去る2017年7月20~21日の2日間、神戸国際会議場・神戸ポートピアホテルにて第67回日本病院学会が開催されました。本会は「医療人育成ルネサンス」をテーマとし、知識や技術はもちろん、医療のプロとして患者さんに寄り添うマインドを備えた医療人の育成についてさまざまな発表が行われました。会場には学会長・社会医療法人愛仁会理事長の内藤嘉之先生を始め、全国各地から多種多様な職種の人々が集い、大盛況のなか、幕を開けました。本記事では、内藤嘉之先生の講演内容についてレポートいたします。
ポートピアホテルでの開会式の後、さっそく学会長であり、愛仁会理事長でもおられる内藤嘉之先生の講演が開かれました。
社会医療法人愛仁会では、急性期医療の円滑な診療機能を支える人材の育成、すなわち医療のインフラストラクチャーとなる医師やスタッフの育成に力を注いでいます。特に麻酔科医、事務系の幹部職員は、健全な急性期医療の提供を維持するために必要不可欠な存在で、インフラストラクチャーといえます。これらの人材育成こそ最も重要であり、私たちはさまざまな工夫を凝らしてこれまで医療人育成を行ってきました。
登壇に立つ内藤嘉之先生
では、愛仁会は人材育成において何を重視しているのかをお話ししたいと思います。
麻酔科医は今や麻酔だけではなく、救急処置や集中治療、疼痛緩和管理など幅広い活躍が求められる職種です。麻酔科医はこれらにすべて関与しなければ、病院は安全な医療を提供できません。つまり、急性期病院における麻酔科医はオプショナルな専門家集団ではなく、必須とされるインフラストラクチャーになるといえるのです。
しかし、麻酔科医の数は地域によって偏りがあり、一部の地域を除いて不足している状態です。そのため、ハイリスク症例に対応できる優れた麻酔科専門医を市中病院において自前で育成することが課題とされてきました。
そこで私は当時280床の小さな病院にて麻酔科医育成の専門プログラムを作り、指導方法を確立して、優秀な麻酔科専門医の育成に向けた取り組みを開始したのです。
1年間は基礎的な手技、2年目は心臓麻酔、3年目に小児麻酔と心エコーの資格取得、4年目に集中治療室、5年目に専門医取得など、年次ごとのキャリアを提示したプログラムを構築しました。また、院内用に麻酔科研修マニュアルを作って配布し、教科書も自作して指導を行いました。
この結果、後期研修医を含めて麻酔科医の数が手術室よりも多い状況になることができました。麻酔科医の充実に伴って手術数も飛躍的に増加し、当初838件だった手術数は3,450件にまで増えたのです。なかでも全身麻酔による手術数の増加は著しく、236件から3,031件と10倍以上になりました。
加えて、2017年現在では常勤麻酔科医が27名おり、手術室総数よりも麻酔科医のほうが多い状態となっています。このような体制を実現したからこそ、手術数を増加させることができたのだと考えています。
専門医の維持と質の担保が今後の課題でしょう。専門医は資格のひとつであり、認定だけでなく更新の必要があります。
一般病院では満たすことが難しい条件が更新条件になると、一般病院から大学に戻らないといけない医師もいるのが現状です。しかし現実には、それぞれの地域で専門医に求められている、地域特有のニーズがあるのです。全ての医師が高い統一基準を持つことも重要ですが、一般病院から専門機構まで様々な地域の実情に応じた認定条件を検討することも大事になってくるのではないでしょうか。
当法人では麻酔科医に加えて事務系管理職の育成にも力を入れており、効率化の追求と専門家を図っています。事務系管理職をしっかりと育成し、万能型のゼネラリストに成長させることで共通言語を取得し、地域包括医療の実現を目指しています。また、医師と同様に海外留学や大学院進学も後押しし、トップマネジメントのスキルを身につけていただくための工夫を行っています。
2001年より、3法人合同で経営者管理養成塾を開催しており、経営に直結する座学や専門知識の獲得を目指しています。対象は事務系の職員の方々で、フィールドワークや座学を通じてマネジメントを学びます。また、塾を通じてお互いの顔を合わせ、自由に語り合うことで、人脈の幅を広げることも期待できます。
次世代の幹部職員の早期育成を目的にした制度です。激変する環境に対する能力を有する職員を育成するため、2年ごとの転属を義務化しています。所属施設の枠を超えて広く勉強を重ね、知識を深めることが狙いです。
事務系の職員や看護職員の一部をアメリカの大学に留学させる制度です。留学先の大学では各セクションにて研修を行うので、しなやかで総合的な課題解決能力を取得できます。
1992年から2000年までの8年間で10名が海外留学を果たしました。留学を終えた方々は帰国後、海外留学で得た知識を生かして活躍し、現在は愛仁会でのマネジメントの先導役に立っています。
このような取り組みにより、当法人はトップマネジメントを担う人材の育成に成功したのです。
当法人の実際の取り組みを交えて、医療人育成についてお話ししてまいりました。
病院診療機能のインフラストラクチャーとは人的存在であり、特に麻酔科と事務職員は自分たちの手で育成することが求められるのです。育成の際、インフラストラクチャーとして彼らは「万能人」でなければなりません。万能人とは、何事にも興味を持ち、何でもオールマイティにできる方のことを指すと考えます。
医療における領域の垣根を取り払って人材育成をすること。それがこれからの人材育成において大切になるのではないでしょうか。
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