けいしゅく

痙縮

最終更新日:
2024年08月28日
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2024/08/28
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概要

痙縮とは、筋肉に異常な緊張が生じることにより、手足のつっぱりが起こる状態のことです。

原因として、脳卒中脳性麻痺、頭部外傷、脊髄損傷(せきずいそんしょう)筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症などが挙げられます。痙縮はこれらの病気の後遺症の1つです。これらの病気によって、筋肉の緊張を適切に調整する神経系の機能が障害されることにより、痙縮が生じます。

筋肉の過度な緊張によって、手足が動かしにくい・意図せずに動くなどの運動障害が引き起こされます。具体的には、手指を握り込んだ後に開けない、肘が曲がったまま伸びない、足の指が足の裏に向かって曲がってしまうなどの症状が現れます。これらの症状によって、歩行や着替え、食事、入浴といった日常生活動作に支障が生じます。

さらに、痙縮の状態が長期間続くと、影響を受けた手足の筋肉や関節が徐々に硬くなり、柔軟性を失います。その結果、関節の動きが著しく制限され、ほとんど動かせなくなる“拘縮”という状態に移行することがあります。拘縮になると日常生活動作がより困難になるため、早期からの適切な治療とリハビリテーションが重要です。

主な治療は、筋弛緩薬の内服やリハビリテーションです。状態に応じてボツリヌス療法、バクロフェン髄注療法(ITB療法)、手術が行われることもあります。

また、身体機能の改善目的でリハビリテーションに併用して行われる電気刺激、経頭蓋磁気刺激*にも痙縮の軽減効果があることが分かっています。近年では、痙縮している筋に対する体外衝撃波治療**が有効であるという報告があり注目を集めています。

治療の目標は、痙縮を緩和し、運動機能や日常生活動作を改善することです。適切な治療により、痛みの軽減や生活の質の向上が期待できます。

*経頭蓋磁気刺激:磁気を利用して脳内の神経細胞を刺激する治療法。

**体外衝撃波治療: 音速以上の速さで伝わる圧力波(衝撃波)を皮膚の上から患部に照射する治療法。

原因

痙縮の原因は、脳卒中脳性麻痺、頭部外傷、脊髄損傷、ALS、多発性硬化症など脳や脊髄*の病気です。

通常、私たちの体は、脳からの指令を受け、その信号が脊髄を通過して運動神経に届き、筋肉に伝わることで動きます。しかし、これらの病気によって脳から運動神経までの経路が損傷を受けると、脳からの信号が運動神経まで正常に届かなくなります。

脳からは興奮性の信号と抑制性の信号が運動神経に送られています。興奮性の信号は筋肉を動かすためのものですが、この信号が届かなくなると筋肉が動かなくなり麻痺を起こします。一方の抑制性の信号が届かなくなると、筋肉が意志とは関係なく勝手に動くようになります。このように脳からの信号伝達システムが乱れることで、筋肉の動きを適切にコントロールできなくなり、痙縮が生じます。

*脊髄:脊椎(背骨)の中を通る神経の束で、脳の指令や体の感覚情報などを伝達するはたらきを持つ。

症状

筋肉の過度な緊張によって、手足が動かしにくい・勝手に動く、首や背中が反るといった症状がみられます。これらの主症状に加えて、副次的に痛みや睡眠障害などが生じたりすることもあります。

症状の程度や現れ方には大きな個人差がありますが、具体的な症状は以下のとおりです。

上肢(手、腕、肩)

  • 手指が握ったままとなり、開こうとしても開きにくい
  • 手首が内側に曲がる
  • 肩や肘が曲がったまま伸ばせなくなる
  • (わき)が開かず、手が上がりにくい

下肢(足、脚)

  • 膝が伸びにくい
  • 内ももがつっぱる
  • ふくらはぎがつっぱる
  • 足指が足の裏のほうに曲がる
  • 股関節(こかんせつ)が内側を向く
  • 立ったとき、かかとが床につかない

体幹・そのほか(首、胴体)

  • 首が曲がったり傾いたりして元に戻りにくい
  • 背中がそり返る

痙縮の日常生活への影響

痙縮は日常生活動作にさまざまな影響を及ぼし、生活の質の低下を招くことがあります。以下はその具体例です。

  • 足がつっぱって歩きにくい
  • 手首や肘が曲がって着替えづらい
  • 肘が曲がったままのため、人や物によくぶつかる
  • 手指が曲がって物をつかみにくい
  • 手足の指が曲がって爪が切りにくい
  • 反り腰になり、うまく座れない
  • 股関節が内側を向いてしまい、膝が伸びないために介助者のオムツ交換がしにくい

など

検査・診断

痙縮では次のような検査が行われます。

筋緊張検査

筋緊張の強さを調べる検査です。手足を医療者が触って関節を動かして、その際の抵抗の程度を評価します。

筋電図検査

筋肉に生じる電気的活動を測定し、神経や筋肉の電気信号の伝わり方に異常がないかを調べます。ボツリヌス療法を行う前に行われる検査です。痙縮が起こっている筋肉や神経を特定し、注射部位を決めるのに役立ちます。

超音波検査

超音波を当てて、筋肉の状態や動きを観察する検査です。原因となる筋肉と神経の位置を正確に把握することができます。筋電図検査と同様にボツリヌス療法を行う際に行われます。

治療

痙縮の治療は多岐にわたり、症状に応じて内服薬による治療、ボツリヌス療法、バクロフェン髄注療法、リハビリテーション、手術などを組み合わせて治療を行います。

内服薬

通常、内服薬は初期治療として行われます。主に筋肉の緊張を緩める筋弛緩薬を内服します。副作用を抑えるため、少量から始めて徐々に増やしていきます。症状に応じて複数の筋弛緩薬を組み合わせる場合もあります。

ボツリヌス療法

ボツリヌス菌が作る神経毒(ボツリヌストキシン)から精製された薬を、痙縮の強い筋肉に注射する治療法です。内服薬と異なり、注射をした筋肉にだけ効果を発揮します。ボツリヌストキシンは神経の伝達を抑える作用があります。これにより、筋肉を緊張させる神経のはたらきを抑えて痙縮を和らげます。

治療の効果は一時的で、以下のような経過をたどります。

  • 注射後10日頃:薬の効果が出始める
  • 約1~2か月後:効果が最大になる
  • 約3か月後:効果が徐々に弱まる

なお、ボツリヌス菌は食中毒の原因菌として知られていますが、ボツリヌス菌そのものを体内に入れるわけではないため、ボツリヌス菌に感染することはありません。

バクロフェン髄注療法(ITB療法)

腹部にポンプを埋め込み、筋弛緩薬のバクロフェンを脊髄近くのスペース(脊髄腔)に持続的に注入する治療法です。痙縮の原因となる脊髄付近に直接薬を投与することで、痙縮の症状を和らげます。内服薬やボツリヌス療法での効果が乏しい場合に行われます。一方で、内服薬やボツリヌス療法などのその他の痙縮治療との併用も可能です。

手術の流れ

治療前にスクリーニングテスト(トライアル)を行います。バクロフェンの試し打ちによって痙縮の症状が緩和されるかを確認します。効果が確認されれば、腹部にポンプとカテーテルを埋め込む手術を行います。

ポンプとカテーテルの埋め込み手術

カテーテルという細い管を髄腔内に留置し、カテーテルを通してポンプ内のバクロフェンを直接髄腔内に投与し続けます。手順は次のとおりです。

  • カテーテルを脊髄腔に挿入する
  • 腹部にポンプを植え込む
  • ポンプと脊髄腔のカテーテルをつなげる

ポンプ内のバクロフェンの入れ替えや量の調整は、およそ3か月ごとに行います。ポンプも定期的に交換が必要で、およそ7年ごとに手術で交換します。

リハビリテーション

リハビリテーションを行うことで痙縮によってできなかった動作が行えるようになったり、ほかの治療の効果が上がったりすることがあります。具体的な内容としては、拘縮を予防するためのストレッチや手足の関節を動かす訓練、筋肉を強化するための筋力トレーニングなどがあります。さらに、バランス能力や移動能力の向上を図るため、姿勢を保つ訓練や歩行訓練も行います。

そのほかの手術

内服薬やボツリヌス療法などの保存的治療で十分な効果が得られない場合や、重度の痙縮の場合に手術が検討されます。また、痙縮に伴って生じた変形を矯正したり、筋肉や腱を延長・切離したりして運動機能の向上を図る整形手術が行われることもあります。

末梢神経縮小術

痙縮の原因となる神経を細くする手術です。この手術では、過剰な筋肉の緊張を引き起こしている神経の一部を切除することで、痙縮を軽減します。手足の一部など狭い範囲の痙縮の場合に行われます。

脊髄後根切除術

痙縮に関わる神経の一部を切断する手術です。脊髄の後根*には手足の筋肉から脊髄へ感覚を伝える神経が通っています。この脊髄の後根を部分的に切除することで、筋肉への過剰な刺激を減らし、痙縮を軽減します。主に脳性麻痺の下肢の痙縮に対して行われます。一度切除した神経は元に戻せないため、慎重に適応を判断する必要があります。

*脊髄の後根:脊髄の後ろ側に存在する脊髄神経の束。

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