肝臓は、体に必要なたんぱく質を合成したり、薬や体に有害となる物質を解毒し排泄したりする役割を担っています。劇症肝炎とは、何らかの原因によって肝臓に炎症が起こり、肝臓の機能が急速に失われる疾患です。
この劇症肝炎の特徴的な症状は、肝性脳症(かんせいのうしょう)と呼ばれる意識障害であるそうです。ではなぜ、肝臓の疾患が意識障害につながるのでしょうか。
今回は、岡山大学病院の高木 章乃夫先生に、劇症肝炎の原因や症状についてお話しいただきました。
肝臓には、体に必要なたんぱく質を合成したり、薬や体に有害となる物質を解毒・排泄したりするはたらきがあります。劇症肝炎とは、炎症によって、このような肝臓の機能が急速に失われる疾患です。
劇症肝炎の診断基準では、発症から8週間以内に肝性脳症と呼ばれる意識障害がみられ、血液中の凝固因子プロトロンビン(血液を固める役割をもつ物質)が40%以下まで低下してしまう状態を劇症肝炎と診断するよう定められています。
この肝性脳症は、劇症肝炎に特徴的な症状といえるでしょう。劇症肝炎では、全身のだるさや食欲不振など急性肝炎(肝炎ウイルスの感染などによって生じる急性の肝機能障害)の症状とともに、肝性脳症と呼ばれる意識障害が現れます。
劇症肝炎が起きると、肝臓の機能が低下することによって、体内の毒素を分解するはたらきがなくなってしまいます。たとえば、腸内の細菌によってつくられた毒素も、分解されることなく血液中に流れてしまうのです。この毒素が入った血液が脳へと流れこむことで、意識障害が発生することがわかっています。
劇症肝炎は、若干女性の患者さんが多く、年齢的には50歳前後の方が多いといわれています。しかし、高齢者とともに若い方でも罹患する方がいらっしゃいますし、幅広い世代で罹患する可能性のある疾患といえるでしょう。
劇症肝炎には、肝炎ウイルスの感染や薬物アレルギーなどいくつかの原因があります。
なかでも、B型肝炎ウイルスの感染は、昔から劇症肝炎の原因として数多く報告されています。しかし近年では、B型肝炎を原因とする劇症肝炎は減少傾向にあります。
一方、近年、増加傾向にあるものが、原因不明の発症です。原因不明なものにはさまざまな説がありますが、基礎疾患(慢性的に持っている持病)など、何らかの疾患を抱えている方の発症が多い印象があります。
ほかにも、何らかの薬剤との関連や免疫力低下の影響など複数の説があります。何が発症に影響しているのかは解明されておらず、今後研究が進められるべき分野です。
劇症肝炎の初期症状としては、全身のだるさや食欲不振が現れるケースが多いといわれています。特に、B型肝炎ウイルスなどウイルス感染を原因とする発症は、発熱や筋肉痛など感冒様(かんぼうよう:風邪のようなもの)の症状を伴うケースが多いです。
さらに状態が進行すると、血液を固めるたんぱく質を肝臓で合成することができなくなります。そのため、歯磨きの後で出血しやすくなるような方もいます。
また、血液中に含まれるビリルビンと呼ばれる物質は、通常、肝臓で分解され便として排泄されます。しかし、肝臓が機能しないためにビリルビンが血液中に含まれたままになると、尿や白目が黄色く変化する黄疸(おうだん)と呼ばれる症状が現れます。
劇症肝炎の特徴的な症状である肝性脳症(意識障害)の初期には、昼と夜の睡眠のリズムが逆転するといわれています。お昼に眠気が現れ、夜に起きている状態になる場合があります。さらに、服装がだらしなくなったり、場所や人、時間を間違えやすくなったりする方もいます。このような状態になると、ご家族のアドバイスによって病院を受診する方が多くなるのではないでしょうか。
意識障害が進行すると、行動を抑制する脳のはたらきが低下するために暴れる方もでてきます。たとえば、興奮して入院中のベッドの上に立ち上がって放尿してしまう方もいますし、抑えようとしても強い力で暴れる方も少なくありません。
この暴れる状態には、波があります。一気に暴れることがあっても、少ししたら冷静になることもありますし、そのまま意識を失うケースもあります。
明らかな脳症状が現れ、静止できないほど暴れるようになると、集中治療室で人工呼吸管理をしながら治療をするケースもあります。
疾患が進行し重症化すると、臓器障害が起こるケースがあります。腎臓や肺、心臓などあらゆる臓器に障害が現れ機能の低下が現れてくるのです。この臓器障害は、意識障害の症状が現れ治療を行っていくうちに、進行していくケースが多いです。
劇症肝炎は、脳症の出現時期により主に急性型、亜急性型、遅発性肝不全(Late-onset hepatic failure:LOHF)の3つに分類されます。
発症後10日以内に意識障害が現れる病態を、急性型と呼びます。この急性型は、一気に重症化しますが、経過は比較的良好です。治療をすることでみるみる改善されていく場合があります。
一方、発症後11日以降に脳症状が現れるような進行が緩やかな病態を、亜急性型と呼びます。この亜急性型は、緩やかに進行するものの、いつまでたっても治らないという特徴があります。
お話ししたように、8週間以内に症状が進行するものを劇症肝炎と呼びます。しかし、まれに8週目以降にも脳症が出現するケースがあり、このような病態をLOHFと呼びます。このLOHFは特に重症化した病態を呈することが多く、経過が非常に悪いことがわかっています。
劇症肝炎を予防するためには、B型肝炎ウイルスなど何らかの肝炎ウイルスに感染しないことが有効でしょう。特に原因になることが多いB型肝炎ウイルスは性交渉等で感染するため、不特定多数と性交渉をしないことが予防につながると思います。特に、東南アジアなどB型肝炎ウイルスの感染が多いといわれている地域を訪れる機会があれば、こまめに手を洗うことも有効になるでしょう。
また、近年増えている原因不明の劇症肝炎に関しては、原因が不明なので防ぎようがありません。しかし、お話ししたように、何らかの薬剤と関係している可能性があるので、不要な薬は服用しないことが予防につながるかもしれません。ほかにも、免疫力が低下している状態であると発症しやすいといわれているため、疲れをためないよう心がけることも有効ではないでしょうか。
劇症肝炎の診断や治療に関しては、記事2『劇症肝炎の診断と治療-肝移植など治療の選択肢とは?』をご覧ください。
岡山大学 学術研究院医歯薬学域 肝・腎疾患連携推進講座 特任教授
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