概要
脊髄小脳変性症とは、おもに小脳や脊髄の神経細胞が障害されることで発症する神経の変性性疾患をさします。小脳や脊髄が障害を受けることから、歩行時のふらつき、手の震え、ろれつが回らないなどの症状が出現します。遺伝子変異に応じて病気を発症することもありますが、はっきりした原因を同定できずに発症する方もいらっしゃいます。脊髄小脳変性症は原因に応じて分類されており、数十を含む病型が存在すると報されています。
脊髄小脳変性症は日本において難病指定を受けている疾患の1つであり、全国で3万人以上の方が本疾患に罹患していると報告されています。現在のところ、脊髄小脳変性症を根本的に治療する方法は存在しません。脊髄小脳変性症の症状の出現様式には個人差があり、病状は徐々に進行します。したがって、症状にあわせた支持療法を行うことが非常に大切です。
原因
脊髄小脳変性症は、数十もの病型が存在することが知られています。まず、大きな原因としては、遺伝性と非遺伝性の2つに分類できます。
遺伝性を示す脊髄小脳変性症は全体のうち30%ほどを占めており、さらに遺伝様式に応じて「常染色体劣性遺伝形式」を示すものと、「常染色体優性遺伝形式」をしめすものに分類できます。日本において常染色体劣性遺伝性脊髄小脳変性症は少数ではありますが、小児期に発症するケースが多いといわれています。これは遺伝子の変異の影響の仕方が関与していると考えられます。つまり、劣性遺伝では、2つある遺伝子が両方とも異常遺伝子でなければ発症しません。すなわち、劣性遺伝の場合は最初から正常な遺伝子がないため、早くから(多くは小児期に)発症すると考えられます。
一方、常染色体遺伝形式を持つ脊髄小脳変性症は、より頻度が高いと考えられています。日本においては、3型、6型、31型、赤核淡蒼球ルイ体萎縮症と呼ばれるものが大多数を占めています。これらの遺伝子異常に関連して、遺伝子によくみられる「繰り返し配列(リピート)」が異常に伸長するという変異が特徴です。たとえば、3型、6型、赤核淡蒼球ルイ体萎縮症ではCAG(グルタミンというアミノ酸をつくる塩基配列)の配列が通常よりも長く伸びています。
遺伝性を示さないタイプの脊髄小脳変性症も知られています。こうしたタイプの脊髄小脳変性症を弧発性と呼びますが、障害を受けている神経の種類に応じてさらに、多系統萎縮症と皮質性小脳萎縮症(CCA)に分類されます。
症状
脊髄小脳変性症は、その名前が示唆する通りおもに脊髄と小脳に障害が生じる病気です。小脳や脊髄は体幹や言葉の抑揚に関連した筋力のバランスや歩行の調節などを保つのに非常に重要な役割を担っています。そのため、脊髄や小脳に障害が生じることから歩行障害やろれつの回りにくさなどが生じます。
そのほかにも、足が突っ張る、手がうまく使えない、パーキンソニズム、ジストニアなどの症状も認めます。また、自律神経系にも異常がおよぶ結果、呼吸や血圧の調整機能障害を認めます。さらに、末梢神経の障害に関連したしびれを自覚することもあります。なかには、幻覚や失語、失認、認知症などの高次機能障害を認めることもあります。
病気の進行は緩やかですが、徐々に全身へと症状が進行し、嚥下機能にも悪影響が生じることがあります。この状況になると誤嚥性肺炎を繰り返すようになり、呼吸障害を認めることになります。
検査・診断
脊髄小脳変性症では、小脳と脊髄系の異常に関連した病歴、身体所見をもとにして病気が疑われます。頭部MRIやCTなどを行うこともあり、これら画像検査を通して小脳や脳幹、大脳基底核や大脳皮質の萎縮を認めることもあります。
脊髄小脳変性症では、似たような病気を除外するための検査も重要です。たとえばビタミンB1やB12、葉酸の欠乏、アルコール中毒、甲状腺機能低下症、多発性硬化症、エイズ関連の神経疾患など、鑑別にあがる病気は多岐に渡ります。病歴や身体所見をもとにしつつ、これら疾患を鑑別するためのより特化した検査を行います。
さらに、脊髄小脳変性症の一部は遺伝性を伴うこともあります。原因となっている遺伝子変異を検索することを目的とした遺伝子検査が行われることもあります。
治療
脊髄小脳変性症を根本的に治せる治療方法は、現在のところ存在しません。症状の出方はまちまちであり、病状の進行具合も個々に応じて大きく異なります。したがって、症状にあわせた支持療法を行うことが非常に大切です。
脊髄小脳変性症は、徐々に筋力が低下していくことがあり、リハビリテーションで筋力低下を防ぐことは重要です。筋肉があれば、寝たきりになる可能性が減少します。手に筋肉があれば、ふらついたとき物につかまることができ、転倒のリスクが減少します。また、足に一定の筋量が保たれれば体の安定性が高まります。そのほか、筋肉は骨格を支える役割も持ち、萎縮すると脱臼などの合併症を生じやすいことが知られています。脊髄小脳変性症の患者さんは、筋肉量をなるべく保つことが重要です。
また、脊髄小脳変性症はその経過中に誤嚥性肺炎をきたすこともあるため、食事形態に注意を払うことも大切です。誤嚥性肺炎を発症した際には、抗生物質を使用した治療介入が行われます。
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