2018年2月1日(木)~3日(土)、パシフィコ横浜にて、第23回日本集団災害医学会総会・学術集会が開催されます。今回は「災害時の医療を客観視し多面的に捉える」をテーマに、招待講演、教育講演、合同シンポジウム、ワークショップなどが行われる予定です。第23回日本集団災害医学会総会・学術集会会長の森村尚登(もりむら なおと)先生に、本会に向けた抱負を伺います。
日本集団災害医学会は、1995年に発生した阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件を契機に立ち上がった研究会を母体とします。「災害」という概念には、職業災害、労働災害などさまざまなものが含まれますが、本会は、自然災害および人為災害が発生した際の医療についての研究・議論を行っています。
我々がテーマとしているのは自然災害および人為災害が発生した際の医療で、もともとは「災害医療」という名称でした。しかし災害医療という言葉には、災害を受けた際の特別な医療というニュアンスがつきまとい、理想的ではありませんでした。本来の災害医療とは、基本となる平時の医療に加える形で行われるべき医療です。そこで、「平時の医療を前提として、災害時に医療をどのように行うのか」をわかりやすく表現するために「災害時の医療」という表現をしています。
近年、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)がことさら強調されています。BCPとは、災害が発生した際に特定の重要業務が中断せず事業を継続できること、万が一事業が中断したときに重要な機能を復旧し、損失を最小限にとどめることをさします。
災害が発生した際、すでにある救急医療や保険医療をきちんと維持しながら、災害時の医療を提供できるシステム構築は非常に重要です。
また、「災害医療従事者」というと災害医療に特化した職種の人々に思えますが、そうではありません。災害医療従事者というのは、災害時に医療に携わるすべての人々です。
災害に関する学術集会の内容は、とかく主観的になりがちです。たとえば災害発生時にどれだけ尽力したのか、効果があったと思われるかという視点で発表が行われることが多いのです。しかし、教訓を次の災害発生時に活かすためには、客観的なデータあるいは課題を提示しなくてはなりません。そのため、本会は「災害時の医療を客観視し多面的に捉える」をテーマに設定し、看護師、保健士、救急隊員、防災研究の専門家に加え、インフラストラクチャー(ダムや道路などの産業基盤や、学校などの公共・福祉施設)に関わる専門家や行政関係者による発表を行います。
医療従事者だけではなく、地域包括の視点であらゆる領域の専門家が集い多面的に災害時の医療を捉え、客観的なデータや課題を共有することが重要です。
市民公開講座として、2つの講演を予定しています。
ドイツ哲学の専門家である山本務氏をお呼びして「災害と不作為」についての市民公開講座を行います。作為・不作為とは、たとえばまんじゅうに毒を入れて人にすすめるのは作為の罪であり、一方、まんじゅうに毒が入っていることを知りながら、食べようとしている人を止めないことを不作為の罪といいます。この作為・不作為の概念を災害時の対応にもあてはめてご講演いただくものです。
本講座では朝日新聞記者の河原理子氏をお呼びして、著明なユダヤ人精神科医のヴィクトール・フランクルが著した強制収容所体験記「夜と霧」を通じて、「生きる意味」を軸にロゴセラピーを考えたフランクルについてお話しいただきます。
初日は、あらゆる専門領域にまたがり、災害を総論的に捉えます。具体的には、災害時における衛生、避難所、健康管理、そして災害時のIoTをテーマにしています。
そのほかのテーマは地域包括ケアにおける災害の捉え方や、リスク評価です。平時の救急医療のシステムにおけるメディカルコントロール体制(医学的観点から救急救命士を含む救急隊員が行う応急処置等の質を保証する仕組み)を、災害時にどのように整備すべきか、避難者の支援をどうするか、他職種や行政との連携をどのようにしていくのかなどについて議論します。また、お互いの専門領域から「災害時に知るべきリスク、伝えるべきリスク」を共有することが目的に、防災学術連携体(防災にかかわる50以上の学術団体)との特別企画を設けました。
2日目には、人為災害に関するセッションが多数行われます。なかでも、2020年の東京オリンピックなどの大規模なイベントは、マスギャザリング(一定の期間、同じ目的で限定された地域に多数の人が集まること)であり、限定された地域の人口密度が高まることによって、開催地域の通常の救急医療体制に影響を与えるリスクを有しています。加えて昨今の国際事情を鑑みますと、テロも考慮しなければなりません。そのような状況で事件が起き、同時に多数の傷病者が発生した場合、警察や消防など多機関の連携を含め、災害時の医療を考えます。
当初、マスギャザリングにおける救急医療の対象者はイベント出場者や各国のVIPが中心でしたが、それに続いてイベント参加者(観客)に対する医療が考えられてきました。マスギャザリングにおける救急医療は通常の救急医療に上乗せする形で行われますので、医療リソースを考慮しながら、イベントの予測されるリスクに応じた体制を構築する必要があります。
2020年東京オリンピック・パラリンピック開催中の救急災害医療体制に係る学術連合体(コンソーシアム)についてhttp://2020ac.com/
マスギャザリングが形成される地域には、当然ながらそこに住んでいる方々や勤務する方々がいます。そのような方々には日常生活における傷病発生のリスクがあり、イベントの開催によって提供される医療の質が低下するような状況は避けるべきです。しかしながらある論文では、アメリカ11の都市において、通常よりも大規模マラソン大会の開催中のほうが、(マラソン大会と関係しない)院外心停止・急性心筋梗塞の死亡率が上昇したというデータが示されました。その原因のひとつとして、イベントによって救急搬送のルートが変更され、根本治療までの時間が増えたことが挙げられています。このような事態を未然に防ぐために、私たちは大規模なマスギャザリングにおける救急医療を構築したいと考えています。
3日目には、日本が抱える自然災害に関する救急医療について教育講演が多数行われます。たとえば、首都直下型地震、南海トラフ巨大地震に対してどのように対応するのか、病院自体の避難や病院船の運用について考えます。
また、「シリーズ温故知新」では、地下鉄サリンテロや阪神淡路大震災をテーマにそれぞれ対談を行っていただきます。シリーズ温故知新は、過去からの教訓を共有し、次世代に繋げることを目的としています。
3日間それぞれにあるテーマを横断するように、他学会からの知見を増やすことを目的として、5つの学会との合同シンポジウムを設けています。
2月1日(木)「災害時の医療を客観視し多面的に捉える」
座長:本間正人先生(鳥取大学医学部器官制御外科学講座救急・災害医学分野)
演者:森村尚登先生(東京大学大学院医学系研究科救急科学分野)
2月2日(金)「Medical response for mass casualty incident」
座長:溝端康光先生(大阪市立大学大学院医学研究科救急医学)
演者:Pierre A Carli先生(Faculte de Medicine, Universite Paris Descartes)
2月3日(土)「Triage from an intensivists point of view」
座長:中村京太先生(横浜市立大学附属市民総合医療センター安全管理室)
演者:David Galler先生(Middlemore Hospital, NZ)
2月3日(土)「Disaster medical response for "2017 Central Mexico earthquake"」
座長:永田高志先生(九州大学病院 救命救急センター)
演者:Yannick Nordin Servin先生(Minister of Health of the state of Jalisco)
2月1日(木)「Society 5.0における災害対応」
座長:野口宏先生(藤田保健衛生大学救急科)
演者:坂村健先生(東洋大学情報連携学部INIAD学部)
2月1日(木)「大都市と水害」
座長:小井土雄一先生(国立病院機構災害医療センター)
演者:土屋信行先生(公益財団法人リバーフロント研究所)
2月1日(木)「大地震のリスクを今一度整理する」
座長:大友康裕先生(東京医科歯科大学救急災害医学分野)
演者:平田直先生(東京大学地震研究所)
2月2日(金)「災害時の共助と企業の役割」
座長:中川隆先生(愛知医科大学災害医療研究センター)
演者:野口英一先生(戸田中央医科グループ(TMG), 元 東京消防庁救急部部長)
2月3日(土)「病院船の運用に向けた課題と展望」
座長:和藤幸弘先生(金沢医科大学救急医学)
演者:山口芳裕先生(杏林大学医学部救急医学)
12月2日(金)「1995年の教訓:東京地下鉄サリンテロ対応から学ぶべきこと、繋いでいくべきこと」
座長:嶋津岳士先生(大阪大学大学院医学系研究科救急医学)
演者:前川和彦先生(社会医療法人東明会原田病院)
石松伸一先生(聖路加国際病院救急部・救命救急センター)
2月3日(土)「1995年の教訓:阪神淡路大震災対応から学ぶべきこと、繋いでいくべきこと」
座長:坂本哲也先生(帝京大学医学部救急医学講座)
演者:吉岡敏治先生(森ノ宮医療大学)
中山伸一先生(兵庫県災害医療センター)
12月1日(木)「災害時の健康管理をグローバルに考える」
座長:佐々木宏之先生(東北大学災害科学国際研究所)
演者:茅野龍馬先生(WHO健康開発総合研究センター)
2月2日(金)「世界の災害医療の潮流」
座長:福家伸夫先生(帝京平成大学健康医療スポーツ学部)
演者:勝部司先生(JICA国際緊急援助隊事務局)
2月2日(金)「災害時の外傷管理 JATECの果たす役割」
座長:冨岡譲二先生(社会医療法人緑泉会米盛病院)
演者:溝端康光先生(大阪市立大学大学院医学研究科救急医学)
2月2日(金)「事態対処医療の課題と展望」
座長:竹島茂人先生(自衛隊中央病院救急科)
演者:齋藤大蔵先生(防衛医科大学防衛医学研究センター外傷研究部門)
2月3日(土)「マスギャザリングにおけるパンデミックに備える」
座長:杉田学先生(順天堂大学医学部附属練馬病院救急・集中治療科)
演者:大曲貴夫先生(国立国際医療研究センター国際感染症センター)
2月3日(土)「韓国MERSから学ぶバイオテロ対策」
座長:箱崎幸也先生(医療法人社団元気会横浜病院)
演者:Kang Hyun Lee先生(Yonsei University)
2月3日(土)「福島原発事故災害対応のレガシー」 [対談]
座:井上登美夫先生(横浜市立大学大学院医学研究科放射線医学)
演者:長谷川有史先生(福島県立医科大学放射線災害医療学講座・救急医療学講座)
浅利靖先生(北里大学医学部救命救急医学)
2月1日(木)「災害時のメディカルコントロール体制の課題と展望」
座長:安田康晴先生(広島国際大学 保健医療学部医療技術学科)
横田順一朗先生(堺市立病院機構)
2月1日(木)「災害時の透析ニーズに多面的に対応するために」
座長:田中裕先生(順天堂大学救急・災害医学)
南学正臣先生(東京大学腎臓内科)
2月2日(金)「災害時多数外傷症例に対する骨折治療戦略」
座長:入澤太郎先生(大阪大学救急医学)
土田芳彦先生(湘南鎌倉総合病院)
2月2日(金)「同時多数熱傷患者の診療戦略」
座長:池田弘人先生(帝京大学救急医学)
佐々木淳一先生(慶應義塾大学救急医学)
2月3日(土)「多数傷病者発生時のICU運用体制」
座長:田勢長一郎先生(福島県立医科大学)
成松英智先生(札幌医科大学救急医学)
2月1日(木)「Society 5.0におけるIoTを駆使した災害医療対応」
座長:小倉真治先生(岐阜大学医学部附属病院病院長)
中村通子先生(朝日新聞社)
2月2日(金)「トリアージについて徹底的に考える」
座長:勝見敦先生(武蔵野赤十字病院救命救急センター)
中尾博之先生(兵庫医科大学救急医学)
2月2日(金)「シームレスなオールジャパンの災害医療支援体制を作るために」
座長:甲斐達朗先生(大阪府済生会千里病院千里救命救急センター)
坂本哲也先生(帝京大学医学部救急医学講座教授)
2月2日(金)「東京オリンピック開催時の救急災害医療体制」
座長:横田裕行先生(日本医科大学救急医学)
奥寺敬先生(富山大学救急医学)
2月3日(土)「災害時の医療:南海トラフ地震」
座長:黒田泰弘先生(香川大学医学部救急災害医学)
吉野篤人先生(浜松医科大学救急災害医学講座)
2月3日(土)「災害時の医療:首都直下地震」
座長:浅利靖先生(北里大学医学部救命救急医学)
猪口正孝先生(公益社団法人東京都医師会)
2月1日(木)「多職種連携をいかにして行うか」
座長:阿南英明先生(藤沢市民病院救命救急センター)
山畑佳篤先生(京都府立医科大学救急医療部/救急・災害医療システム学)
2月1日(木)「医療者の指定参集について考える」
座長:石井正三先生((医)&(社福)正風会, (社)医療戦略研究所)
稲田眞治先生(名古屋第二赤十字病院救急科)
2月1日(木)「都道府県と政令指定都市の協働に向けて」
座長:松田潔先生(日本医科大学武蔵小杉病院救命救急センター)
川内敦文先生(高知県健康政策部医療政策課)
2月2日(金)「災害時救護活動に必要な法知識」
座長:植田信策先生(石巻赤十字病院呼吸器外科)
2月2日(金)「災害医療教育と訓練:いかに多くの人を育成し、いかに多くの人の参画を得るか」
座長:川瀬鉄典先生(兵庫県災害医療センター)
東岡宏明先生(ひがしおかメディケアクリニック)
2月3日(土)「火山噴火災害時の医療」
座長:吉原秀明先生(鹿児島市立病院救命救急センター)
井上潤一先生(山梨県立中央病院救命救急センター)
2月3日(土)「受援計画について」
座長:山内聡先生(大崎市民病院救急科)
佐藤栄一先生(新潟大学医学部災害医療教育センター)
2月1日(木)「地域包括ケアシステムと災害」
座長:有賀徹先生(独立行政法人労働者健康安全機構, 学校法人昭和大学)
伊藤重彦先生(北九州市立八幡病院救命救急センター)
2月1日(木)「リスク評価に基づく災害医療計画」
座長:和藤幸弘先生(金沢医科大学救命救急科)
七戸康夫先生(独立行政法人国立病院機構北海道医療センター救命救急センター救急科)
2月1日(木)「避難者支援の課題と展望」
座長:森野一真先生(山形県立中央病院救急科)
山﨑達枝先生(東京医科大学看護学科)
2月2日(金)「トリアージカードを再考する」
座長:久保山一敏先生(京都橘大学健康科学部救急救命学科)
勝見敦先生(武蔵野赤十字病院救命救急センター)
2月3日(土)「病院避難」
座長:鍛冶有登先生(岸和田徳洲会病院 救命救急センター)
石井美恵子先生(東京医療保健大学)
2月3日(土)「小児周産期領域における災害対策」
座長:六車崇先生(横浜市医療局・横浜市立大学)
川原千香子先生(愛知医科大学医学部シミュレーションセンター)
2月3日(土)「支援者支援の課題」
座長:森晃爾先生(産業医科大学産業生態科学研究所, 産業保健経営学研究室)
小平博先生(川西ベリタス病院救急総合診療科)
2月3日(土)「医療機関のBCPを地域全体から多角的に考える(病院機能を維持する関連団体との連携)」
座長:本間正人先生(鳥取大学医学部器官制御外科学講座救急・災害医学分野)
佐々木宏之先生(東北大学災害科学国際研究所)
2月3日(土)「災害時の医療支援ヘリコプター運用」
座長:竹内一郎先生(横浜市立大学大学院医学研究科救急医学)
髙山隼人先生(長崎大学病院地域医療支援センター)
2月3日(土)「薬事コーディ―ネーター制度の拡大にむけて」
座長:渡邉暁洋先生(日本医科大学千葉北総病院 薬剤部)
藤江直輝先生(大阪急性期・総合医療センター薬局)
2月3日(土)「災害医療ロジスティクスの更なる強化について」
座長:中田敬司先生(神戸学院大学現代社会学部 社会防災学科)
藤原弘之先生(岩手医科大学医学部救急・災害・総合医学講座災害医学分野)
2月1日(木)「災害と不作為」
司会:森村尚登先生(東京大学大学院医学系研究科救急科学分野)
講師:山本務先生(九州看護福祉大学)
2月3日(土)「「夜と霧」ヴィクトール・フランクルをたどる」
司会:石井史子先生(岡山赤十字病院)
講師:河原理子先生(朝日新聞社)
会期
2018年(平成30年)2月1日(木)~3日(土)
会場
パシフィコ横浜
〒220-0012 神奈川県横浜市西区みなとみらい1-1-1
TEL:045-221-2155 FAX:045-221-2136
会長
森村尚登(東京大学大学院医学系研究科 生体管理医学講座救急科学分野)
テーマ
「災害時の医療」を客観視し多面的に捉える
学会参加費
事前登録(会員のみ)12,000円
当日登録 14,000円
※学生(学部生のみ、大学院は除く)は学会参加無料となり、学生の演者(共同演者も含む)は日本集団災害医学会の会員でなくても発表可能です。ただし、学術集会当日、受付で学生証または施設長の証明書の提示が必要です。
懇親会会費
事前登録(会員のみ)3,000円
当日登録 4,000円
事務局
東京大学大学院医学系研究科救急科学
事務局長:軍神正隆
事務担当:比留間孝広
〒113-8655 東京都文京区本郷7-3-1
TEL: 03-3815-5411(Ext. 35195)|FAX: 03-3814-6446
E-mail: jadm2018-office@umin.ac.jp
運営事務局
株式会社ドゥ・コンベンション
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帝京大学医学部附属病院 救命救急センター 科長/主任教授
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