2016年6月18日土曜日と6月19日日曜日に、東京都新宿区にて「筋膜性疼痛症候群(MPS)研究会第17回学術集会」が開催されました。
第17回の開催となる今回は、「腰殿部痛の“発痛源評価の標準化”と治療技術交流による多職種連携を目指して」と題され、200名以上の会員が集まり、意見交換が行われました。また、18日の午前にはさらなる技術習得のため、初の試みであるプレセミナーが開催されました。本記事では、年々会員数が増え、注目が高まっている筋膜性疼痛症候群(MPS)研究会学術集会の様子をご紹介します。
筋膜性疼痛症候群(きんまくせい とうつうしょうこうぐん、Myofascial Pain Syndrome:MPS)とは、筋内および筋周囲にある「筋膜Myofascia」が原因となり痛みやしびれを引き起こす病気のことをいいます。
※関連記事:白石吉彦先生「筋膜性疼痛症候群とはどんな病気?原因が分からなかった痛みの正体」
筋膜性疼痛症候群(MPS)は全身で起こる可能性もありますが、同時に全身が痛むことはほとんどなく、首や腰、片側の肩などの特定の部位や複数の部位の組み合わせで発生します。近年テレビなどで取り上げられ、注目を浴びつつあります。
MPS研究会は木村ペインクリニックの木村裕明先生(リンク)が会長を務められ、以下の3つを目的として活動しています。
・筋膜性疼痛症候群(MPS)の周知活動
・筋膜性疼痛症候群(MPS)のより詳細な原因、症状、治療方法の研究
・筋膜性疼痛症候群(MPS)に関する医療・学術情報発信
メディカルノートでも取材させていただいた白石吉彦先生(リンク)も会員のお一人であり、そのほか、各地域で活躍されている医師・歯科医師・鍼灸師・理学療法士など様々な職種の方々が会員として、尽力されています。
さらなる技術習得の機会が欲しいという会員からの要望を受け、18日のMPS研究会第17回学術集会前に、初の試みであるプレセミナーが開催されました。プレセミナーは、「局所治療(例:注射、鍼、徒手、皮膚刺激ツール)によるFasciaリリース手技を修得するために必要な、体表解剖・臨床的触診技術・エコー走査技術の習得」を目的とし、希望者24名の少人数限定で実施されました。
*Fascia(ファッシャー):筋膜や腱、靭帯、脂肪などの線維性結合組織の総称のこと
参考記事:木村裕明先生「靭帯や腱などの結合組織(Fascia)への治療も効果的。筋膜リリースからFasciaリリースに注目が高まる」
第17回学術集会の担当幹事である株式会社ゼニタ 代表取締役社長の銭田 良博先生(理学療法士・鍼灸師)の挨拶のあと、エムツー訪問看護ステーション仙台長町で理学療法士として活躍されている山崎 瞬先生による「肩関節の機能解剖と動作の見方について」の講義が行われました。講義では、和やかな雰囲気のなか実際に腕や肩を動かしながら肩関節の動作評価が実践されました。
続いて、日本超音波鍼灸協会 会長の吉村亮次先生よりエコー(超音波)を使った肩関節の触診について講義が行われました。エコーでの触診のポイントは、「鎖骨(さこつ)や肩甲骨(けんこうこつ)などがどこにあるか骨を全体的にイメージすること」、「その後投影したい部位にエコーを当てて触診を行うこと」であるというお話がありました。吉村先生によるデモンストレーションのあと、6つのグループに分かれ、エコーを用いた触診の実技が行われました。
最後に、弘前大学医学部附属病院 総合診療部の小林 只先生より、動作評価、触診、エコーを集約したfasciaの評価方法(癒着程度・滑走性・伸張性を)、fasciaリリースの適応・意義・具体的な方法について講義と実技が行われ、各グループ、時間の許すまで活発な実技とディスカッションが行われました。
プレセミナーの最後には、『「痛みの自覚症状がある部位に原因がある、という思い込みを捨て、解剖・動作・エコーなどにより適切に発痛源を検索し、悪化因子を評価していくことの重要性の周知」や、「発痛源や悪化因子を同定していくための診察(問診・触診・エコー)の標準化」を目指す』というMPS研究会の方向性が提示され、閉会となりました。
プレセミナーの後、17時からMPS研究会第17回学術集会が開催されました。はじめに、MPS研究会の会長である木村ペインクリニック院長 木村裕明先生よりご挨拶と研究会の報告がありました。続いて第17回学術集会の担当幹事である株式会社ゼニタ 代表取締役社長の銭田 良博先生の挨拶があり、その後基調講演が行われました。
基調講演では、よしだ整形外科クリニック院長 吉田眞一先生が「腰殿部痛の発痛源の診断と治療について~仙腸関節痛との鑑別~」というテーマでお話がありました。また、実際に腰痛がある方にどのように診察・評価をされているか、会員の方をモデルに実演がありました。吉田先生の診療を垣間見ることができた、貴重な講演となりました。
続く特別講演では、首都大学東京大学院 理学療法科学域教授 竹井仁先生(理学療法士・医学博士・Fascial Manipulation国際インストラクター)から「筋膜に対する最新の知見と筋膜痛に対する筋膜マニピュレーション」というテーマでお話がありました。講演後半は、痛みの部位だけではなく、病歴・外傷歴・手術歴・仕事・生活背景などからの全身の評価、負担のかかっている結合組織のラインの評価、発痛源だけでなく適切なアライメント評価による悪化因子の検索と治療方法(例:筋膜マニピュレーション)など、竹井先生の非常に丁寧で深い評価方法が実演されました。
6月19日(日)9時より、MPS研究会第17回学術集会の2日目が開催されました。朝9時という早い時間にもかかわらず、昨日同様200名を超える会員が集まりました。
はじめに、エムツー訪問看護ステーション仙台長町で理学療法士として活躍されている山崎 瞬先生を座長に、会員4名による症例発表と質疑応答が行われました。
【症例発表】
会員の先生方が日々の診療のなかですでに経験している患者さんや、また今後経験しうる患者さんであるということもあり、非常に活発な質疑応答が行われました。
続いて、理学療法士・鍼灸師であられる株式会社ゼニタ 代表取締役社長の銭田 良博先生、さきほどの症例発表で座長を務められた山崎 瞬先生を中心に、「腰臀部痛に対する発痛源評価(臨床的触診含む)とエコー実技」が行われました。
昨日のプレセミナーと同様に、実際に体にエコーを当てて行われました。多くの先生方が画面に映し出された映像を食い入るように見ておられ、真剣な表情が印象的でした。
日々患者さんと向き合う医師や理学療法士、鍼灸師の先生方が、MPS研究会に一同に会し、真剣に技術習得やディスカッションを行う熱量の高さこそが、MPS研究会の目的を達成する原動力となるのではないでしょうか。
木村ペインクリニック 院長
木村ペインクリニック 院長
日本ペインクリニック学会 ペインクリニック専門医日本麻酔科学会 麻酔科認定医
ペインクリニックを開業して20年、痛み治療の名人として多くの患者に支持され、MPSの新しい治療法である、筋膜間ブロック(スキマブロック)、生理食塩水を用いた筋膜間注入法、エコーガイド下筋膜リリース等の治療法を考案。2009年より筋膜性疼痛症候群(MPS)研究会の会長に就任、研究会の会員は急速に増えており、2015年現在600名を超える。年2回の学術集会と会員専用掲示板(各種治療手技の動画や症例検討など、2年間の運用で書き込み数1万以上)で、MPSの治療法や診断について活発に議論を行い、また各地での講演活動等、精力的なMPSの啓発活動も行っている。
木村 裕明 先生の所属医療機関
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