インタビュー

悪阻の症状を緩和させるためには―マグネシウムの十分な摂取が大切

悪阻の症状を緩和させるためには―マグネシウムの十分な摂取が大切
恩田 威一 先生

東京慈恵医科大学 元教授・客員教授 、茅ケ崎市立病院 産婦人科元部長、 慈誠会病院 勤務

恩田 威一 先生

目次
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記事1、2、3にわたり、悪阻の原因をご説明してきました。本記事では、悪阻の症状を少しでも和らげるために何ができるのかをご紹介します。なかでもマグネシウムを十分に摂取すること、お腹を温めることは重要であり、個人で手軽に実践することができます。引き続き、東京慈恵医科大学元教授客員教授/茅ケ崎市立病院元産婦人科部長の恩田威一先生にお話を伺いました。

悪阻の症状は第1期、第2期、第3期に大別されます。

第1期:悪心・嘔吐を主な特徴とする時期

  • 嘔吐が頻繁に起こり、食事摂取が難しくなります。
  • 口渇や皮膚乾燥などの脱水症状があらわれ、嘔吐物に胆汁や血液が混じる場合があります。
  • 体重減少、めまい頭痛が起こります。
  • 尿中ケトン体、ウロビリノーゲンやウロビリン、尿たんぱくが陽性になります。

第2期:代謝障害による全身症状が現れる時期

  • 著しい体重減少、口渇、皮膚乾燥が現れ、尿量が減少します。
  • 軽い黄疸・発熱・頻脈があらわれます。
  • 血中の電解質異常・タンパク減少が起こります。

第3期:脳症状、神経症状が現れる時期

  • 肝機能障害及び黄疸が起こります。
  • ケトーシス、代謝性アシドーシスがあらわれます。
  • 意識障害、眼振・眼球運動障害、難聴・耳鳴、小脳性運動失調などが現れます。
  • 最悪の場合、母体や胎児の生命の危険が予測されます。
  • これらの症状は人によって急に悪くなる方もいれば徐々に出てくる方もいます。

(恩田威一先生著書「悪阻なんてこわくない 安産のための手引き」より)

悪阻が著しく、全く食事が摂れない、水も飲めないという場合や、体重減少が著しいときなど、ご自身がこのままでは危ないと思ったら病院を受診してください。(詳細は記事1『悪阻(つわり)とは? 悪阻の原因と症状、受診のタイミングについて』

胎児への影響を不安に思う方は、尿のケトン体を調べてもらうとよいでしょう。家ではなかなか対策ができませんから、早めに受診すること、待たずに相談することを意識します。

あまりにもひどくなった場合は病院への受診が必要ですが、日常的に注意することで悪阻は緩和できることがあります。具体的には、以下の点が挙げられます。

  • 真水の飲水を避ける
  • 塩分を制限し過ぎない
  • でんぷんのみを摂取しない
  • 塩飴をなめる(舐めづらいときには少し小さめの塩飴を試してみるとよいでしょう)
  • カリウムの多い食材を食べる
  • マグネシウムを多く含む食品を摂取する
  • レモンや酢などクエン酸を含むものを食品に混ぜる
  • 牛乳を飲んで悪心が現れるようなら避ける ※妊娠中は赤ちゃんにカルシウムが必要だと思い、大量に牛乳を飲む妊婦さんがいますが無理は禁物です。無理をすると大切な栄養素、電解質が摂取できなくなります。胎児のカルシウムの80%は妊娠末期に母体から供給されます。
  • お腹を腹帯などで温める。少量の冷えた炭酸水の飲水を試みる。

上記のうち特に、マグネシウムの十分な摂取は血清マグネシウムの低下を防ぎ、悪阻予防に効果があります。

日本人のマグネシウム摂取量は年々減少しています。マグネシウム食事摂取基準の(推奨量)は、下記の表のとおりですが、2012年国民健康・栄養調査結果によると、日本人の平均マグネシウム摂取量は236~248mg、充足率にしてわずか65%(男性)にとどまっているという現状があります。1日あたり130mg程度(男性)、80mg程度(女性)で、明らかに不足しているのです。(横田先生の記事

引用:日本人の食事摂取基準(2020 年版)
引用:日本人の食事摂取基準(2020 年版)

マグネシウムは、種実類やバナナ、海藻類などに多く含まれます。どのような食材に含まれているか覚えるのは難しいと思いますので、頭文字をとった「そばのひ孫と孫は(わ)優しい子かい? 納得!!」として覚えるとわかりやすくなります。(横田先生の記事)

苦手なものがある場合は、バナナだけでも食べてみるとよいでしょう。バナナを食べるだけで牛乳が飲めるようになることもあります。

軽度な運動をすると、使った筋肉にマグネシウムが取り込まれるため血清マグネシウムが低下し、悪阻が出やすくなります。逆に、激しい運動をすると使った筋肉からマグネシウムが血液中に出てきます。海で遠泳を3kmしたら悪阻が軽くなったという方がいます。悪阻が軽くなるか重くなるかについての運動量には個人差があると推測されます。

妊娠中は適度な運動が推奨されますが、悪阻の観点から見ると、軽い運動によってかえって悪阻が悪化しますから、無理せず安静を保ってください。

お腹にガスがたまって悪心が悪化したときは、タオルを腹部に巻いてお腹を温めることを意識してみましょう。

もちろん、薬による化学的な蠕動運動の誘発方法もあるのですが、お腹を外から温めるだけでも腸の動きは改善します。逆に冷たい少量の炭酸水も悪阻の症状を軽減します。

妊婦さん、睡眠

お腹を温めることは家庭ですぐできる対処法です。悪阻の強い妊婦さんは不眠になりがちですが、眠れないときにもお腹を温めると、副交感神経が優位になって自然に眠気が訪れます。腰腹部を温めると交感神経がブロックされ副交感神経活性が優位になるために腸蠕動が促進されるとの報告があります。腸が外から温められるだけでも神経の影響を受けずに腸蠕動が改善すると思われます。

このように、お腹を温めると悪阻に伴うさまざまな症状が改善されると考えられます。

なお、なかには腸にガスがたまっていることに気づかない方がいますが、げっぷが出やすい、今まで履いていたズボンがきついなど、客観的な見方をすればお腹にガスがたまっていることがわかります。一度ご自身の体調を見直してみましょう。

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  • 東京慈恵医科大学 元教授・客員教授 、茅ケ崎市立病院 産婦人科元部長、 慈誠会病院 勤務

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