インタビュー

ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症-症状、検査、診断

ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症-症状、検査、診断
伊東 伸朗 先生

東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科 助教

伊東 伸朗 先生

目次
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ビタミンD欠乏性くる病骨軟化症は、ビタミンDの欠乏によって起こる骨の病気です。主な症状は強い骨の痛みで、重症化すると寝たきりの状態を引き起こす恐れがあります。早期の診断が重要となりますが、病気自体があまり知られておらず、診断がつきにくいことが課題となっています。正しい診断の鍵となるのは、血液検査で「25水酸化ビタミンD(25-ヒドロキシビタミンD)」という項目を測定することです。

今回は、ビタミンD欠乏性くる病骨軟化症の症状と診断について、東京大学医学部付属病院伊東伸朗先生にご解説いただきました。

ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症とは?

ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症は、ビタミンDの欠乏が原因で、骨が石灰化せず柔らかくなってしまう病気です。記事1『ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症-ビタミンDのはたらきとは?』でもご説明したように、ビタミンDが欠乏すると、骨の形成に不可欠なリンとカルシウムが不足して、くる病・骨軟化症を引き起こすことがあります。

なお、子どものときに発症すると「くる病」、大人になってから発症すると「骨軟化症」と分類されます。

くる病の症状

子ども

成長障害(低身長など)

くる病・骨軟化症は、骨の石灰化が妨げられる病気です。そこで、子どもの成長にとって必要な「骨端軟骨」が石灰化しないことにより、成長が妨げられて低身長になることがあります。

骨端軟骨とは?

長管骨(ちょうかんこつ)の端にある軟骨部分のことです。

長管骨は、手足にある長い骨全般を指します。太ももの骨である大腿骨(だいたいこつ)などが長管骨に該当します。

骨変形(O脚やX脚、節くれ立った肋骨など)

骨が石灰化されず柔らかくなると、荷重のかかった部分が変形することがあります。そこで、O脚やX脚といわれる足の変形や、肋骨が変形して節くれ立った形になるなどの症状がみられます。

骨軟化症の症状

大人

偽骨折(ぎこっせつ)、骨折

偽骨折とは、骨に圧力がかかって亀裂が入ることです。骨折とは、骨に大きな圧力がかかって折れることです。ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症の患者さんは、日常生活のなかで偽骨折を起こしたり、ちょっとした外力により骨折したりすることがあります。

疲労骨折と偽骨折の違いとは?

偽骨折は、スポーツ選手に多い疲労骨折(骨に繰り返し圧力がかかって起こるひびのような骨折)と似ています。しかし、偽骨折の場合は、骨折するような大きな圧力がかかっていないにもかかわらず、ひびが入ってしまうことが特徴です。

英語では、偽骨折はpseudo fractur(シュードフラクチャー)といいます。疲労骨折はstress fracture(ストレスフラクチャー)といいます。

骨痛(こつつう:骨の痛み)

骨痛は、骨がズキズキするような強い痛みです。偽骨折によって引き起こされることがあります。公害病で知られる「イタイイタイ病」と同じく、低リン血症によって引き起こされる症状で、動けなくなるほどの非常に強い痛みが起こることもあります。

筋力低下

骨痛が長く続いて体を動かせなくなることに伴い、筋力の低下がみられます。筋力低下が重度になると、松葉杖や車椅子が必要になったり、寝たきりの状態になったりする可能性があります。

ただし、筋力低下は低リン血症そのものが引き起こす症状であるという主張も存在し、原因については議論されています。

歯の異常(虫歯など)

歯の石灰化が妨げられることから、歯が抜けたり、虫歯になったりする可能性が高くなります。

長期にわたると関節症・靭帯の石灰化

症状が長く続くと、関節症や靭帯の石灰化が引き起こされる場合があります。骨が柔らかくなることで関節や靭帯にも影響が及ぶためです。

骨折や偽骨折を起こさない軽症の患者さんでも、症状が数十年にわたって続くことにより、これらの関節症や靭帯の石灰化を起こすことが分かっています。また、これらの症状が一度出現すると、ビタミンDの治療では回復させることが残念ながらできません。

関節症とは?

関節症は、関節面にずれが生じて痛みを引き起こす病気です。低リン血症が長期にわたって続き、軽度であっても骨軟化症が存在する場合、骨が柔らかいために周囲の関節に過剰なストレスがかかり、関節症を起こすと考えられます。

靭帯の石灰化とは?

靭帯にストレスがかかって石灰化することを指します。低リン血症が長期にわたって続き、軽度であっても骨軟化症が存在する場合、骨が柔らかいために周囲の靭帯に過剰なストレスがかかり、石灰化を誘発すると考えられます。

靭帯の石灰化がみられる代表的な病気は、脊柱の靭帯が骨化する前/後縦靭帯骨化症(ぜん/こうじゅうじんたいこっかしょう)、黄色靭帯骨化症(おうしょくじんたいこっかしょう)です。

誤診の恐れ―骨痛と間違えやすい病気とは?

診療

変形性関節症やリウマチなどの関節痛と間違えやすい

骨痛の特徴は、骨のズキズキするような痛みです。しかし、変形性関節症やリウマチなどの関節痛と間違えやすく、誤診されて間違った治療を受けている患者さんが多いと考えられています。

病院では骨の痛みか関節の痛みかをよく見極めてもらうことが大切です。

骨粗しょう症と間違えやすい

ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症の患者さんは骨粗しょう症も合併しますが、原因となっているビタミンD欠乏症に気づかれずに骨粗しょう症のみと誤診される場合があると考えられています。

骨粗しょう症とは?

骨粗しょう症は、骨がもろくなって骨折しやすくなる病気です。骨を形成するはたらきが低下していたり、骨を溶かすはたらきが強まっていたりして、骨自体の量が減ることが特徴です。骨を修復して形成する骨芽細胞(こつがさいぼう)と、骨をこわして吸収する破骨細胞(はこつさいぼう)とのバランスが悪くなることによって起こります。

くる病・骨軟化症は、骨自体の量は多いものの、柔らかい骨になってしまう病気です。

ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症の検査、診断

検査

血中リン濃度の測定

まずは血中リン濃度を測定することが重要です。複数回にわたり採血を行うことで、くる病・骨軟化症を引き起こす低リン血症が存在する事を、明らかにする必要があります。このとき、カルシウム・アルブミン*・アルカリホスファターゼ*などと一緒に測定を行います。

また、くる病・骨軟化症が存在する場合には、同時にアルカリホスファターゼの上昇も多くの症例で認められます。

アルブミン…肝臓でつくられるタンパク質。補正カルシウムを計算するために測定する。

アルカリホスファターゼ…骨や肝臓などでつくられる酵素のひとつ。骨の形成にかかわる。

25水酸化ビタミンDの測定

ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症は、主に血液検査によって診断されます。血液検査で調べるのは、血液中の「25水酸化ビタミンD(25-ヒドロキシビタミンD)」の数値です。25水酸化ビタミンDとは、体内に取り込まれたビタミンDが活性化する前の状態を指します。

25水酸化ビタミンDの測定は、2016年8月に保険適用となっています。これまで原因がわからなかったという患者さんも、この検査によって正しい診断がつくよう期待されています。

測定する項目には注意が必要?

多くの医師の間で勘違いされていることですが、ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症の検査として「1,25水酸化ビタミンD」を測定することは誤りです。

1,25水酸化ビタミンDとは、体内に取り込まれたビタミンDが活性化した後の状態を指します。そのため、1,25水酸化ビタミンDの測定によってわかることは、体内に取り込まれたビタミンDの腎臓での変換効率です。これでは、ビタミンDの欠乏について正確に調べることは困難です。

検査を受けるときは、医師とよく相談してみましょう。

骨の病状と関連するのは25水酸化ビタミンD

以前は、体内に取り込まれたビタミンDは腎臓で活性化されて1,25水酸化ビタミンDとなり、腎臓や腸管、骨ではたらくと考えられていました。そこで、血液中の1,25水酸化ビタミンDの濃度を測定すれば骨の病状がわかると勘違いされてきました。

しかし、現在では、活性化する前の状態である25水酸化ビタミンDが、腸管や骨など各々の箇所で活性化され、その場所で作用することが明らかになってきています。このことから、骨の病状と関連するのは、血液中の25水酸化ビタミンDの濃度であるということがわかっています。

繰り返しになりますが、ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症を疑って検査するときは、1,25水酸化ビタミンDではなく、25水酸化ビタミンDを測定してもらうようにしましょう。

ビタミンD欠乏症だけでは診断できない

ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症を診断するためには、25水酸化ビタミンDの測定だけではなく、ほかの病気の可能性を除外することが重要となります。ビタミンDは日本人の多くが不足~欠乏(成人の50 ~ 70%が欠乏状態)している栄養素であり、ビタミンD欠乏症の判定だけでは、くる病・骨軟化症の原因の診断はできないためです。

ビタミンD欠乏症の基準とは?

25水酸化ビタミンDの血中濃度が30 ng/ml未満の場合、ビタミンD不足と判定されます。ビタミンD不足の状態では骨粗しょう症のリスクが高くなります。

25水酸化ビタミンDの血中濃度が20 ng/ml未満の場合、ビタミンD欠乏と診断されます。血中のカルシウム・リン濃度が低下することから、くる病・骨軟化症のリスクが高くなります。

ビタミンD欠乏症と判定されても、ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症にかかっているとは限りません。ビタミンDの欠乏状態に加えて、カルシウム・リン濃度の低下、低身長、骨の変形、偽骨折、骨折などの症状が実際に伴うとき初めて、ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症と診断されます。

また、ビタミンDの欠乏が短期間みられても、それ以外のときに充足していれば骨の異常は起こりません。

正確な除外診断が必要

ほかの病気の可能性を除外するために、病因鑑別フローチャートに従って診断されることが一般的です。

 

病因鑑別フローチャート ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症
病院鑑別フローチャート ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症