タンジール病とは、生まれつきHDLコレステロール*の値が異常に低くなる病気です。治療では、動脈硬化(動脈の壁が厚くなったり硬くなったりすることにより、血管が細くまたもろくなる状態)によって引き起こされる心筋梗塞や脳梗塞の予防につながる治療が重要です。
今回は、帝京大学医学部附属病院の塚本 和久先生に、タンジール病の診断と治療についてお話しいただきました。
HDLコレステロール:HDL(体の細胞で余剰となったコレステロールを肝臓に運ぶ粒子)の中に含まれるコレステロールのこと。HDLは脂質が蓄積して動脈硬化を起こした血管からもコレステロールを引き抜くことができます。そのため、HDLコレステロールを「善玉コレステロール」と説明することがあります。
体のはたらきを維持するためには、コレステロールが必要です。そのため、体内でコレステロールがつくられたり、血液を介してコレステロールが全身に送り届けられたりしています。このとき、使い切れずに余ってしまったコレステロールは、血管の壁にたまっていきます。
血管の壁に余分なコレステロールが蓄積されると、動脈硬化(動脈の壁が厚くなったり硬くなったりすることで、はたらきが悪くなる状態)につながります。このようなコレステロールの蓄積を減らすはたらきを担う物質が、HDLと呼ばれる血液中の粒子です。HDLは、血液中を流れるリポタンパク粒子であり、血管の壁にたまったコレステロールを再回収し、肝臓に送りこむはたらきをもちます。HDLによって肝臓に送りこまれたコレステロールは、肝臓で胆汁酸などに変換され体外に排出されます。
タンジール病のように、HDLコレステロールの濃度が低いとHDLの機能が正常にはたらかなくなり、余分なコレステロールが再回収されません。その結果、血管の壁にコレステロールが溜まってしまい、動脈硬化につながってしまいます。
日本では、異常に低いHDLコレステロールの値は、健康診断によって発見されると考えてよいでしょう。たとえば、特定健康診査では、HDLコレステロールの基準を40mg/dl以上と定めており、35mg/dl未満である場合には「受診勧奨」という判定になり必ず通知がきます。タンジール病では10mg/dL未満という異常に低い値が現れるため、少なくともHDLコレステロールの低い値が見逃されることはないでしょう。
タンジール病は、主に血液検査によるHDLコレステロールの値や、症状をもとに診断されます。
タンジール病の診断では、血液検査によってHDLコレステロールの値が10mg/dL未満、血中アポA-1濃度が10mg/dL未満であるかどうかを調べます。
血液検査の結果とともに、以下の症状を2つ以上満たしているかどうかを確認していきます。
遺伝子検査によってタンジール病の原因であるABCA1遺伝子の変異を確認することができれば確定診断(何の病気なのかを確定させる診断)につながります。
タンジール病以外にも、低いHDLコレステロールの値を示す病気は存在します。たとえば、LCAT欠損症や魚眼病、アポタンパクA-I欠損症など遺伝子異常によって生じる病気があります。また、何らかの病気に伴いHDLコレステロールの値が低くなる二次性低HDLコレステロール血症もあります。タンジール病の診断では、これらの病気の可能性を鑑別することも大切です。
2018年5月現在、タンジール病を根本から治す治療法は開発されていません。そのため、治療では、定期的に病院を受診し経過観察をしながら、現れる症状に対して治療を行うことが基本になります。たとえば、臓器へのコレステロールの蓄積や末梢神経障害を和らげる治療が行われます。
オレンジ扁桃が、かなり大きくなる場合には、扁桃腺を摘出することがあります。また、角膜混濁によって視力が低下した場合には、健康な角膜を移植する角膜移植を実施することもあります。
タンジール病の患者さんの治療で特に重要になるものが、動脈硬化による狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などの予防です。2018年5月現在、HDLの機能を正常化させる方法はないため、動脈硬化を起こす他の危険因子をコントロールすることが重要です。
たとえば、喫煙している方には禁煙を推奨したり、あるいはLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を薬でコントロールしたりする必要があります。
喫煙は動脈硬化を進行させるため、禁煙を心がけてほしいと思います。また、糖尿病や高血糖を合併すると動脈硬化が進行しやすくなるため、予防あるいは適切な治療が必要です。
また、肥満な状態であると動脈硬化が進行していきます。そのため、できる限り理想体重に近づけてほしいと思います。食事では、魚や野菜など不飽和脂肪酸を含む食品を多くとることで、動脈硬化を少しでも進行させないようにすることが重要です。
また、医師から運動制限を受けていない場合には、運動をすることも心がけてください。以上のことは、タンジール病でない方にとっても重要なことです。
タンジール病を発症しても、学校に通ったり仕事をしたりなどの社会生活を、通常は問題なく送ることができます。しかし、心筋梗塞や脳梗塞など、命にかかわる病気を引き起こす可能性があるため、継続的な治療が大切です。
日常生活では、動脈硬化を起こすような因子をなるべく避けることが重要です。繰り返しになりますが、禁煙を心がけたり、食事では魚や野菜を多くとったりするなど、日常生活の改善をはかることも効果的でしょう。経過観察を行いながら、必要な治療に取り組んでほしいと思います。
帝京大学 医学部内科学講座 主任教授、帝京大学医学部附属病院 内科 科長、日本内分泌学会 評議員
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