MLD(異染性白質ジストロフィー)とは、酵素の欠損により発症するライソゾーム病(リソソーム病)のひとつです。治療法として、対症療法と造血幹細胞移植が存在します。
今回は、東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター センター長の大橋十也先生に、MLDの原因や新しい治療法についてお話をうかがいました。
MLD(異染性白質ジストロフィー)は、ライソゾーム病という難治性疾患の一種です。私たちの体内では、いらなくなった物質は、細胞のなかにあるライソゾーム*というところで分解して、新しい物質をつくるのに再利用されています。そして、ライソゾームには多くの種類の酵素が入っており、その酵素が物質を分解するはたらきをします。
ライソゾーム…消化作用などがある細胞小器官。
ライソゾーム病とは、その酵素が生まれつき欠損しており、細胞のなかに、老廃物が蓄積してしまう疾患です。非常にまれな疾患であり、指定難病となっています。
ライソゾーム病は、2017年現在、約40種類が発見されています。そのなかで、脳のMRI*を撮影し、白質の部分に変性が現れる疾患の代表が、MLDとクラッベ病です。この2つの疾患を合わせた患者数は、日本では20人前後だといわれています。
MRI…磁気を利用して、人体の断面を撮影するもの。
MLDはアリルスルファターゼAという酵素の欠損により発症します。アリルスルファターゼAが欠損していることにより、脳の白質や腎臓、末梢神経に老廃物が蓄積します。また、クラッベ病は、リソソーム酵素のガラクトシダーゼという酵素の欠損が原因です。どちらも脳の白質という場所に変性が現れますが、それぞれ欠損する酵素の種類が異なっています。
MLDは発症時期によって、乳児型、若年型、成人型と3つにわけられています。そして、患者さんにより、どの時期に発症するのかは異なります。なぜ個々で発症時期が異なるのかということは、まだわかっていません。
生後2歳以内に発症します。生まれてすぐに症状がでることもあります。この時期での発症は、症状の進行が早いという特徴があります。また、若年型、成人型よりも症状は重くなります。
4歳から12歳ほどまでに発症します。乳児期よりも症状はゆっくりと進行します。
13歳以降に発症します。若年型と同様に症状はゆっくりと進行し、3つのなかで最も症状は軽くなります。また、成人型の患者数は非常に少ないと思われます。
MLDの主な症状は、乳児期、若年期、成人期ともに、中枢神経症状です。けいれんや失禁、精神・運動発達遅滞が起こります。たとえば、歩くことができない、周囲の子どもよりも勉強が苦手といった症状が現れます。乳児型の患者さんは病状の進行が早く、1年から2年の間に寝たきりとなるケースもあります。しかし、同じ時期に発症しても、症状の進行スピードは患者さんによって異なります。
東京慈恵会医科大学附属病院では、リンパ球と白血球などを用いて、アリルスルファターゼAという酵素が欠如しているかどうかを検出します。遺伝子診断では、アリルスルファターゼAの関連遺伝子に変異がないかを調べます。
また、尿を採取し、尿中にアリルスルファターゼAによって分解されなかったスルファチドという物質が蓄積しているかどうかも確認します。
MLDの検査は、採血ができれば何歳からでも検査することが可能です。兄弟や姉妹がMLDを発症している場合などは、症状が出ていない段階でも、なるべく早く検査を受けたほうがよいでしょう。早期の治療で、患者さんの予後をよくすることが可能です。
MLDの治療法は、基本的に対症療法と造血幹細胞移植が行われています。
MLDの患者さんの多くは、対症療法を行っています。けいれんが起こった場合には抗けいれん薬を処方し、痙性麻痺(けいせいまひ)で筋肉が突っ張ってしまうようであれば、筋肉を柔らかくする酵素の入った薬を処方します。また、呼吸が難しくなった場合は気管切開*の実施、食事が摂れないときには胃瘻(いろう)*を作るなどの手術を行うケースもあります。
気管切開…頚部から気管を切開し、チューブを挿入して、気道口を設ける手術。
胃瘻…腹部の外側から胃にチューブを通し、栄養や水分を送り込む治療法。
造血幹細胞移植とは、正常な方の骨髄にある白血球、赤血球、血小板を作り出している造血幹細胞を、患者さんに移植する治療法です。
造血幹細胞移植を行い、正常な造血幹細胞を患者さんの体内に入れることで、欠損している酵素が補充されるようになります。
造血幹細胞移植は、発症初期の患者さんに行っています。そのため、病状の進行が早く、なかなか初期に見つけることが難しい乳児型の患者さんではなく、比較的ゆっくりと進行する若年型の患者さんに対して行われることがほとんどです。
近年はMLDの新しい治療法として、患者さんの髄液*のなかに、欠如している酵素を投与するという治療法が治験段階で実施されています。この治療によって、欠如している酵素が直接脳に作用し、症状の軽減や進行を遅らせることができるのではないかと期待されています。また、遺伝子治療に対しても治験が行われています。
髄液…脳室とくも膜下腔を満たしている液。
MLDは患者さんの数が少ないため、エビデンスをつくることが難しく、なかなか疾患の全体像が見えていない状態です。また、それぞれの患者さんを全国の先生がばらばらに診ている現状から、どこの病院にどのような症状の患者さんがいるということも曖昧であり、すべてを把握することはできていません。
しかし、新しい治療法の研究は日々進められています。また、患者さんの情報を登録する患者登録システムの開発も行われています。患者さんの情報を収集することで、治療法の研究に役立てることができます。今後の治療法の発展や、システムの向上に期待してください。
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