概要
HTLV-1関連脊髄症とは、HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)に感染することで脊髄に慢性的な炎症が生じる病気のことです。発症すると脊髄にダメージが加わるため、両下肢の麻痺や排尿・排便障害が引き起こされます。
この病気は日本で発見され、2010年の全国疫学調査によると全国で3,000人ほどの患者がいると考えられています。HTLV-1の感染者は全国に100万人ほどいると推定されています。多くの方は健康に問題なく過ごしますが、一部の感染者は白血病やこの病気を発症します。
現在のところ、HTLV-1の増殖を抑える抗ウイルス薬は開発されていません。そのため、HTLV-1関連脊髄症の治療は脊髄の炎症を抑えて病気の進行を遅らせるための薬物療法や、下肢の麻痺に対するリハビリテーションが主体となります。
原因
HTLV-1関連脊髄症は、HTLV-1というウイルスに感染し、脊髄に慢性的な炎症が引き起こされることで発症します。
しかし、この病気はHTLV-1に感染したごく一部の人のみが発症します。どのようなメカニズムでHTLV-1が脊髄に慢性的な炎症を引き起こすのかは解明されていませんが、体内でHTLV-1が多く増殖する人はこの病気を発症しやすいと考えられています。
なお、HTLV-1はリンパ球に感染するウイルスであり、授乳や性交渉などによって感染することが分かっています。
症状
HTLV-1関連脊髄症では、脊髄に慢性的な炎症とそれによる変性が生じることで両足が麻痺して歩行ができなくなり、排尿や排便の機能障害を生じます。
症状は少しずつ進行することが多く、早期段階では両足のつっぱり感や足のもつれなどが現れて転倒しやすくなり、階段の上り下りに支障をきたすようになります。そして、次第に両足の筋力低下や痙縮(固くなる)が生じて歩行が困難になります。しびれや痛み、感覚の低下などの神経症状を伴うのも特徴の1つです。
さらにこの病気では、排尿や排便の機能が低下することで、失禁、残尿感、排尿困難、頻尿、便秘などが起こります。そのほか、進行すると体温の調節などに異常が生じることがあります。
検査・診断
HTLV-1関連脊髄症が疑われるときは、次のような検査が行われます。
血液検査、髄液検査
HTLV-1の感染を確認するためには血液検査が必要で、抗HTLV-1抗体の測定が行われます。貧血の有無など全身の状態を確認したり、この病気と似た症状を引き起こす別の病気との鑑別をしたりするためにも必要な検査です。
また、HTLV-1関連脊髄症の診断を確定するためには髄液検査で抗HTLV-1の測定が行われます。
画像検査
脊髄腫瘍など、両下肢の麻痺や排尿・排便障害を引き起こす病気との鑑別を行うために、脳や脊髄の異常の有無を確認する目的でCTやMRIなどによる画像検査が行われます。
治療
現在のところ、HTLV-1の増殖を抑える抗ウイルス薬は開発されていません。そのため、この病気には根本的な治療法はなく、治療は脊髄の炎症を抑えて症状の進行を遅らせることが主体となります。
現在行われている主な治療法としては炎症を抑えるステロイドやさまざまなウイルスの増殖を抑えるインターフェロンαの投与などです。ステロイドの投与を行うと7割程度の方で症状の改善が認められます。インターフェロンαの投与はHTLV-1の増殖をやや抑える効果があることが分かっています。
また、この病気は下肢の麻痺、筋力低下、痙縮などが進行していくため、リハビリテーションを継続していくことも大切です。このほか、排尿障害は尿路感染症などの原因となるため、尿が自力で排出できない場合は尿道から膀胱に管を挿入して尿を排出する“自己導尿”が必要となることもあります。
予防
この病気を予防するには、HTLV-1への感染を防ぐ必要があります。
HTLV-1は授乳や性交渉によって感染するため、妊婦健診でHTLV-1に感染していることが分かった場合は授乳を控えて人工ミルクで哺育することが推奨されています。また、感染者と性交渉をするときはコンドームを着用するなどの予防が有用と考えられています。
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