FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症は、「FGF23」というホルモンが原因で引き起こされる骨の病気です。生まれつき発症する場合と、生まれたあと偶然に発症する場合があります。けっして希少な病気ではありませんが、医師の間でもあまり知られておらず、診断のついていない方が多いのではないかと予想されています。早期の診断と適切な治療が重要であるため、世間一般に広く浸透することが望まれます。
今回は、FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の概要について、東京大学医学部附属病院 伊東 伸朗先生にご解説いただきました。
FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症は、FGF23(fibroblast growth factor 23:FGF23)というホルモンが原因となって低リン血症(血中リン濃度の低下)が起こり、それに伴って発症する骨の病気です。
くる病・骨軟化症とは、『FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症——低リン血症とは?』でもご説明したように、骨の石灰化が妨げられて柔らかくなってしまう病気のことです。
この病気は、原因がはっきりするまでは「ビタミンD抵抗性くる病・骨軟化症」と呼ばれていました。特徴としてビタミンDを投与しても血中のリン濃度を上昇させることが出来ず治療が困難な病気だったからです。
原因がFGF23というホルモンであることが明らかになったのは、2000年頃のことです。
この病気には主に、遺伝がかかわるタイプと、腫瘍がかかわるタイプの2種類が存在し、どちらもFGF23が関連していました。FGF23を遺伝子疾患から発見したのは欧米の共同グループ、腫瘍から発見したのは日本のグループでした。
FGF23は、血中のリン濃度を一定に保つはたらきを担うホルモンです。リンは、骨や歯の形成に不可欠なミネラルです。血中のリン濃度が調節されることで、体内では、強い骨や歯をつくるはたらきが維持されています。
FGF23は、主に2つの場所ではたらきます。
腎臓と腸管は、どちらもリンの出し入れを行う器官です。FGF23はこの2か所ではたらき、リンの機能を低下させる作用があります。
FGF23は、骨のなかにある「骨細胞」という細胞内でつくられているホルモンです。
骨の組織は、骨細胞・骨芽細胞(骨をつくる細胞)・破骨細胞(骨を溶かす細胞)の3種類で構成されています。骨細胞はそのなかでも、骨の維持に重要な役割を果たすと考えられている細胞で、骨の細胞の90%以上を占めています。
このホルモンは誰の体にも存在するものですが、遺伝子変異や腫瘍の発生などがきっかけで過剰に産生されたとき、くる病・骨軟化症を引き起こす原因になると考えられています。
FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症は、2種類に分けられます。
また、原因によってさらに細かく分類されます。
*先天性……生まれつきの病気。
**後天性……生まれつきではなく、生まれたあとで起こる病気。
先天性のFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症でもっとも多くみられるのは、X染色体連鎖性低リン血症性くる病(X-linked hypophosphatemic rickets:XLH)です。XLHの発症頻度は2万人にひとりとされています。[注1]
遺伝子「PHEX」の変異が原因で起こるFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症です。X染色体*優性遺伝**の型(性別を決める染色体X・YのうちX染色体上にある遺伝子による遺伝形式)であるため、女性に多くみられます。
*染色体……生物の遺伝情報を伝える遺伝子を含む物質。
**優性遺伝……二対ある遺伝子のうちの一方が障害されると症状が発現する遺伝形式。親が優性遺伝を示す遺伝子異常を有していた場合、子に遺伝する確率は50%となる。
後天性の低リン血症性くる病・骨軟化症でもっとも多くみられるのは、腫瘍性骨軟化症(tumor-induced osteomalacia :TIO)です。発症頻度はおよそ2万人~10万人に1人とされています。[注2]
*[注1][注2]……Endo I, et al. Endocr J.2015;62(9):811-816.
腫瘍からFGF23が不適切に過剰に分泌されることで発症するFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症です。腫瘍が発生するメカニズムは一部を除き依然解明されていません(2020年時点)。
先天性のFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症は、遺伝子変異が原因とされています。遺伝子変異にはさまざまな種類があります。もっとも頻度が多いのは、前述したようにXLHというタイプです。
XLH以外の型としては、下記のようなケースがみられます。
*劣性……遺伝子の特徴があらわれにくいほうのこと。
後天性のFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症が起こる原因は、主に腫瘍です。腫瘍によって発症するものは、腫瘍性骨軟化症(TIO)とよばれています。
腫瘍性骨軟化症(TIO)の腫瘍は、主に骨か軟部組織(皮下組織など)のどちらかに生じます。顔から足の裏まで全身のどこにでも生じる可能性があり、発見することは非常に困難です。また、腫瘍がとても小さい(1 cm以下である)ことも多く、MRIやCTといった画像検査でも見逃されてしまう場合があります。
原因となる腫瘍が長らく見つからなかった腫瘍性骨軟化症(TIO)の患者さんで、詳しい検査を行ったら歯槽骨(しそうこつ:歯の付け根を支える歯茎の骨)にある小さな腫瘍がみつかったケースなどもあります。
腫瘍性骨軟化症(TIO)の原因となる腫瘍が、どのように発生するのかの詳しいメカニズムはまだ明らかになっていません。しかし、まだはっきりと証明されたわけではありませんが、いくつかの仕組みについては推測されていることがあります。
たとえば、FGF23ホルモンが産生される腫瘍のなかでのみ遺伝子変異が起きており、そのために少量のリンを感知しただけでFGF23が不適切に産生されてしまう機構が予測されています(リン濃度感知閾値の低下)。
また、このメカニズムの多くはFGFR1という血中リン濃度の感知受容体(刺激を受け取る構造)の異常によるものと推測されています。低リン血症の患者さんにリンを投与するとFGF23の数値が上昇することから腫瘍組織においてもリンが感知されており、その感知閾値が正常より低下していると推測できるためです。
FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症は、薬剤の副作用によって発症する場合もあります。
副作用を引き起こす可能性がある薬剤としては、含糖酸化鉄が知られています。含糖酸化鉄は、がんなどで食事を取れない方が貧血を起こしている場合に注射で使用されることのある鉄剤です。副作用として低リン血症を起こす場合があることは、薬品の添付文書にも記載されています。
投与されれば必ず発症するというものではありませんが、低リン血症の原因がわからない場合には含糖酸化鉄の投与についても調べる必要があります。
FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症は、病気自体の認識率が低いことから、診断のついていない患者さんが多いと考えられています。先天性(XLHなど)、後天性(TIOなど)にかかわらず、下記のような理由で未診断となっていることがあるのではないでしょうか。
たとえ軽症の場合でも、遺伝性のFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症は原因が分からないまま長期間が経過すると、関節の骨棘(骨で作られるとげのようなもの)や靭帯の骨化(本来の骨の外の部分にリンやカルシウムが沈着して骨構造をつくること)を起こし、歩けなくなったり、寝たきりになったりしてしまう恐れがあります。診断のついていない方々が適切な治療を受けられるよう、疾患啓発が強く望まれます。
東京大学医学部附属病院 難治性骨疾患治療開発講座 特任准教授、骨粗鬆症センター 副センター長
東京大学医学部附属病院 難治性骨疾患治療開発講座 特任准教授、骨粗鬆症センター 副センター長
日本内科学会 総合内科専門医・内科指導医日本内分泌学会 内分泌代謝科専門医・内分泌代謝科指導医・評議員日本糖尿病学会 糖尿病専門医・糖尿病研修指導医日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医日本骨粗鬆症学会 認定医・評議員日本骨代謝学会 評議員
糖尿病、高血圧や内分泌疾患全般を診療しているが、その中でも骨粗鬆症や原発性副甲状腺機能亢進症、くる病・骨軟化症といった骨代謝疾患の診療を専門としている。特に生理的なリン濃度調節因子であるFGF23が関連する疾患に関しては世界に先駆けた臨床研究・基礎研究を行っている。
「東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科 内分泌骨ミネラル代謝研究グループホームページ」
https://plaza.umin.ac.jp/bone-mineral-lab/
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