FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の主な症状は、骨の痛みや筋力低下です。重症の場合は寝たきりの状態になってしまう方もいます。腫瘍が原因で発症している場合、腫瘍を完全に摘出すれば症状は改善されます。また、それ以外の場合でも、適切な治療によって症状を和らげることが可能です。2019年12月からは、病気の発症に関わるFGF23というホルモンに対する抗体医薬(ブロスマブ)も使用できるようになりました。まずは正しく診断されることが肝心です。
今回は、FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の主な症状、診断のフローチャート、代表的な検査方法について、東京大学医学部附属病院 伊東 伸朗先生にご解説いただきました。
FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症は、低リン血症により引き起こされる骨の病気です。骨端線が閉鎖する(子どもの腕や足などの長い骨の端に存在する成長に必要な軟骨部分が完全に石灰化する)前に発症すると、くる病に分類されます。骨端線が閉鎖した後に発症すると、骨軟化症に分類されます。
くる病・骨軟化症それぞれにみられる主な症状は下記のとおりです。
<くる病の主な症状>
<骨軟化症の主な症状>
<その他の症状>
FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の症状について、3つの例を解説します。いずれも腫瘍性骨軟化症(TIO)の患者さんです。
若い方でも、受診したときにはすでに自分ではほとんど動くことができず、寝たきりの状態になっているということがあります。詳しく検査して、腫瘍がみつかれば、手術により摘出するという選択肢があります。
腫瘍性骨軟化症(TIO)は、原因となる腫瘍を取り除けば症状が改善する病気です。
しかし、医師の間でも認識率が低い病気であることから、診断がつくまでに時間がかかってしまうことがあります。無治療のまま症状が進行して偽骨折や骨折を繰り返し、骨の変形などが生じると、これは腫瘍の摘出などによりFGF23の値を低下させても改善せず治療が困難です。その場合痛み止めの内服や関節置換(人工関節に置き換える手術)などの整形外科手術により対処しますが、早期に発見されれば、そのような治療困難な病態を予防することが出来ます。
足などの骨に痛みを感じるようになってから数年で症状が進行し、寝たきりの状態になってしまうということがあります。病院で、FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症を疑って検査することができれば、診断がすぐにつけられる可能性はあります。しかし、病名がわかっても、原因となっている腫瘍は見つけられない場合があります。
FGF23を分泌する腫瘍は全身に生じる可能性があります。そこで、ごく小さな腫瘍が思いがけない場所に生じていれば、何度検査をしても、原因となっている腫瘍が見つけられないことがあります。腫瘍が見つからない場合、以前は活性型ビタミンDとリン製剤の投与で加療していましたが、骨痛などの症状が完全には改善しないことが多く、鎮痛剤などを併用していました。2019年12月からはFGF23に対する抗体医薬:ブロスマブが使用できるようになり、薬剤での加療でもより高い効果が得られるようになりました。
また、原因が異なる別の病気という可能性も残されています。腫瘍性骨軟化症(TIO)の患者さんのなかで腫瘍が見つからないという方は、実際によくみられます。
原因がわからずに、最初に受診してから診断がつくまでに10年以上かかるケースも非常に多くみられます。痛み止めを使用しながら様子をみているうちに、骨痛でうまく歩けない状態になっていく方や、普段通りの仕事ができなくなって退職を余儀なくされる方、子育てが出来なくなる方などもいます。また、検査の結果、症状のひとつである脊柱管狭窄症などが発見されても、原因がわからなければ本当に適切な治療は受けられません。
FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の知識がある医師と出会えないまま、寝たきりの状態になってしまう患者さんが多くいるだろうと推測されており、問題となっています。
無治療のまま長期間が経過すると、関節症や靭帯の骨化など、治療の困難な症状があらわれることがあります。また、骨が柔らかくなってつぶれたり、身長が縮んだりした場合には、治療で元に戻すことはできません。骨痛などの症状があらわれてからなるべく早く治療を始めるべきですが、診断がつくまでに時間のかかることが課題です。
しかし、2018年現在、一般の医学書にFGF23の記載がなされるようになり、医師国家試験の出題範囲にも含まれています。このように、今後は新しい世代の医師を中心に、FGF23の認識率が高まることが見込まれています。
FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の診断をする際は、下記の手順で検査を進めることが重要です。
くる病・骨軟化症の特徴的な症状は偽骨折による骨痛です。全身に骨痛がある場合には、まずはくる病・骨軟化症の可能性を疑うことが重要です。
骨痛の特徴は、骨がズキズキするような強い痛みであって、関節の痛みとは場所が異なります。しかし、関節の痛みと誤診されてしまう場合があります。そこで、関節とは異なる場所の骨がズキズキするという感覚がある場合は、それを正確に医師に伝えることがポイントです。
くる病・骨軟化症での偽骨折による疼痛は体重やストレスがかかる場所に生じやすく、典型的には、足の中足骨、肋骨、大腿骨の骨幹、下腿骨の骨幹、骨盤などに起こります。
くる病・骨軟化症の可能性が疑われるときは、まずは血中のリン濃度を測定します。低リン血症がくる病・骨軟化症を引き起こすということは、医師の間でもあまり認識されてきませんでしたが、実はとても重要です。期間を空けて複数回リンを測定することで低リン血症の診断がつきます。
期間を空けて複数回リンを測定し、慢性の低リン血症であることが確認できたら、まずはFGF23を測定します。FGF23の測定は2019年10月に保険に収載されました。
くる病・骨軟化症の原因として考えられる病気は複数存在します。どの病気が原因となっているのかについては、病因鑑別フローチャートに従って鑑別することができます。
腫瘍性骨軟化症(TIO)の原因となっている腫瘍を発見するためには、以前は主にCT*とMRI**が利用されていました。
ただし、検査のなかで腫瘍を発見するのは難しいとされています。小さな腫瘍や、思いがけない場所に生じている腫瘍は、見逃される場合もあります。また、これらの検査で体のどこかに腫瘍が見つかっても、その腫瘍が本当にFGF23を過剰に産生しているかはわかりません。
*CT……エックス線を使って身体の断面を撮影する検査。
**MRI……磁気を使って体の断面を撮影する検査。
CTやMRIで見逃されるような腫瘍を発見するためには、ソマトスタチン受容体シンチグラフィが利用されます。この検査では、体内に薬剤を注射し、放出される放射線を計測することで、何らかのホルモンの産生調節に必要なソマトスタチン受容体を発現している腫瘍の有無を調べることができます。
CTやMRIで腫瘍が見つかったとしても、それがホルモンを分泌している腫瘍かどうか確認することはできません。手術の前に、腫瘍がホルモンを分泌しているかどうか明らかにするために、ソマトスタチン受容体シンチグラフィは有用です。しかしFGF23を産生していなくても、他のホルモンを産生する腫瘍などでもソマトスタチン受容体が発現していればシンチが取り込まれてしまいます。
CT、MRIやソマトスタチン受容体シンチグラフィで腫瘍が見つかった場合に、その腫瘍が本当にFGF23を産生しているかを確認する手段として、全身静脈FGF23サンプリングという方法があります。保険収載はされていませんが、全身の複数の静脈部位において、カテーテルという血管内を通す器具を用いて採血を行い、実際に原因とおぼしき腫瘍の近くでFGF23の血中濃度が上昇しているかを確認する手法です。
画像検査では腫瘍が見つからなくても、全身静脈FGF23サンプリングで血中FGF23濃度の高い場所が見つかったことをきっかけに、改めて詳しい画像検査を行い、腫瘍が発見された患者さんもいます。
リウマチや線維筋痛症、変形性関節症、脊柱管狭窄症などと診断されて、長く治療を受けているのに、なかなか症状が治らないと感じていませんか。その場合は、かかりつけの医師と相談し、FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の可能性を疑って検査してみるのもよいと思います。リンを2回計測するだけで低リン血症の診断をつけることができます。どうしても原因がわからない痛みがあるときは、相談してみるとよいでしょう。
東京大学医学部附属病院 難治性骨疾患治療開発講座 特任准教授、骨粗鬆症センター 副センター長
東京大学医学部附属病院 難治性骨疾患治療開発講座 特任准教授、骨粗鬆症センター 副センター長
日本内科学会 総合内科専門医・内科指導医日本内分泌学会 内分泌代謝科専門医・内分泌代謝科指導医・評議員日本糖尿病学会 糖尿病専門医・糖尿病研修指導医日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医日本骨粗鬆症学会 認定医・評議員日本骨代謝学会 評議員
糖尿病、高血圧や内分泌疾患全般を診療しているが、その中でも骨粗鬆症や原発性副甲状腺機能亢進症、くる病・骨軟化症といった骨代謝疾患の診療を専門としている。特に生理的なリン濃度調節因子であるFGF23が関連する疾患に関しては世界に先駆けた臨床研究・基礎研究を行っている。
「東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科 内分泌骨ミネラル代謝研究グループホームページ」
https://plaza.umin.ac.jp/bone-mineral-lab/
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