院長インタビュー

福井県越前市・池端病院の取り組み-地域包括ケアを担う病院として医療・看護・介護の連携を実現

福井県越前市・池端病院の取り組み-地域包括ケアを担う病院として医療・看護・介護の連携を実現
池端 幸彦 先生

池端病院 院長、医療法人池慶会 理事長

池端 幸彦 先生

この記事の最終更新は2017年05月23日です。

福井県越前市南部の王子保(おうしお)地区に位置する池端病院は、地元に根付き、乳幼児から超高齢者まで幅広い患者さんの診療・治療にあたってきました。同病院は、地域のニーズに応えるために、小児から高齢者の在宅医療にも積極的に取り組んでいます。院長である池端 幸彦先生は「地域包括ケアを担うモデル病院として、地域全体で医療や介護を担う体制を実現してきた」とおっしゃいます。その背景には、多職種の連携を積極的に推進してきた取り組みがあるそうです。今回は、池端病院の院長である池端 幸彦先生に、同病院の取り組みや地域の皆さんへの思いをお話しいただきました。

当院は、1959年、福井県越前市南部の王子保地区(旧南条郡王子保村)に池端医院として開業し、1965年に30床の病院を移転新築しました。そして乳幼児から超高齢者まで幅広い患者さんの診療にあたり、主に生活習慣病をはじめとする慢性期疾患から、がん認知症、予防医学に至るまで、あらゆる疾患に対応し、地域医療に取り組んできた歴史があります。

写真提供:池端病院

地理的な位置は、越前市南部と南越前町の一部で人口1万1千人ほどをカバーするエリアに位置していますが、中心市街地から5キロほど離れており、入院機能を有する医療機関としてはこのエリアでは唯一です。病棟は、医療療養型23床、介護療養型7床、計30床の小病院ですが、現在、機能強化型在宅療養支援病院として小児も含めて在宅医療も幅広く展開しており、医療療養病床の平均在院日数は約60日(平成27年度実績)と、療養病床の全国平均(約150日)からみると、かなり短くなっている点が特徴だと思います。

このため訪問診療以外の在宅・通所サービスにも力を入れており、訪問看護、訪問リハビリテーションを行っているほか、通所サービスとして、通所リハビリテーション、通所介護、認知症対応型小規模通所介護等を展開しています。さらに、当院では、ケアプランステーションと呼んでいる居宅介護支援事業所には常勤職員を8名配置し、月300件ほどのケアマネジメントを提供しています。また、越前市の地域包括支援サブセンターも受託し、要支援者のマネジメントのほか、地域の地域包括支援も幅広く実施しています。

当院は1病棟30床という極めて規模の小さな病院ですので、この地域で必要とされることであれば、「かかりつけ病院」として出来ることはなんでもやってきました。前述の通り、その1つに在宅医療があります。在宅医療の重要性が叫ばれるようになる前から、地域のニーズに応えるべく在宅医療に取り組んできたのです。そこには、高齢化とともに在宅医療を必要とする方が徐々に地域に増えたという背景があります。結果として、当院の常勤医師は全員、訪問診療を定期的におこなっています。また在宅医療には、医療介護福祉分野の様々な職種との連携が必要となるケースが多く、多職種連携にも積極的に取り組んできました。

満100歳を迎えた訪問診療の患者さんと池端院長(写真提供:池端病院)

このような在宅医療に取り組むなかで心がけていることは、在宅医療と、施設への(短期)入所や病院への入院を柔軟に組みあわせるということです。その際、ご家族に今後の方向性を示すのは、ケアマネージャーなどどちらかというと介護サイドの専門家であることが多いのですが、私はそこに医師ももっと関わるべきだと考えています。それは、高齢化の進行とともに、介護と医療をよりよく理解し、さらにスムーズな連携を推し進める必要があるためです。今後も当院では、より医療と介護の連携を密にしながらそれらを一体的に提供できるよう、取り組んでいきたいと考えています。

このように、私たちは以前から在宅医療に取り組んできましたが、私は、必ずしも在宅で看取ることだけが重要だとは思っていません。在宅医療を以前から手がけているのに、相反する意見だと思われるかもしれません。しかし、医療資源・介護力や距離等の問題で在宅医療を進めにくい地域や家庭もありますし、患者さんの状態が悪くなれば自宅で看取ることが難しいケースもあるでしょう。さらに、在宅医療の場合、ご自宅で看取った経験がなく不安を感じるご家族も少なくないと思います。もしもそのような不安があったり、病状が落ち着かない状況であれば、一度病院等に入院した上で、在宅療養に戻れるまでに病状が落ち着いてから、またご自宅等に帰るという選択肢も検討するといいのではないかと考えています。つまり、「ときどき入院、ほぼ在宅」です。

在宅医療を受ける方や提供する側の中にも、何が何でもすべて自宅で完結させなければいけないと考えてしまう方もいますが、状態が悪くなったときに入院可能な医療機関に頼ることは決して悪いことではないと思います。当院でも在宅医療の患者さんを受け入れ、状態が改善したときには患者さんの希望に沿ってすみやかに自宅に帰っていただいています。このように、在宅医療には利用者本人や家族の思いに寄り添い、出来るだけ柔軟な対応が求められるのではないでしょうか。

また、私たちは、高齢者のみならず小児の在宅医療にも取り組んでいます。もともとこの地域には、小児の在宅医療に取り組む医師が全くおりませんでした。その一方、呼吸器をつけながらでも在宅生活が可能な小児の患者さんは、この地域にも一定程度いらっしゃいました。そこで、そのニーズに応える形で、徐々に小児の在宅医療にも取り組んでいったことが始まりです。

重症小児在宅医療風景(写真提供:池端病院)

もちろん、患児が抱える特定疾患に精通した小児専門医との強固な連携のもと、いざというときは救急搬送ができる体制が整っていることが必須条件となります。さらに、私たちのように平時に通常往診する医師には、患者さんご本人の日々の診療はもちろんのこと、環境や育児をはじめ関連した話をしっかりと聞くなど、ご家族の不安を少しでも軽減できるように努めることが必要です。また、小児の場合、一時期に多くの予防接種を受けなければいけないケースがあり、症状の重い患者さんを頻繁に予防接種に連れて行くことは非常に困難です。このような場合、私たちが往診して予防接種を実施することも、実地医家に出来る小児在宅医療の大事なお手伝いの一つだと感じています。。

在宅も含めた慢性期医療を提供する池端病院は、このような医療介護福祉を横断する多機能のサービスを展開しているため、小病院ながら職員数は非常勤を含めて約120名を超え

ています。また、そのうちケアマネージャーの有資格者は24名、療法士はPT・OT・ST合わせて16名が各サービスに配属し、更に管理栄養士・栄養士も合わせて6名体制にすることで、地域包括ケアには欠かせない運動(リハ)・食事(栄養)・ケアプラン(マネジメント)に力を注いでおり、保健・医療・介護複合体として、一体的に質の高いサービスを提供することを目指して運営しています。

全職員出席の法人総会風景(写真提供:池端病院)

連携の一環として、2014年からは院内で多職種による地域ケア会議を実施しております。一般に地域ケア会議とは、医療、介護等の多職種が協働し、個別ケースの課題分析や地域ニーズ分析等をおこなうことをいいます。その院内版会議は、介護を担うケアマネージャーが医療的なことを学ぶ絶好の機会になりますし、栄養士やセラピストなど、多職種の意見を交換し連携を推進する取り組みにもなっています。いずれは、院外のケアマネジャーにも広く開放して、相互研修の機会になればと考えています。

日本では、2025年を目処に、地域全体で連携をしながら住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアが推進されています。私たちの病院は長い間、地域の医療や介護を担ってきました。今後はさらに、地域包括ケアを担うモデル病院として体制をよりいっそう整え、当院の取り組みを広めていくことが目標です。

退院時カンファレンスの風景(写真提供:池端病院)

少し話は逸れますが、私は院長に就任してからも現場医師として、積極的に診療・治療に当たっています。それはもちろん医師不足を補うという側面もありますが、実際に患者さんに接し治療にあたっているからこそ持つことができる現場の感覚を大事にしたいと思っています。医療の世界は刻一刻と変化していきますが、現場の感覚を大切にすることで、患者さんの目線に立った適切な医療が提供できると思っています。今後も患者さんの診療や治療を大切にし、より良い医療サービスの提供につなげていきたいと考えています。

地域の皆さんには、健康上の不安があれば、どんなことでも相談に来ていただきたいと考えています。それは、ご家族やご親戚のことでも構いません。お話ししてきたように、私たちは、医療・介護のノンストップサービスを担う医療機関です。たとえば、高度急性期の手術など、当院で受けることができないものに関しても、責任を持って他院をご紹介いたします。

日本は、団塊の世代がすべて後期高齢者となる2025年には、文字通り超高齢化社会を迎えます。そのなかで、患者さんには、今一度自分はどのように生きていきたいかということを考え、声をあげてほしいと願っています。どのように生きていきたいかということは、どのような医療や介護を受けたいかということにつながります。自分や家族に医療や介護が必要になったとき、どのような選択をしたいか、伝えてほしいのです。私たちは、その希望に沿うよう、精一杯お手伝いしたいと思っています。

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  • 池端病院 院長、医療法人池慶会 理事長

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