ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症は、ビタミンDを補充することで根本的な治療が可能な病気です。症状が長期にわたると治療が難しくなることがあるため、早期に治療を開始することが大切です。
今回は、ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症の治療法について、東京大学医学部附属病院伊東伸朗先生にご解説いただきました。
ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症の治療は、ビタミンDの補充が中心となります。補充する薬剤については次の項目で詳しく述べます。
ビタミンDを補充すると、偽骨折(ぎこっせつ:骨に圧力がかかって亀裂が入ること)やそのための骨痛(こつつう:骨の痛み)など多くの症状が改善します。
骨折している場合には、折れた部位を固定することで治療が可能です。しかし、柔らかくなっている骨をくっつけることは困難です。そこで、可能であれば事前にビタミンDを補充し、骨が石灰化できる状態になるまで待ってから、一般的な治療を始めることが効果的です。
くる病・骨軟化症の症状が長期にわたって続くと、靭帯の石灰化や関節症を引き起こす恐れがあります。しかし、石灰化した靭帯や障害の起こった関節は、ビタミンDの補充が病気の進行の予防にはなるものの、元に戻すことは残念ながらできません。鎮痛薬の継続や、程度が強い場合には整形外科での手術が、治療方法となります。
このような症状が起こる前に、軽症の方でも診断された段階からしっかりとケアしていくことが重要とされています。
ビタミンDは、日光にあたったり、食事したりすることで補給できる栄養素です。しかし、ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症の患者さんは、何らかの事情により通常の生活においてビタミンDの摂取が欠乏していたり、吸収が障害されていたりします。そこで、「自然型ビタミンD」か「活性型ビタミンD」の投与によって治療されます。
自然型ビタミンDは、食品において天然に含まれるビタミンD(エルゴカルシフェロール、コレカルシフェロール)です。日光を浴びることでヒトの体内でもコレカルシフェロールが産生されています。
厚生労働省によれば、健常者は1日あたり400 IUの摂取が望ましいとされています(年齢により異なる)。ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症の治療では、1日あたり1,000 IUの補充が一般的です。しかし、欧米での治療方法と照らし合わせると、効率的に治療するためにはもっと多く補充する必要があると考えられています。
<自然型ビタミンDの特徴>
活性型ビタミンDとは、自然型ビタミンDが体内で活性化された状態を指します。活性型ビタミンDと同様のはたらきをする薬剤を、活性型ビタミンD製剤といいます。
<活性型ビタミンDの特徴>
活性型ビタミンD製剤は、必要量以上を長期にわたり投与すると、高カルシウム血症(血液中のカルシウム濃度が高い状態)を引き起こす可能性があります。このとき、カルシウムは腎臓に沈着することがあるため、腎臓ではカルシウムが目詰まりしないように尿を排出しようとするはたらき(腎性尿崩症)が起こります。どんどん尿が排出されると脱水を起こす恐れがあります。
喉の渇きに気づきにくい高齢者や、寝たきりの状態でこまめに水分補給できない方は、脱水による急性腎不全*を起こす可能性があります。また、急性腎不全を繰り返すことで慢性腎不全に移行し得るため、注意が必要です。
腎不全…腎臓の働きが大幅に低下した状態。
ビタミンD欠乏症は多くの日本人にみられる病状です。ビタミンDが不足しているからといって、必ずしもビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症を発症するわけではありません。しかし、アレルギーや長期療養などをきっかけに、誰でもこの病気が起こる可能性はあります。
骨の痛みなどの症状が出てきたら、ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症の可能性はないかということを、主治医と相談することが大切です。
ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症の検査について、教科書でのビタミンD作用の記載を元に長らく勘違いされており、1,25水酸化ビタミンDが測定されてきました。ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症の診断には25水酸化ビタミンDの測定が必要であるということを、医師の間で周知させたいと思っています。しかし、ビタミンDの測定だけでは日本人の50-70%がビタミンD欠乏症と診断される事実も認識して頂きたいと思っています。さらに、低リン血症という大枠でいえば、25水酸化ビタミンDを測定する前に、FGF23について調べることも重要です。
また、骨痛は圧痛のある場所などを詳しく診察することで関節痛や神経痛と鑑別診断することが可能です。くる病・骨軟化症の患者さんの中には脊柱管狭窄症や関節リウマチだけでなく、線維筋痛症や心身症と診断されているかたもおられました。骨のズキズキした痛みは、低リン血症性くる病・骨軟化症の可能性があるので、リンの測定から診断を始めることが望ましいでしょう。
FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症については、『FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症-低リン血症とは?』をご覧ください。
東京大学医学部附属病院 難治性骨疾患治療開発講座 特任准教授、骨粗鬆症センター 副センター長
東京大学医学部附属病院 難治性骨疾患治療開発講座 特任准教授、骨粗鬆症センター 副センター長
日本内科学会 総合内科専門医・内科指導医日本内分泌学会 内分泌代謝科専門医・内分泌代謝科指導医・評議員日本糖尿病学会 糖尿病専門医・糖尿病研修指導医日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医日本骨粗鬆症学会 認定医・評議員日本骨代謝学会 評議員
糖尿病、高血圧や内分泌疾患全般を診療しているが、その中でも骨粗鬆症や原発性副甲状腺機能亢進症、くる病・骨軟化症といった骨代謝疾患の診療を専門としている。特に生理的なリン濃度調節因子であるFGF23が関連する疾患に関しては世界に先駆けた臨床研究・基礎研究を行っている。
「東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科 内分泌骨ミネラル代謝研究グループホームページ」
https://plaza.umin.ac.jp/bone-mineral-lab/
伊東 伸朗 先生の所属医療機関
関連の医療相談が4件あります
背中の左側の痛み
3日前ぐらいから、背中の左側が痛みます。激しい痛みというよりも、こっているイメージです。場所は、背中の左側真ん中ぐらいです。何か原因があるのでしょうか?
直射日光などによる赤ちゃんの目への影響
年齢の所で0歳だとエラーが出たので1歳にしていますが、 生後4ヶ月の赤ちゃんです。 乳児健診 予防接種などの際 どうしても 車から屋内に移動する時 まだ首もすわっていないので 横抱き状態になり 赤ちゃんが空を見上げている状態になります。 まぶしかったら 目を閉じたり 薄目になったりしていますが、 インターネットなどで 太陽を見たら失明するなどの記事を読みました。 数秒の出来事ですが、 今後の視力の発達などに影響が出てしまう可能性はあるのでしょうか?
爪の周囲左半身のチクチクする痛み
海外の途上国在住です。2ヶ月ほど前から両手の関節、手首に痛みを感じました。スマホ使いすぎかと思いましたが段々爪の周囲がチクチク痛みます。病院で血液尿検査をしたところビタミンDのあるべき数値が40に対して私がは5でした。注射と週一回の飲み薬で治療して行くことになりました。受診から4日たった今日は眉周辺、胸、お尻すべて左側が関節ではない場所もチクチクします。爪の変形変色はありません。何かアドバイスいただければ幸いです。
湿疹の自然治癒について
先週の火曜日にヘルパンギーナと診断され、その2日後に手のひら足裏以外の全身に大小様々な湿疹がでました。 大きいのはつぶれ?かさぶたのようになり、あとが大分目立ちますが自然にあとがきえ、なおっていくのですか? 明日スイミングがあるのですが湿疹消えるまで休ませた方がいいんですか?
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
「くる病」を登録すると、新着の情報をお知らせします
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。