インタビュー

多系統萎縮症(MSA)とは 原因と症状、検査方法について詳しく解説

多系統萎縮症(MSA)とは 原因と症状、検査方法について詳しく解説
髙橋 祐二 先生

国立精神・神経医療研究センター病院 脳神経内科診療部長

髙橋 祐二 先生

この記事の最終更新は2017年10月03日です。

多系統萎縮症(MSA)とは、小脳変性症の一種です。2017年現在の日本には約1万人の患者さんがいるといわれています。症状は、小脳失調症状、パーキンソン症状、自律神経障害の3種類に分類され、特に日本では、小脳失調症状を強く発症する患者さんが多いという特徴があります。今回は、国立精神・神経医療研究センター病院神経内科診療部長の高橋祐二先生に、多系統萎縮症の概要から症状、検査・診断についてお話しいただきました。

多系統萎縮症とは、脊髄小脳変性症*といわれる疾患のなかに分類されているものの1つです。脊髄小脳変性症は遺伝性と孤発性にわかれています。そして、孤発性の脊髄小脳変性症の3分の2が多系統萎縮症であるといわれています。多系統萎縮症のほとんどの患者さんは孤発性のため、遺伝する可能性は非常に低いです。一般的な寿命は7年から9年となっていますが、患者さんによっても異なります。

脊髄小脳変性症…歩行時のふらつきや手の震えなど、運動失調症状をきたす変性による疾患の総称。

2017年現在の日本において、多系統萎縮症の患者さんは約1万人いらっしゃいます。しかし、初期には他の脊髄小脳変性症やパーキンソン症候群と区別がつきにくいことがあるため、正確な頻度についてはさらなる調査が必要であると考えられます。

多系統萎縮症の好発年齢は約50歳から60歳程度です。同じ神経変性疾患である、パーキンソン病やアルツハイマー病は年齢が上昇するほどに発症率が高くなります。しかし、多系統萎縮症は、年齢が高ければ高いほど発症するという疾患ではありません。また、発症率の男女差はなく、男女どちらとも発症する可能性があります。

多系統萎縮症は神経変性疾患のなかでも、特に発症の原因がわかっていない難しい疾患です。しかし、原因に関係していると疑われている要因には以下のものがあります。

・αシヌクレインの蓄積

多系統萎縮症は、病理学的には、αシヌクレインという物質がグリア細胞に蓄積することが特徴といわれています。そして、パーキンソン病でもαシヌクレインの蓄積は起こります。そのため、2つの疾患には何らかの共通因子がある可能性があります。

たとえば、最近、パーキンソン病の症状として注目されているものにレム睡眠障害があります。レム睡眠障害とは睡眠中に起こる異常行動で、睡眠中に大きな声を上げる、夢の内容に反応して体を激しく動かすといった症状が現れます。そして、パーキンソン症と類似する症状の現れる多系統萎縮症でも、レム睡眠障害を起こす患者さんが多い傾向にあります。そのため、パーキンソン病と多系統萎縮症の発症原因に何らかのつながりがあるのではないかと疑われています。

多系統萎縮症は基本的に孤発性のため遺伝することはありません。しかし、ごくまれに家系内発症を起こしている場合があります。そういったケースを集め解析した結果、COQ2という遺伝子の変異が関係しているという報告が出されました。そのため、多系統萎縮症の発症には遺伝的要因も場合によっては関係しているとみられています。

しかし、COQ2の遺伝子変異をもっていたからといって、すべての方が多系統萎縮症を発症するわけではありません。一般集団と比較した場合、多系統萎縮症の患者さんには、COQ2の変異を持っている方が多いというイメージです。

多系統萎縮症の「多系統」は、主に、小脳失調症状、パーキンソン症状、自律神経障害の3つの症状のことを意味しています。そして、日本では小脳失調症状が強く出る患者さんが多く、欧米ではパーキンソン症状が強く出る患者さんが多いという統計があります。

歩行中のふらつき、呂律(ろれつ)が上手く回らなくなるといった症状が現れます。

パーキンソン病と非常によく似た症状が現れます。歩行が遅くなる、声が小さくなる、動きが鈍くなるといったものが代表的です。

多系統萎縮症の患者さんのなかには、自律神経障害が非常に重くでる方もいらっしゃいます。主な症状としては、起立性低血圧*、排尿障害、インポテンツ(性交不能症)などがあります。

起立性低血圧…寝た状態や座った状態から急に立ち上がると、血圧が低下し、ふらつきやめまいなどの症状が起こる疾患。

多系統萎縮症のなかには、うつ病を併発してしまう方も一定数いらっしゃいます。また、多系統萎縮症の患者さんの中には前頭葉機能障害を中心とした認知機能障害が現れる方もいます。やる気がなくなる、性格が変わる、物事を計画的に遂行できなくなるといった障害が現れます。

多系統萎縮症は、基本的に臨床症状の組み合わせと経過から診断されます。それに加えて、MRIの検査が非常に重要です。

下の画像のBは正常な方のMRIで、A、C、Dは多系統萎縮症の患者さんのものです。

MRI 提供画像
髙橋祐二先生よりご提供

多系統萎縮症の患者さんのMRIは、Aからわかるように小脳、脳幹(特に橋底部)の萎縮がみられます。そして、非常に特徴的な所見は、Cにある、被殻外側の線状T2高信号と、Dにある、Hot cross bun sign(橋の横走線維の脱落)です。

多系統萎縮症は初期の場合、MRIを撮影しても変化が現れない可能性があります。そのため、自律神経検査、特に膀胱機能の検査、起立性低血圧の程度などから、多系統萎縮症の可能性を探ることもあります。

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多系統萎縮症の患者さんでパーキンソン症状が強くでる方の場合、初期症状の段階ではパーキンソン病との判別が難しい場合があります。パーキンソン病と多系統萎縮症の判断は、以下のことを参考にします。

パーキンソン症状とともに、自律神経障害が強く出ている方は、多系統萎縮症の可能性があります。

多系統萎縮症は一般的なパーキンソン病よりも進行が早いという特徴があります、早期に嚥下障害*を発症したり、転倒傾向があったりする場合は多系統萎縮症を疑います。

嚥下障害…食べ物を飲み込みにくい、むせる、といった症状が現れる疾患。

パーキンソン病の治療薬として、レボドパ製剤などの薬が使用されます。一方、多系統萎縮症の患者さんの場合、パーキンソン症状を抑えるためにレボドパなどの薬を使用してもあまり効果はありません。そのため、パーキンソン症状が出ている患者さんに、パーキンソン病で使う薬を投与しても効果が現れなかった場合は、多系統萎縮症を疑います。

しかし、多系統萎縮症の患者さんのなかには、初期の段階ではパーキンソン病の薬の効果がみられるケースもあります。必ずしも薬の効果がないというわけではありません。

パーキンソン病の検査として、MIBG心筋シンチグラフィ*というものがあります。パーキンソン病の患者さんの場合、このMIBG心筋シンチグラフィの値は低下しています。しかし、多系統萎縮症の患者さんの場合、MIBG心筋シンチグラフィの値は正常な場合が多数です。そのため、パーキンソン症状がある方でも、MIBG心筋シンチグラフィの値を測定し、正常な場合は多系統萎縮症などパーキンソン病以外の疾患を疑います。一方、多系統萎縮症でもMIBG心筋シンチグラフィの値が低下する場合もあり、この値だけで診断がつけられるわけではありません。勿論、パーキンソン病でも初期の段階では値が正常であることもあり、正常だから多系統萎縮症というわけではありません。

MIBG心筋シンチグラフィ…心臓交感神経の状態を調べる検査。

多系統萎縮症は、対症療法やリハビリが主な治療法です。記事2『多系統萎縮症の治療 多職種チーム医療の早期介入が大切』では、現在行われている治療から、最新の研究についてご説明します。

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  • 国立精神・神経医療研究センター病院 脳神経内科診療部長

    髙橋 祐二 先生

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