インタビュー

心因性発熱の診断と治療―子どもの学校生活や大人の仕事での対処方法は?

心因性発熱の診断と治療―子どもの学校生活や大人の仕事での対処方法は?
岡 孝和 先生

国際医療福祉大学医学部心療内科学 主任教授、国際医療福祉大学成田病院 心療内科

岡 孝和 先生

この記事の最終更新は2017年10月05日です。

心因性発熱を診断する際は、まず鑑別診断が必要で、その後に、心理的ストレスの関与を検討します。治療は薬物療法や心理療法、自律訓練法などを組み合わせて行います。

また、子どもの心因性発熱の場合は自分で何がストレスであるかを話せないことが多いため、周囲が子どものSOSを理解することが重要です。記事1『心因性発熱とは?ストレスが原因となって起こる解熱剤の効かない病気』に引き続き、国際医療福祉大学病院心療内科教授の岡孝和先生に心因性発熱の診断から治療、成人・子ども両方の日常生活での注意点について、お話しいただきます。

まずはきちんと鑑別診断をする、つまり身体疾患、特に感染症、炎症性疾患、悪性疾患による発熱や、記事1『心因性発熱とは?ストレスが原因となって起こる解熱剤の効かない病気』でご紹介した詐熱を鑑別することが重要です。血液検査やレントゲンなどの一般的な検査を一通り行い、身体的に異常がないかを確認します。

検査の結果が異常なしの場合でも、直ちに心因性発熱の診断はできません。確定診断のためには、心理社会的な要因の関与を証明する必要があります。

問診で、発症前の3か月~6か月以内に大きなストレスを受けていた時期があると判断できれば、ストレス性の発熱である可能性が高いと推測します。また、学校に行った途端に高熱が出るなど、明確な状況依存的エピソードがある場合や、抗不安薬や睡眠導入剤の処方で体温が下がった場合も心因性発熱の診断の助けになります。

このように、鑑別診断、積極的診断、治療的診断の組み合わせによって心因性発熱の診断が行われます。

細菌やウイルス感染による通常の発熱の場合はその病原体に応じた抗生剤や解熱剤の処方によって治療が行われます。一方、ストレス性の発熱である心因性発熱には、その人の個別的なストレスに対する処方箋が治療になります。つまり、その方にとって何がストレスになっているのかを見出し、解決することが、心因性発熱の治療では重要になるのです。

具体的には、心理療法(その方にとって何がストレスとなり、そのストレスをどのように軽減していくかを考える治療法)や、認知行動療法(物事の考え方を柔軟にする心理療法)、自律訓練法(交感神経の緊張を軽減するためのリラクゼーション法)などを併用して行います。

リラックスして横たわる人

 

※自律訓練法:1回5~6分ほど公式(心をリラックスさせるための定型文)を唱えることで心身を落ち着かせ、筋弛緩と血管拡張の状態を作り出して、きちんとリラックスできるように練習する治療法。うまく緊張状態から抜け出せない方に効果があるとされる。

微熱と倦怠感が持続するタイプの心因性発熱に対しては、補中益気湯という漢方薬が効果的です。またタンドスピロンクエン酸塩などの抗不安薬や、SSRIまたは三環形の抗うつ剤も有効な場合があります。ベータ遮断薬が有効なこともありますが、患者さんの容体や年齢に応じて処方します。

また、不眠や睡眠障害の症状がある方には睡眠導入剤を、頭痛や腹痛などのストレス性の症状を併せ持っている方にはそれらの症状に対する薬を、あわせて投与します。

小中学生の場合は心因性発熱に加えて起立性調節性障害が併存していることも多いので、その場合はミドドリン塩酸塩製剤で治療を行います。

子どもを撫でて微笑む大人

子どもは自分にとって何がストレスであるか言語でうまく伝えられないので、発熱が心理的ストレスによって起きていることを周囲が理解し、協力する姿勢が大事です。

「よい子」といわれる子どもには心因性発熱がよくみられます。そうした子は、常に笑顔で明るくふるまうため、大人からは一見すると何をストレスに感じているのかわからないこともあるでしょう。しかし、本人は発熱という形でSOSを出しています。子どもが発する心のメッセージは多種多様ですから、周囲がそのメッセージをきちんと理解してあげる必要があります。

37度前後の微熱が慢性的に続いている状態は、体温を上げるための余分なエネルギーを、常に使っているのですから、普通に生活しているだけでもかなりの体力を消耗します。

心因性発熱を起こす方の多くは努力家で、限界まで仕事や介護を頑張ってしまう傾向にありますが、その状態を続けていては、なかなか治りません。

外来では、心因性発熱の患者さんに下図のようなシート紙を渡しています。

 

心因性発熱

 

このシートを通じて、患者さんは普段よりも多くのエネルギーを放出していること、そのため普段通りのペースでは体を酷使しすぎてしまうこと、体の声を聴いてこまめに休む必要があることを理解していただきます。

そして、患者さん自身が日々の生活のなかで息抜きをするための工夫を一緒に考えていきます。

たとえば、目を閉じて体を横にするだけでもリラックス効果があります。交感神経は寝たときよりも座ったとき、座ったときよりも立ったときのほうが緊張します。患者さんにはこまめに体を横に寝かせて目を閉じ、リラックスする時間を作ることをお勧めしています。

岡孝和先生

大人の心因性発熱を治療する際に、私はよく、患者さんに対して、「患者さん自身が自分の主治医になることが重要です」と説明しています。

医師は患者さんの中にいる主治医に対する指導医であるとお考えください。指導医である我々は、病気の専門家として、どのようなことでも相談に乗ります。ただし、患者さんの生活環境や、体調、価値観などに応じて最も適切なアドバイスをすることができるのは、患者さんのなかの主治医です。ストレス性の病気を治療する際には、ご自身のなかの主治医とよく相談する習慣を持つことが大切です。

指導医のアドバイスのもとに、自分自身のなかの主治医とよく相談しながら、あなたの生活習慣や生活環境に応じた、無理のない治療を考えてゆきましょう。

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  • 国際医療福祉大学医学部心療内科学 主任教授、国際医療福祉大学成田病院 心療内科

    岡 孝和 先生

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