記事1『理想のがん医療を目指す静岡県立静岡がんセンター』では、静岡県東部地域で実施されるファルマバレープロジェクトの基幹施設である静岡県立静岡がんセンター(以下、静岡がんセンター)の先進的な取り組みを紹介しました。それでは、ファルマバレープロジェクトとはいったいどんなものなのでしょうか。「静岡県に医療城下町を!」をモットーとしてつくられたファルマバレープロジェクトについて、ご自身もプロジェクト創設にかかわられた、静岡がんセンター総長 山口 建先生におうかがいしました。
ファルマバレープロジェクトとは、静岡県東部地域に静岡がんセンターを中心とした医療健康産業クラスターを形成することを目標としたプロジェクトです。創薬や新しい医療機器の開発などの「ものづくり」、ものづくりの技術者や医療技術者を雇用・育成する「ひとづくり」、新しい産業や工業団地の形成、あるいは雇用の創出などで街全体を活性化させる「まちづくり」、最後にファルマバレープロジェクトで経済を豊かにする「かねづくり」の4つの視点から成り立っています。
ファルマバレープロジェクトのものづくりは、以下の三態です。
大企業のお手伝いは、静岡がんセンターのノウハウや800人にも及ぶ医療スタッフの意見をもとに現在、静岡がんセンターに導入されている製品の次世代版をつくるという取り組みです。大企業の持続性と医療現場の声に即した製品開発が可能であるため、一度製品化できれば、ほぼ100%、販売にこぎ着けることができます。
次は、医療者や患者さんのニーズに沿った製品づくりです。サンスター株式会社と共同開発した、低刺激性の「バトラー口腔ケアシリーズ」は口腔粘膜炎の患者さんでも安心して使うことができます。また、日々の仕事で手荒れに悩む看護師の声を反映した「PRO’S CHOICE ハンドクリーム」は、セラミドを使い高保湿を実現しつつ、看護師と接する患者さんを不快にさせない程度のほどよい香りで人気があります。
最後の橋渡し研究は、成功する確率は低く、製品化には大きな困難が伴いますが、画期的な製品が生み出される可能性があります。先に挙げた次世代製品やニッチ製品が開発されているからこそ、継続できる研究といえるでしょう。このように現場のニーズと利益を合致させたものづくりは、ファルマバレープロジェクトにおいて重要な位置を占めています。
ひとづくりは雇用機会の創出だけでなく、専門性の活用や人材の育成などが含まれます。ファルマバレープロジェクトの参加企業は500社にのぼります。また、この壮大なファルマバレープロジェクトの実施にあたり企業とのマッチングや医療スタッフの声の反映、開発した製品の承認や医療機関への導入を担う「ファルマバレーセンター」も創設されました。ここでも新たな雇用が生まれ、ファルマバレープロジェクトはますます拡大・発展しています。
ファルマバレープロジェクトへの多数の企業の参加、雇用機会の創出などにより、静岡県東部地域全体も活気づいています。地域活性化総合特区の指定、国家補助金による支援、ものづくりに伴う工業団地の形成、伊豆かかりつけ湯の指定などの結果、多くの人が三島市や沼津市、駿東郡長泉町、伊豆半島などに集まっています。
実際に2008年のリーマンショック後に全国の公示地価が下がったとき、この地域は数少ない公示地価上昇の地域でした。この地価上昇には、ファルマバレープロジェクトの力があったからだと分析しています。
静岡県における医薬品や医療機器の生産額は、年々右肩上がりです。医薬品生産額は全国4位、医療機器生産額は全国1位、化粧品生産額も全国1位です。医薬品・医療機器の生産額は全国1位、化粧品を含めると静岡県の他の産業の中でも4番目の産業規模となり、生産額総計は1兆4000億円程度に達しています。
ファルマバレープロジェクトは、内閣府による分析によって十数か所ある全国の医療系の総合特区のなかで最高の評価を得ています。ここまでファルマバレープロジェクトが成功した理由は、まず静岡がんセンターという医療機関が中心にあったこと。そのほか、数々のものづくり産業などの基盤となる産業が存在したこと、テルモ株式会社の工場など大企業の存在、総合特区制度、一気通貫の医療ものづくり体制、販売促進体制などがあったことなどが挙げられます。ファルマバレーセンターはその全体像の取りまとめ役です。このように多くの要因がよい方向へと作用して、医療スタッフも患者さんも、また、静岡県東部地域に暮らす住民の方々や地場企業の皆さんもメリットを享受できる一大プロジェクトに育ちました。
その一方で課題もあります。医薬品や医療機器の多くでは生産・販売に当たって様々な形での厳しい規制があり、地域企業の参入障壁が依然として高いこと、医療機器や医薬品という特性から、数量は少なく、利益を生むまでに時間がかかること、地域企業の努力だけでは難しい特殊な製品販売体制があることなどです。これらの課題を、静岡県庁、静岡がんセンターやファルマバレーセンター、企業などが力を合わせてひとつずつ解決していくことで、今後よりいっそうファルマバレープロジェクトは拡大していくのではないでしょうか。
静岡県立静岡がんセンター 名誉総長(兼)研究所長(併任)静岡県理事
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