記事1『家族性高コレステロール血症とは 黄色腫などの症状が出る』では家族性高コレステロール血症の原因や症状についてお伝えしました。家族性高コレステロール血症は放置しておくと命にかかわることもある疾患ですが、早期発見し、適切に治療を行えば健康な方と同じように生活することができます。また、近年ではロミタピドやPSCK9阻害薬など、効果的な新薬も誕生しています。家族性高コレステロール血症の検査や治療(妊娠中の治療も含む)について、引き続き名古屋大学大学院医学系研究科 地域在宅医療学・老年科学分野 教授の葛谷 雅文先生にお話をうかがいました。
家族性高コレステロール血症は遺伝疾患のため、家族性高コレステロール血症の家族歴がないかが診断の大きなポイントのひとつです。二親等以内(祖父母、父母、兄弟、子ども)がすでに家族性高コレステロール血症と診断されていないか、または若くして心筋梗塞や狭心症といった冠動脈疾患を発症していないかなどを確認します。
家族性高コレステロール血症の診断の目安となる、コレステロール値を測定します。ヘテロ接合体の患者さんでは平均320〜350mg/dL ホモ接合体の患者さんでは平均600〜1200mg/dLのコレステロールの上昇が認められます。成人では、
このうち項目以上当てはまればFHヘテロ接合体と診断します。
コレステロール値がヘテロ接合体の平均よりも高く、家族歴も含めてホモ接合体の家族性高コレステロール血症が疑われる場合は、遺伝子検査を実施してLDL受容体遺伝子や、LDL受容体の再利用を阻害するPSCK9の遺伝子変異がないかを調べます。
家族性高コレステロール血症の治療ではコレステロール値を目標値(LDLコレステロール100mg未満、それが達成できない場合は治療前の50%未満)まで下げ、コレステロール値をコントロールすることが治療の目標です。治療は、4つの段階にわかれます。
低脂質、減塩で野菜中心の食生活を行います。
コレステロールを多く含むレバーなどの内臓類や魚卵、飽和脂肪酸の含まれる肉の脂身やバター、ラードなどの摂取を減らします。
血清コレステロール値を下げる作用のある食物繊維が多く含まれる、野菜や海藻、きのこ類などの食べ物を積極的に摂取するのも効果的です。野菜の1日の摂取量は目安である350gを目標に、にんじんやブロッコリーなどの緑黄色野菜を積極的に摂取しましょう。
塩分の過剰摂取は高血圧を招き、高血圧を合併すると動脈硬化が進行します。そのため薄味の味付けを心がけます。
また、飲酒も主治医と相談しながらほどほどに控えましょう。そのほか、ゆっくり噛んで食べる、食べる時間に気をつける(寝る直前に食べない)といったことを意識します。
家族性高コレステロール血症では食事療法をしながら、積極的に薬物治療を行います。ヘテロ接合体、ホモ接合体ともに最初はスタチンという薬剤を使用してコレステロール値の低下を試みます。
スタチンはLDL受容体を増やして血中から肝臓へのLDLコレステロールの取り込みを促進することによって、血中のLDLコレステロールの量を低下させます。
スタチンには効果のゆるやかなスタンダードスタチンと、効果の強いストロングスタチンがあります。ホモ接合体の患者さんでは、ストロングスタチンを使用しての治療が行われます。しかし、ホモ接合体でLDL受容体活性が完全に欠如している場合にはその効果は期待できません。
スタチンを耐用量まで使用してもコレステロール値が思うように改善しない場合は、エゼチミブやレジンによる治療に移行します。
エゼチミブは小腸からのコレステロール吸収を抑制することで、血中コレステロールを下げる薬です。コレステロールは体内で合成されるものと食事から摂取されるものがあり、エゼチミブは後者に効果を発揮します。
レジンは肝臓でコレステロールから産生される胆汁酸を腸管内で吸着し、その再吸収による腸肝循環を阻害することにより、コレステロールから胆汁酸への異化を促進します。これにより、体内のステロールプールの減少と肝臓におけるLDL受容体の合成亢進をもたらす結果、血液中のLDLコレステロールが低下します。
多くのヘテロ接合体の患者さんはこの段階でコレステロール値が改善します。
エゼチミブやレジンでも十分な効果を得られない場合には、LDLアフェレーシスを実施します。腎臓病における人工透析のように、いったん血液を外へ出し、機械でLDLコレステロールを取り除いて体内に戻す治療法です。
治療時間は1回あたり2〜3時間程度で、1〜2週間に1回程度行います。ホモ接合体の患者さんは、LDLアフェレーシスまで行わなければコレステロール値をコントロールできない場合が多いです。
家族性高コレステロール血症の治療に使用する薬剤などが直接、不妊につながるおそれはありません。しかしながら妊娠中に薬物治療を実施すると胎児に影響を与える可能性があります。
家族性高コレステロール血症の患者さんが妊娠を希望する場合は一度治療を中断します。ヘテロ接合体の患者さんであれば、一定期間であれば薬物治療を行わずとも症状が進行するおそれは少ないですが、ホモ接合体の患者さんはレジンやLDLアフェレーシスを用いてコレステロール値をコントロールします(なかにはヘテロ接合体の患者さんでもレジンを使用することがあります)。
レジンは体内に吸収されない薬剤のため、妊娠中に服用しても胎児に影響はありません。
そして出産・授乳期間を終えて通常の治療を再開します。
近年、ロミタピドとPSCK9阻害薬という2種類の新薬が家族性高コレステロール血症の適応になりました。この2剤の誕生により、家族性高コレステロール血症の患者さんの治療が劇的に変わるのではないかといわれています。
ロミタピドは、ミクロソームトリグリセリド転送タンパク質(MTP)阻害剤ともいわれます。体内では、肝臓でつくられた中性脂肪がアポリポプロテインB-100と結合したVLDLというリポ蛋白の粒子がつくられます。肝臓内の中性脂肪とアポリポプロテインB-100を結びつけるものがMTPと呼ばれる酵素です。ロミタピドはこの酵素に作用し、MTPのはたらきを弱めることでVLDLの生成を阻害します。VLDLは代謝され最終的にLDLに変換されるため、LDLコレステロール自体が減少することになります。しかしながら、特定疾患の医療費補助が受けられるものの薬価が高価であることがデメリットです。本剤はより重症度の高いホモ接合体の患者さんにのみ適応となっています。
PCSK9阻害薬は2016年の春に承認された薬です。
通常、LDL受容体はLDLコレステロールと結合し肝臓内に取り込まれると、今度はLDLコレステロールとの結合を解除し、LDLコレステロールのみ肝臓内で分解・代謝されLDL受容体は肝臓の表面に出て再利用されます。しかしPCSK9というタンパク質があるとLDL受容体と結合してしまい、肝臓内ではLDL受容体も一緒に分解され、再利用ができなくなってしまうのです。すると肝臓表面のLDL受容体が減少し血中コレステロールが増加します。
PCSK9阻害薬は、その名の通りPCSK9に作用してそのはたらきを阻害します。PCSK9のはたらきを阻害することで、LDL受容体の分解の防止とLDLコレステロールの肝臓内取り込みを促進し、コレステロール値を下げます。しかし、PCSK9阻害薬もLDL受容体活性が完全に欠損しているようなホモ接合体の場合には効果は望めません。
家族性高コレステロール血症は治療せずにいると動脈硬化を促進し、心筋梗塞などの冠動脈疾患を発症し、時に命にかかわることがあります。しかし、適切に治療を実施すれば健康な方と同じように生活をすることが可能です。生存期間(寿命)に関しても、それほど影響はありません。実際に、私の患者さんで94歳の家族性高コレステロール血症の患者さんがいらっしゃいました。
家族性高コレステロール血症の患者さん、またはその疑いのある方は、まずはしっかりとこの疾患についての理解を深めることが大切です。ホモ接合体でもヘテロ接合体でも、適切に治療を行えば動脈硬化は予防でき、健康な方と同じように生活できます。ですから、悲観することはありません。
治療法については主治医の先生とよく相談し、継続して治療が行えるようにしてください。
名古屋鉄道健康保険組合 名鉄病院 病院長
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