インタビュー

FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症——治療

FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症——治療
伊東 伸朗 先生

東京大学医学部附属病院 難治性骨疾患治療開発講座 特任准教授、骨粗鬆症センター 副センター長

伊東 伸朗 先生

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この記事の最終更新は2018年03月30日です。

FGF23関連低リン血症性くる病骨軟化症は、骨の痛みや筋力低下を特徴とする骨の病気です。腫瘍が原因で発症した場合、原因となる腫瘍を除去すれば治療できますが、腫瘍が見つからないこともあります。生まれつき発症している場合には、以前は活性型ビタミンDやリン製剤の補充、痛みを和らげるための鎮痛剤といった対症療法が中心でしたが、2019年12月に、病気の発症に関わるFGF23というホルモンを標的とした抗体医薬が使用できるようになりました。これまで治療が困難であった重症の患者さんに使用することで、より根本的な治療が可能となる新しい治療法です。

今回は、FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の治療法について、東京大学医学部附属病院 伊東 伸朗(いとう のぶあき)先生にご解説いただきました。

FGF23関連低リン血症性くる病骨軟化症の主な治療法は、活性型ビタミンDやリン製剤の投与でした。どちらも血中のリン濃度を上昇させる効果があるので、低リン血症に伴う症状を緩和することができます。まず活性型ビタミンDを補充し、効果が反映されにくい場合はリン製剤を補充することが一般的です。

ただし、活性型ビタミンDやリン製剤の投与には下記のような問題点もあります。

活性型ビタミンDを投与したうえでリン製剤を追加投与すると、血中リン濃度が短時間(1~2時間)は正常範囲まで上昇しますが、そのあとすぐに、リン調節ホルモンでもあるPTHが血中リン濃度を誤った低い閾値まで下げようとするために上昇し、血中のリン濃度を再び低下させてしまいます。このように、活性型ビタミンDやリン製剤を投与しても、FGF23のはたらきによって、一日の多くの時間は低リン血症状態となるため、根本的な治療とはいえません。

活性型ビタミンDとリン製剤を長期にわたって多量に投与し続けると、副作用として腎機能障害を起こすリスクがあります。

活性型ビタミンDは、カルシウムの吸収も促進させる作用があります。多量に投与し続けると、やがて余分なカルシウムが尿中へ排出されるようになります。腎臓では、カルシウムが沈着して目詰まりを起こすことのないよう、どんどん尿が排出されるようになります。このはたらきによって尿崩症(多尿になる病気)が起こると、場合によっては脱水による急性腎不全(腎臓の働きが大幅に低下した状態)を発症するリスクがあります。このような急性腎不全を繰り返すことで慢性腎不全にいたる恐れがあります。

リン製剤の投与——​​副作用は?

リン製剤の投与は、血中の副甲状腺ホルモン(PTH)の増加を引き起こすことがあります。副甲状腺ホルモン(PTH)は、カルシウムの調節だけでなく、血中のリン濃度を低下させるはたらきもあわせもつホルモンです。

副甲状腺ホルモン(PTH)は、増加すると、骨を溶かして血液中のカルシウム濃度を上げようとする作用があります。その結果、尿中へのカルシウム排泄が増加します。これは、上に記載したように、腎機能障害のリスクとなります。また高用量のリン製剤による副甲状腺ホルモン(PTH)への刺激が継続すると、時に副甲状腺が腫瘍化し、血中リン濃度を高めてしまうことで、さらに尿中へのカルシウム排泄が増加して腎機能障害のリスク上昇に拍車をかけます。

腎機能障害を起こさないよう適切に治療するためには、活性型ビタミンDとリン製剤の投与を少量に抑えて、血中リン濃度が正常範囲の下限前後となるように調節すればよいと考えられます。

しかし、軽度の低リン血症が長期的に続くことにより、軽度のくる病骨軟化症は残存しています。ですので、小児での低身長や骨変形、小児、成人での偽骨折、骨折のリスク上昇に対する完全な正常化は望めません。

腎機能障害が進展すると、血液透析*、腹膜透析**腎移植といった、腎臓の代わりとなる治療が必要になる可能性があります。そのため、活性型ビタミンDとリン製剤投与での血中リン濃度の治療目標は、このような事態を避けるために、正常範囲の下限前後に設定されるべきです。

この治療目標により偽骨折は少し改善され、骨の痛みを和らげることが可能です。しかし、根本的な治療とはいえません。

*血液透析……透析療法のひとつ。血液を体外に出して、綺麗にして体内に戻す方法。

**腹膜透析……透析療法のひとつ。腹に透析液を注入して、毒素などが移動したら取り出す方法。

このように、活性型ビタミンDやリン製剤の投与では、成長障害、骨変形、偽骨折そのものは完全には改善できません。

また、それだけではなく、誤って血中リン濃度の正常化を目標として治療した場合に腎機能障害を発症するリスクや、軽度の骨軟化症が長期に存在することで起こる慢性期の関節症や靭帯の石灰化が課題となっています。

しかし、以下のように、場合によっては根本的な治療が実施できる場合もあります。

手術

FGF23関連低リン血症性くる病骨軟化症のなかでも、腫瘍性骨軟化症(TIO)については、発生した腫瘍を摘出することで根本的な治療を目指せます。

まずは、前述した複数の検査を行って、腫瘍を同定*することが重要です。FGF23を産生する腫瘍がみつかれば、それを摘出します。

手術では、余白をとるように大きめに切除することが肝心です。腫瘍が少しでも残ると、それがどんなに小さくても、FGF23はリン濃度の低下がみられるまで更に多く分泌されて、摘出される前とほとんど同じように低リン血症を引き起こしてしまうからです。

*同定……存在する場所を探すこと。

以下のように、腫瘍を摘出できないケースでは、活性型ビタミンDとリン製剤の投与を行います。

  • 手術の難しい場所や、運動機能的、美容的に切除すると問題のある個所に腫瘍ができ、完全には切除できない
  • 腫瘍が大きくなっていて完全には切除できない
  • がんなどが原因で腫瘍が再発してしまう
  • 腫瘍がみつからない

など

2019年12月より月1回の注射製剤である坑FGF23抗体(ブロスマブ)が国内でも使用できるようになりました。ブロスマブはFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の病因であるFGF23に対する抗体ですので、症例によっては従来の活性型ビタミンDやリン製剤よりもより効率よく血中のリン濃度を正常化させることで骨の石灰化を改善し、偽骨折や骨折のリスクを減らすことができます。従来療法で効果が不十分な場合には、この新しい治療法の選択を検討します。

薬をのむ子ども

遺伝子変異が原因で起こるX染色体連鎖性低リン血症性くる病(XLH)は、生まれつきの病気です。全身からFGF23 が過剰に分泌されるため、腫瘍性骨軟化症(TIO)のように手術で治療することができず、根本的な治療法は確立されていません。前述のように従来療法(活性型ビタミンDとリン製剤)では低身長や骨変形、偽骨折、骨折のリスク上昇を完全に改善することはできませんでした。

しかし、2019年12月より月1回の注射製剤である坑FGF23抗体(ブロスマブ)が国内でも使用できるようになり、小児の低身長や骨変形をより効率的に予防し、小児、成人の偽骨折や骨折のリスクを減らすことができるようになりました。今後は小児例の多くが低身長や骨変形の予防としてブロスマブを使用することになるかと思います。また成人でも特に骨折を起こしたことがある方や、小児期の低身長や骨変形が強かった方などの症状が強い症例ではブロスマブが有用です。

治療後の経過

活性型ビタミンDやリン製剤の投与によって、骨の痛みや筋力低下については日常生活に差しさわりがないレベルまで戻る患者さんもおられます。

しかし、過度に投与すれば腎機能を悪くするリスクが伴います。適切な目標を設定した治療でも、発熱や下痢などを起こした際に脱水となり、やはり腎機能を悪化させてしまう可能性があります。

また、痛みや骨折リスクの程度がとても強い場合には、適切に治療をしても杖歩行や車いす移動、寝たきりなどの状態が続いてしまう場合もあります。

自然に症状が軽快するタイプのFGF23関連低リン血症性くる病骨軟化症があります。それは、常染色体優性低リン血症性くる病骨軟化症(autosomal dominant hypo-phosphatemic rickets/osteomalacia:ADHR)というタイプです。

生まれつき発症した方の場合には、成人しても服薬を中断するべきではなく、引き続き治療が必要です。

くる病は骨端線が閉鎖するまでに発症するものですが、成人してからも骨軟化症が生じているため、成人したからといって治療を中断しないことが大切です

歯磨き

FGF23関連低リン血症性くる病骨軟化症の従来療法は、腎機能を悪くしないように注意が必要です。腎機能を保護するため、血中リン濃度の完全な正常化を目標とした活性型ビタミンDやリン製剤の過度な補充は避けるようにしてください。

坑FGF23抗体(ブロスマブ)では腎機能を悪化させるリスクは少ないと予想されます。

柔らかくなった骨は、従来療法では本来の固い状態には戻せません。そこで、偽骨折骨折を生じないために、スポーツなどによる強い外力は避けるように注意してください。

また、症状として筋力低下はみられますが、無理な筋力トレーニングを行うと、偽骨折や骨折のリスクが上昇し、関節症や靭帯の石灰化の進展を早めてしまう可能性があります。また普通に生活していても骨に亀裂が入ってしまうような状態だということを常に忘れないようにしてください。

一方、坑FGF23抗体(ブロスマブ)ではより骨の石灰化の状態を正常に近づけることができると予想されます。

歯磨きなどオーラルケアをきちんとするように心がけることが大切です。患者さんは歯がひび割れやすく、丁寧に磨いていても虫歯になることがあります。しかし、なるべく気を付けるようにしてください。

伊東先生

FGF23関連低リン血症性くる病骨軟化症は、世間での認識率が低い病気です。FGF23の同定から20年以上が経ちましたが、医学分野の長い歴史のなかではまだまだ歴史が浅く、世間一般はもとより医師の間にも浸透していないことが現在の状況です。

そのため、正しい診断を受けられず、症状が進行して車椅子を利用している方や、寝たきりの状態になっている方が大勢いるのではないかと考えられます。患者さんが正しい診断を受けて、正しい治療によって日常生活に復帰できるようになることを願っています。

2019年12月にFGF23をターゲットとした抗体医薬(ブロスマブ)が国内でも使用できるようになりました。これを機に、内分泌内科や小児内分泌内科のみならず、本疾患を最初に診療すると思われる整形外科医・リウマチ内科・神経内科医の先生方の間でも、疾患について早急に広く知られることを期待しています。

ビタミンD欠乏性くる病骨軟化症については、『ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症——ビタミンDのはたらきとは?』をご覧ください。

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