ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症は、ビタミンDの欠乏により引き起こされる骨の病気です。ビタミンDは日光や食事から補充される栄養素です。一時的に欠乏がみられても、すぐに骨の異常を引き起こすとは限りません。しかし、アレルギーや長期療養などをきっかけに、誰でもこの病気にかかる可能性があります。骨の痛みなどの症状を感じたら、主治医と相談することが大切です。
今回は、ビタミンDのはたらきや、ビタミンDが不足して起こる病気について、東京大学医学部附属病院 伊東伸朗先生にご解説いただきました。
ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症は、ビタミンDが欠乏することで、くる病・骨軟化症が起こる病気です。発症すると、強い骨の痛みや筋力低下などの症状があらわれます。
骨の石灰化が妨げられて、本来は石のように固いはずの骨が柔らかくなってしまう病気のことです。「くる病」と「骨軟化症」は、同様の病状がみられます。その違いは、子どものときに起こるか、大人になってから起こるかということです。
骨端線*が閉鎖する前に発症するものはくる病、骨端線が閉鎖した後に発症するものは骨軟化症と分類されています。
骨端線…子どもの成長にかかわる、長い骨の端に存在する軟骨組織。
ビタミンDは、生体の機能を調整する栄養素のひとつです。主に、骨の代謝(古い骨が新しい骨に入れ替わるしくみ)にかかわっています。
ビタミンDはヒトの体内でつくられることもあれば、食事から摂取することもできる栄養素です。日光にあたることにより、皮膚の下に存在する7-デヒドコレステロール(7-DHC)から産生されます。また、ビタミンDを含む下記のような食材からも摂取することができます。
ビタミンDは、植物由来と動物由来の2種類に分類されます。
ビタミンD₂(エルゴカルシフェロール)は、植物から摂取できる栄養素です。日光にあたることで、植物に存在しているエルゴステロールという組織から生成されます。
主に、きくらげ、しいたけなどのキノコ類から摂取することができます。天日干し(日光にあてる)されたものはビタミンDの含有量が増えるため、干しきくらげ、干ししいたけなどを食べることで、生の状態より効率よく摂取することができます。
ビタミンD₃(コレカルシフェロール)は、魚や卵などから摂取できる栄養素です。脂溶性(水に溶けにくい)のビタミンで、深く寒い場所に住んでいる油ののった魚に多く含まれます。主に、タラ、サケなどの魚から効率よく摂取することができます。
ヒトの体内で産生されるビタミンDも、ビタミンD₃(コレカルシフェロール)です。
前述のように、ビタミンDは骨の代謝(古い骨が新しい骨に入れ替わるしくみ)に不可欠な栄養素です。骨を強くするためにはカルシウムをたくさん摂取すればよい、というイメージを持っている方は多いのではないでしょうか。しかし、骨が形成されるにはビタミンD、カルシウム、リンなどの栄養素がバランスよく摂取されることが大切です。
ビタミンDは、具体的には下記のようなはたらきをすることで、骨の代謝にかかわっています。
カルシウムとリンは、骨の形成にかかわる栄養素です。カルシウムとリンが複雑に結合することで、固い骨をつくる成分「ハイドロキシアパタイト」が形成されています。
ビタミンDがこのようなはたらきをするのは、生物が進化の過程でカルシウムやリンを取り込むはたらきを必要とするようになったからだと考えられています。
海中で暮らす魚類にとっては、海水から豊富に摂取することのできるカルシウムやリンなどは、不足しにくい栄養物質です。しかし、海中から出てきた生物(両生類以降)にとって、陸地はカルシウムやリンを補給するには不十分な環境です。そこで、陸地で生活する生物は、ビタミンDを利用して、カルシウムとリンを取り込む機能を発達させるようになったと考えられています。
ビタミンDは、血中のカルシウムやリンの状態を一定に保つために必要な栄養素です。
ビタミンDが欠乏した状態(ビタミンD欠乏症)が起こると、それに伴って血中のカルシウムやリンが減少します。
血中のカルシウムやリンの低下が強くなると、カルシウムの減少を補うために副甲状腺ホルモン(PTH)というホルモンが分泌されます。副甲状腺ホルモン(PTH)には骨を溶かす作用があるため、「骨粗しょう症」が起こることがあります。
また、それと同時に、リンの低下によってハイドロキシアパタイトがつくれなくなります。このとき、骨が柔らかく骨折しやすい状態になる「骨軟化症」が起こることがあります。
リンが欠乏する病態やその調節の仕組みについて、詳しくは『FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症-低リン血症とは?』をご覧ください。
前述したような、自然界に存在する植物由来・動物由来のビタミンD(自然型ビタミンD)は、食事やサプリメントなどから過剰に摂取した場合でも、体内で必要以上に活性化*されることはありません。
そのため、副作用として高カルシウム血症(血中のカルシウム濃度が異常に高くなること)などの障害を起こす可能性は低いと考えられます。
活性化…体内で作用できる状態に変化すること。
一方、病院で処方されるビタミンDの製剤(活性型ビタミンD)は、摂取した分だけ作用が強まります。多量に摂取し続けると、血中のカルシウム濃度が高くなり、やがて余分なカルシウムは尿中へ排出されます。
腎臓では、カルシウムが腎臓に沈着して目詰まりを起こすことのないよう、どんどん尿が排出されます。このはたらきによって尿崩症(多尿になる病気)が起こると、場合によっては脱水による腎不全(腎臓の働きが大幅に低下した状態)を発症するリスクがあります。
東京大学医学部附属病院 難治性骨疾患治療開発講座 特任准教授、骨粗鬆症センター 副センター長
東京大学医学部附属病院 難治性骨疾患治療開発講座 特任准教授、骨粗鬆症センター 副センター長
日本内科学会 総合内科専門医・内科指導医日本内分泌学会 内分泌代謝科専門医・内分泌代謝科指導医・評議員日本糖尿病学会 糖尿病専門医・糖尿病研修指導医日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医日本骨粗鬆症学会 認定医・評議員日本骨代謝学会 評議員
糖尿病、高血圧や内分泌疾患全般を診療しているが、その中でも骨粗鬆症や原発性副甲状腺機能亢進症、くる病・骨軟化症といった骨代謝疾患の診療を専門としている。特に生理的なリン濃度調節因子であるFGF23が関連する疾患に関しては世界に先駆けた臨床研究・基礎研究を行っている。
「東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科 内分泌骨ミネラル代謝研究グループホームページ」
https://plaza.umin.ac.jp/bone-mineral-lab/
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