拡大したりして見える、骨の端がへこむなど、くる病に特徴的な所見が見られることも少なくありません。
血液検査
血液中に含まれるカルシウム、リン、骨の生成を促すアルカリフォスファターゼと呼ばれる酵素、カルシウムの代謝に関わるPTHと呼ばれるホルモンなどの量を測定するために血液検査が行われることが一般的です。また血液中のリン濃度が継続して低ければ、“ビタミンD欠乏症性くる病”“ビタミンD依存性くる病”“ビタミンD抵抗性くる病”“ファンコーニ症候群”などの病気を区別するためにFGF23や25水酸化ビタミンD、1,25水酸化ビタミンDを測定します。
これらの検査は病状を評価するためだけでなく、くる病のように骨の脆弱性に異常をきたすほかの病気との鑑別をする際にも役立つ検査となります。
遺伝子検査
“ビタミンD依存性くる病”や“ビタミンD抵抗性くる病” が疑われるときは、原因となる遺伝子変異の有無を調べる検査が行われることがあります。遺伝子検査の一部は保険適用ですが、多くは自由診療になります。
治療
“ビタミンD欠乏症性くる病”は不適切な生活習慣が原因で引き起こされています。そのため、食生活と日光浴習慣の見直しを行うことが大切です。軽度な場合は、これら生活習慣の改善のみを行います。
一方、脚が大きく変形しているような重度な“ビタミンD欠乏症性くる病”では、天然型ビタミンDや活性型ビタミンDによる治療を行います。また遺伝性の“ビタミンD依存性くる病”の場合では、生活習慣の改善や天然型ビタミンDでは効果が見込めず、活性型のビタミンDをさまざまな量で治療に用います。一方でもっとも多いとされている“ビタミンD抵抗性くる病”ではその名のとおり、活性型ビタミンDを用いても改善を見込めず、これまでは活性型ビタミンDとリン製剤で治療してきましたが、この治療法でも足の変形や身長の低下の改善がごくわずかでした。2019年より“ビタミンD抵抗性くる病”で血液中のリン濃度を低下させているFGF23というホルモンの作用を抑える薬が使えるようになり、より効果的な治療ができるようになっています。
予防
“ビタミンD欠乏症性くる病”は、上でも述べたとおり不適切な生活習慣に起因するものです。そのため、くる病を予防するにはカルシウムやリン、ビタミンDが含まれた食品をしっかり取り、適度な日光浴をすることが大切です。
特に母乳のみで養育される乳幼児はビタミンD不足になりやすいため、母親は妊娠時期から多くのビタミンDを摂取する必要があるとされています。また、骨の成長などの様子を見てビタミンDが不足していると考えられる場合は、人工ミルクを追加することも1つの方法です。一方で、現在では遺伝子の異常による“ビタミンD抵抗性くる病”がくる病の原因としてもっとも多いことが知られています。この場合はなるべく早くに効果の高い治療を始めたほうが、足の変形や身長の低さを改善できることが分かっています。そのため、歩行開始の遅れ、歩き方がおかしい、足の変形、身長の伸びが遅いなどが見られる場合には一度小児科を受診し、原因を調べてもらうとよいでしょう。
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