多系統萎縮症の治療は、基本的に対症療法やリハビリなどが行われています。そして、それらの治療を早期に行うことで、患者さんの状態がよくなるということがわかっています。今回は多系統萎縮症の治療法や最新の研究について、前回に引き続き、国立精神・神経医療研究センター病院神経内科診療部部長の高橋祐二先生にお話しいただきました。
多系統萎縮症は、疾患そのものを治す根治療法はまだありません。そのため、対症療法とリハビリが中心となります。
小脳失調症状、パーキンソン症状、自律神経障害共に、でてきた症状に対して薬物療法などの治療を行います。たとえば、起立性低血圧の症状がある場合は、血圧をあげるような薬を投与します。パーキンソン病の治療薬が一定の効果を呈することがあり、パーキンソン症状のある方には積極的に治療を行います。
多系統萎縮症の治療として、バランス機能を向上させる、歩く、起き上がるといった動作のリハビリも重要です。私たち国立精神・神経医療研究センターでも、多系統萎縮症の患者さんのリハビリは積極的に行っています。早期にリハビリをすることで、症状が緩和され、患者さんのQOL(生活の質)を保つことが可能となります。
多系統萎縮症は進行すると、嚥下障害や睡眠時無呼吸症候群、声帯の外転不全などさまざまな合併症を発症する可能性が高くなります。そして、そういった合併症への介入が遅れ、突然死を起こすケースも少なくありません。そのため、合併症に対する早期からのリスク評価と、医師を中心とした多職種チーム医療の介入が重要となります。
嚥下障害が起こった場合は、誤嚥しにくい食事の形態に変更することや、胃瘻(いろう)*
を作ることもあります。また、声帯の外転不全は呼吸障害につながるため、気管切開といった処置が必要となります。
胃瘻(いろう)…腹部に穴をあけ、直接胃に栄養を入れるもの。
多系統萎縮症の患者さんのなかには、COQ2という遺伝子の変異を持っている方が、一般の方と比較すると多い傾向にあります(多系統萎縮症の原因については記事1「多系統萎縮症とは 原因と症状、検査方法まで」をご参照ください)。COQ2とは、コエンザイムQ10を合成する酵素です。そして、COQ2の変異によりコエンザイムQ10の値が低下していることが、多系統萎縮症の発症に関係しているといわれています。そのため、2017年現在、コエンザイムQ10の大量投与療法の治験の準備が行われています。
コエンザイムQ10の大量投与療法が多系統萎縮症の根治療法になるのかはまだわかりません。COQ2だけで、この疾患のすべてが説明できるわけではないからです。しかし、この治験が成功すれば、症状の進行を遅らせたり緩和したりすることが可能になると期待されています。
現在、多系統萎縮症と脊髄小脳変性症のガイドラインを、厚生労働省の運動失調班が中心になって作っています。このガイドラインには、多系統萎縮症と脊髄小脳変性症の、疫学、原因、症状、検査、対症療法、リハビリといった項目が網羅されており、今後の診療に活用できる内容となっています。
ガイドラインを出すことで、より多くの医師たちに、多系統萎縮症の症状には、どういった治療を行うことが推奨されるのかを示す1つの指針になるのではと、完成に向けて作業を進めています。
国立精神・神経医療研究センターには、パーキンソン病を中心に、ジストニアや脊髄小脳変性症である多系統萎縮症といった疾患に対して、適切な治療の提供と研究を行うパーキンソン病・運動障害疾患センター(Parkinson disease & Movement Disorder Center:略してPMDセンター)があります。
パーキンソン病・運動障害疾患センターでは、神経内科、リハビリテーション科、脳外科、精神科といったさまざまな診療科と共に、看護部や検査部などがそれぞれの特徴を活かし協力をしながら、患者さんに最も適した診療を行っています。
多系統萎縮症を含む、脊髄小脳変性症の患者さんは、上記でも述べたとおり、早期にリハビリテーションを行うことで症状が改善しうるということがわかっています。そのため、パーキンソン病・運動障害疾患センターでは、脊髄小脳変性症の患者さんに対しての、リハビリテーションのプログラムをリハビリテーション科の方々と考案し実践しています。多系統萎縮症の患者さんも参加してくださっており、このリハビリテーションの効果から、退院し自宅で生活を送れるようになった方もいらっしゃいます。
また、多系統萎縮症の患者さんのなかには、うつ病を併発される方もいらっしゃいます。そういった場合、神経内科医だけでは、専門的にうつ病の治療を行うことはできません。そのため、パーキンソン病・運動障害疾患センターでは、精神科の医師と神経内科の医師が協力し、多系統萎縮症とうつ病の両方から専門的な治療を行っています。
パーキンソン病・運動障害疾患センターでは、上記の疾患の治療を行うだけではなく、隣接している神経研究所と連携しながら、基礎研究や臨床研究を進めています。たとえば、最近、神経研究所の研究により、脊髄小脳変性症の治療薬となりうるのもが発見されました。そのため、2017年現在、その精神研究所の研究成果に基づきながら、パーキンソン病・運動障害疾患センターで治験を行うプロジェクトの準備が始められています。
研究所とセンターが同じ施設内にあることで、研究から治験までの流れが非常にスムーズになります。日本国内では、これほど大きな規模で、神経難病の患者さんを診ながら、同じ敷地内に研究所があるという施設は、なかなかありません。
多系統萎縮症は、未だ原因のわかっていない疾患です。しかし、さまざまな症状に対して、私たちのような専門の神経内科医師が中心となって、多職種チーム医療を実践し、定期的な評価、対症療法やリハビリテーションといった介入を早めに行うことで、症状を軽減させたり、合併症を予防したりすることができます。決して、治療法のない疾患ではありません。
そして、技術の進歩に伴い、多系統萎縮症の原因に関係するものがわかりはじめてきました。多系統萎縮症解明の兆しは見えてきています。これからの研究にぜひ期待していただきたいと感じています。
国立精神・神経医療研究センター病院 脳神経内科診療部長
関連の医療相談が4件あります
病院のかかり方
診断を受けて4年です。 リハビリの充実した医療センターがかかりつけでしたが、2月から介護施設に入所したため 施設内科医(個人院)に薬を出してもらっています。 医療センターは少し遠く 他県なので母の体力を考えて、新しく地元の総合病院の神経内科へ転院をしようか迷っています。そこは急性期病院で、難病専門病院ではありません。田舎なので、神経内科のある地元病院はそこだけです。 今後を考えて医療センターから転院をしてよいのか、医師へどうかかってよいのか教えて下さい。 母は自分では起きあがれず車椅子に座らせてもらい食事介助です。 同居家族は父だけです。
デイサービスでのリハビリ
デイサービスのナースです。車椅子で来られている多系統萎縮症の方です。構音障害が見受けられること、最近よだれが多くなられました。口腔機能訓練をどの様に進めていけば良いでしょうか。発声練習も効果がありますか?単語はわかるものもありますが文章になるとかなりわかりづらいです。
ALSの可能性について
ここ数ヶ月体調不良が続いています。具体的には <体重減少>ここ数ヶ月で60kg前後→57kg前後。腕や胸・脚など全体的に筋肉が落ちた気がします。歩きにくさやつまづきなどの症状はありませんが、だるさは感じます。握力は両方とも40kg程度。 <筋肉の痛みピクつき>日によって変わりますが、腕の前腕や足のふくらはぎなどが左右関わらずピリピリ、時にズキズキと痛みます。また一日に何度も身体のいたるところがピクピク動いたり、波打つように動きます。 <左肩の痛み>今年の3月頃から痛みはじめ、整形外科でヒアルロン酸注射で治療中。若干改善しましたが痛みは相変わらずです。動かす箇所によって激しい痛みがでたり、動かさなくてもズキズキと痛む場合があります。 <不整脈>1年半前に不整脈でホルター検査→経過観察。数ヶ月前からまた不整脈(主に頻脈)。心臓・頸動脈エコーを受診また経過観察に。 <発汗異常>今までもたまにあるのですが、手足の先のみじっとりと汗をかきます。ここ数日特にひどくほぼ一日中汗を書いています。 今までもたまに体重減少の症状はありましたが、今回はその他症状が重なっていて日々体調が悪く、目立った筋萎縮はなさそうなものの、ALSの可能性を感じて不安になっています。たまたま今年定期検診で胃・大腸内視鏡検査を受け、問題なかったこともあり、今後その方向で脳MRI・筋電図などの検査を受けようと考えていますが、現段階で、ALS(もしくはその他の病気)の可能性について、この状況でなにかご意見いただけると幸いです。よろしくお願いします。
セカンドオピニオンの検討について判断したい
歩行困難、手足が自由に動かなくなってきている。ここ数週間の進行スピードが速い。 8月18日に急に足が思うように動かなくなり、その後日々悪化していき今は歩行困難、手も使い勝手が悪くなっている状況。 9月19日にかかりつけ医に受診し、パーキンソン病の疑いありと診断され、総合病院への紹介を受け、 9月28日に総合病院で1日検査を受け、29日に診断結果報告あり。 パーキンソン病の疑いは薄いとの判断。1か月様子を見ましょうとの事。 その後も本人の自覚では症状は悪化しているように感じている。現在起き上がったり動くのもままならない状況とのこと。 遠距離に暮らす私(息子)としてはセカンドオピニオンを検討したいがどうしたらよいでしょうか?
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