胆のう腺筋腫症とは、胆のう(胆汁を溜めておく袋状の臓器)の壁が何らかの要因によって厚くなる病気です。ほとんどは良性かつ無症状であるため、もし胆のう腺筋腫症と診断されても、心配しすぎることはありません。胆のう腺筋腫症の症状、タイプ、診断と治療について、山下病院 名誉院長の乾 和郎先生にお話を伺いました。
※胆のう腺筋腫症は「胆のう腺筋症」と呼ばれることもあります。本記事では、日本内視鏡外科学会で統一した名称として、「胆のう腺筋腫症」と記載します。
胆汁(十二指腸で食べたものと混ざり、消化・吸収を行う消化液)は、肝臓で1日に600〜800mlほどつくられ、胆管を通って十二指腸へ流れていきます。その途中に胆のうという袋状の臓器(大きさ10cm、幅4cmほど)があり、そこで胆汁は濃縮され、胆のうに一時的に蓄積されます。食べたものが胃から十二指腸に流れていくと、胆のうが縮んで、濃縮された胆汁が十二指腸へ流れます。
胆のう腺筋腫症とは、何らかの要因によって胆のうに別の袋状のもの(憩室:けいしつ)が増殖し、胆のうの壁が厚くなる病気です。このとき増殖する袋状のものを、RAS(ロキタンスキー・アショフ洞)と呼びます。RASは、胆のうの粘膜から、筋層(粘膜の下層にある筋肉層)や漿膜(しょうまく:筋層よりも下層にある組織の層)に向かって落ち込む形状をしています。袋のなかは空洞で、胆汁などの水分が溜まり、壁内結石になることがあります。
2007年の調査では、胆のう腺筋腫症の発症年齢は、男性では30歳代に一度ピークがあり、その後50歳代と60歳代ともに多くみられました。女性の場合、40歳代から多く認められ、50歳代、60歳代ともほぼ同じ頻度でみられます。1)
胆のう腺筋腫症で発生するRASはほとんどが良性であり、大きくならないことが特徴です。よって、胆のう腺筋腫症はほとんどの場合、ほかの臓器を障害したり、悪性腫瘍(がん)になったりしません。しかし、RASによって慢性胆のう炎や胆石症の症状が起こるケースもあります。たとえば胆石症では、胆汁のなかに余分なコレステロールがあると染み出して結晶化し、胆石になります。胆石がRASのなかにはまり込むと、胆のうが胆汁を出すために縮むときに痛みを感じます。
胆汁の流れが悪くなり、胆のうの内圧が上がるためにRASが発生すると考えられています。しかし現状では、胆のう腺筋腫症の原因の詳しいメカニズムは解明されていません。
胆のう腺筋腫症のほとんどは、症状が出ません。しかし、胆石症を合併している胆のう腺筋腫症の場合、または胆のう炎を起こしている場合には、右上腹部の痛みや違和感などの症状が出ることがあります。胆のう腺筋腫症のうち、5%ほどは胆石症を合併しており、15%ほどの方に胆のうポリープ(胆のうの内側にできる、イボやキノコのような形のできもの)があるといわれます。1)
先述の通り胆のう腺筋腫症はほとんどが無症状であるため、人間ドックや、他の病気にかかわる検診などで偶然みつかることが多いです。10年間にわたる調査では、人間ドックを行なった方のうち、0.46%(200人に1人ほど)の割合で胆のう腺筋腫症が発見されています。1)
胆のう腺筋腫症は、病変(病気による変化が起きている箇所)の部位や広がりから、3つに分類されます。
・限局型(底部型):
限局型(底部型)は、胆のうの底部を中心に憩室が発生した状態です。
・びまん型(全般型)
びまん型(全般型)は、胆のう全体に憩室が発生した状態です。
・分節型(輪状型):
分節型(輪状型)は、胆のうの頸部(細くなっている部分)や全体に憩室が発生し、胆のうの内部が狭くなっている状態です。
胆のう腺筋腫症を疑う場合には、腹部超音波(エコー)検査を行います。検査を通して、RASなど胆のう腺筋腫症に特徴的な結果があり、確定診断がついた場合には、経過観察を行います。経過観察では、1年に1回ほどの頻度で腹部超音波(エコー)検査を行います。
胆石症や胆のう炎を合併し、痛みなどの症状がある場合には、腹腔鏡による胆のう的摘出手術を行うことがあります。
胆のう腺筋腫症と確定できず、悪性腫瘍(がん)と区別できない場合には、MRIや造影CTなどの精密検査を行います。
胆のう腺筋腫症は、悪性腫瘍(がん)との識別が難しいことが特徴です。以前は、胆のう腺筋腫症はがんにはならないといわれていましたが、近年は、胆のうがんと同時に発生することが指摘されています。藤田保健衛生大学坂文種報德會病院においても2014年くらいから、胆のう腺筋腫症と胆のうがんを合併した症例を確認しています。2) がんが発生したとき、早期に発見するためにも、年に1回ほどの定期的な検査(腹部エコー)を推奨します。1)
胆のう腺筋腫症は、これまでお話ししたように良性であることが多いです。もし胆のう腺筋腫症と診断されても、心配しすぎなくて大丈夫です。しかし、がんになる可能性がゼロとはいえませんので、年に1回ほどの頻度で通院し、腹部エコー検査を行うことをおすすめします。このような定期的な検査は、がんが発生したとき早期に発見するために大切です。
出典
1)山田 一成 ら, 人間ドックで発見された胆嚢腺筋腫症の経時的変化,日本消化器がん検診学会雑誌. 45(6). 627-634. 2007.
2)金 俊 ら,胆嚢腺筋腫症合併胆嚢癌の特徴,日本胆道学会機関誌第28(4). 627-634. 2014.
山下病院 名誉院長
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