椎間板ヘルニアは、背骨を構成する骨の間にある「椎間板」がなんらかの要因で突出し、神経に触れたり炎症を起こしたりすることで発症します。椎間板ヘルニアの治療はどのように行うのでしょうか。その選択肢と、基本となる「保存療法」の詳細について、北青山Dクリニックの泉雅文先生にお話を伺いました。
椎間板ヘルニアに対する治療の基本は、「保存療法(手術を行わない治療)」です。
まずは安静と、必要に応じて薬物療法や理学療法を行い、症状の改善を試みます。これらの治療を行っても痛みなどの症状が改善しない場合には、神経ブロック*を行うことがあります。一方で、長期間にわたって症状が続き生活が制限されるようなケースでは、患者さんの希望や状況に応じて、手術を検討します。
神経ブロック・・・局所麻酔やステロイド剤を注射して痛みを和らげる治療法
(椎間板ヘルニアの手術については記事4『椎間板ヘルニアの手術』をご覧ください。)
<椎間板ヘルニアの保存療法>
記事1『椎間板ヘルニアはなぜ起こる? 原因・症状』でお話ししたように、椎間板ヘルニアは、なんらかの要因で椎間板が突出し、神経に触れたり炎症を起こしたりすることで発症します。そのため、椎間板ヘルニアの治療では、まず「安静」にして症状の改善を試みます。安静とは、傷ついた神経に余計な圧をかけないよう脊椎の可動域を制限し、楽な姿勢で長時間過ごすことです。
非ステロイド性消炎鎮痛剤(痛み止め)や筋弛緩薬(筋肉の緊張を和らげる薬)を使い、痛みを抑える薬物療法を行います。
安静や薬物療法によって痛みが治ったあとは、ストレッチなど体の荷重の偏りをとるリハビリを行います。
神経ブロックとは、局所麻酔やステロイド薬を注射して痛みを和らげる治療法です。
通常、椎間板ヘルニアは、急性増悪(急激に症状が悪化すること)してから1週間ほど経った時期に、もっとも痛みを感じやすいとされています。そのため、安静や薬物療法、理学療法を行い、2週間経過しても症状が改善されず日常動作が大きく制限される場合、神経ブロックを検討します。
神経ブロックは、注射の部位によっては患者さんの安全を確保するために入院が必要なケースもあります。
先述の通り、基本的な椎間板ヘルニアの治療は「保存療法」です。しかし、数か月経っても症状が改善しないケース、あるいは症状によって社会生活が制限される場合には、患者さんの希望や状況に応じて手術を検討します。
(椎間板ヘルニアの手術、レーザー治療については記事3『椎間板ヘルニアのレーザー治療(PLDD)』をご覧ください。)
発症した当初から運動神経症状が強く出ているもの、たとえば、手や足が動かない、細かい動きができないようなケースは、早急な治療が必要と判断し、保存療法を選択しないこともあります。
また、記事1『椎間板ヘルニアはなぜ起こる? 原因・症状』でお話ししたように、ヘルニアによって馬尾と呼ばれる神経が圧迫され傷つくと、排尿障害、排便障害を生じることがあります。このような場合、早急に原因を取り除くことが必要であるため、手術を検討します。
急に動く、急に止まるといった突発的な動作は、椎間板ヘルニアを悪化させるリスクがあります。そのため、椎間板ヘルニアの治療中は突発的な動作を避けましょう。
基本的に、椎間板ヘルニアの治療は主治医の指示のもと行います。そのうえで、自宅でもできるストレッチなどを紹介します。
椎間板ヘルニアのセルフケアとして、体の前側を伸ばすストレッチは有効です。たとえば、下記イラストのように床に手をつけて体を起こします。あるいは、横向きなら体をひねるようにして腕で反対側の脚を持ちます。ストレッチの際は、ゆっくりとした動きで、息を吐きながら行いましょう。
長時間、背中や腰を丸める姿勢や、腰に突発的な衝撃が加わるような動作は避けましょう。たとえば、掃除機をかけるときには背中を伸ばして行う、歯磨きでうがいをするときには膝を曲げて背中を伸ばす、くしゃみをするときには膝などを曲げて関節に圧を逃すといった方法があります。
また、運転中は背中が丸まって前傾姿勢になりがちです。運転をする際には、なるべくシートを前方に動かし、背筋を立てるようにするとよいでしょう。
これまでお話ししたように、基本的な椎間板ヘルニアの治療は「保存療法」です。椎間板ヘルニアで痛みやしびれなどの症状が出ている患者さんは、不安に思われるかもしれません。しかし、ぜひ患者さんには「治る」と希望を持って、治療を継続していただきたいです。
また、椎間板ヘルニアの治療として手術やレーザー治療も進歩していますので、気になることがあれば主治医にご相談ください。
椎間板ヘルニアに対するレーザー治療は、2018年現在、保険適用外です。詳細は記事3『椎間板ヘルニアのレーザー治療(PLDD)』をご覧ください。
泉 雅文 先生の所属医療機関
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