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インタビュー

聴器がんの検査とステージごとの治療

聴器がんの検査とステージごとの治療
吉本 世一 先生

国立がん研究センター中央病院 頭頸部外科 科長(希少がんセンター併任)

吉本 世一 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年07月31日です。

耳の奥にできる聴器がんは、進行すると顎の関節へと広がったり、顔面神経を圧迫して麻痺を引き起こしたりすることがあります。このように、現れている症状やステージによって、手術で切除する範囲や残せる機能も変わります。聴器がんの検査方法と、ステージごとの治療方法について、国立がん研究センター中央病院頭頸部外科・科長の吉本世一先生にお話を伺いました。

聴器がんを診断するために行う検査は、CT検査とMRI検査です。どちらも画像検査ですが、描出できるものや目的が異なるため、2つの検査を必ずセットで行っています。

CT検査は、主に骨への浸潤(広がり)をみることに役立ちます。また、リンパ節転移の有無も確認できます。

MRI検査は、軟部組織への浸潤(広がり)をみるために使用します。

骨と軟部組織への浸潤の有無や程度を調べることは、ステージ分類のためにも必須であり、どちらも重要な検査です。

聴器がんの確定診断をつけるためには、耳の穴から腫瘍組織を採取する生検を行う必要があります。

生検で採取した組織をもとに病理検査が行われ、がんであることや、がんの組織型を確認します。この検査は、複数回繰り返し行うこともあります。

がんという病気は、正常な細胞が何らかの原因により徐々に「がん化」し、そのがん細胞が増殖することで成り立ちます。正常細胞ががん化するまでには、白(正常)とも黒(がん)とも判断することができない灰色の時期が存在します。

そのため、組織を綿密に調べたとしても、一度で聴器がんであると診断を確定できないこともあり、生検を複数回繰り返す必要が生じることもあるのです。

がんは、組織のタイプにより扁平上皮癌(へんぺいじょうひがん)腺様嚢胞癌(せんようのうほうがん)などに分けられます。これを「組織型による分類」といいます。

たとえば、唾液腺がんは、多様な組織型のがんに分けられることで知られています。聴器がんの場合は、唾液腺がんのようにさまざまな組織型が存在するわけではなく、大半は扁平上皮癌です。まれに腺様嚢胞癌などの扁平上皮癌以外の悪性腫瘍もみられることがありますが、この場合は治療方針が異なってくることがあります。そのため、この記事では、扁平上皮癌に焦点を絞り解説していきます。

がんが周囲の組織にどの程度広がっているかを確認するためには、患者さんと対面して行う触診や問診も重要です。診察の際には、次に挙げる症状の有無を確認します。

目を強くつぶってもらったり、口を尖らせてもらったりして、表情筋の動きに微妙な左右差がないかどうかを調べます。顔面神経麻痺の程度が軽い場合、ご本人も自覚することが難しいほどわずかな症状しか生じないこともあります。そのため、顔面神経麻痺の有無をみる際にはとりわけ慎重な観察が必要になります。

聴器がんが生じる耳の近くには顎関節があるため、口が開きにくくなる開口障害(かいこうしょうがい)を生じることもあります。開口障害の程度が強い場合、がんが顎関節に広がっていることもあります。そのため、診察時には口を開ける際に痛みが生じるかどうかということも確認します。

耳介を引っ張ったときに生じる耳介牽引痛(じかいけんいんつう)は、通常であれば外耳道の炎症で生じます。しかし、聴器がんが深部へと広がっていることにより、耳介牽引痛が起こる場合もあるため、私たち医師は注意深く診察を行っています。耳介牽引痛の有無は、実際に患者さんの耳介を引っ張ることで確認します。

耳介とは:耳のうち外に出ている部分。耳たぶやその上の部分を含む。

聴器がんは非常にまれながんであり、各施設における症例数が少ないため、明確な治療方針やガイドラインは定まっていません。ただし、学会や学術雑誌などで各施設が発表や報告を行っていることに加え、インターネットの普及により情報交換がスムーズになったことから、治療に関する全国的な意思統一は少しずつできているという印象を受けています。以下は、現在当センターで行っているステージごとの治療です。

【参考:Pittsburgh分類によるT stage】

聴器がんのステージ

(参考:Moody SA1, Hirsch BE, Myers EN,Squamous cell carcinoma of the external auditory canal: an evaluation of a staging system.Am J Otol. 2000 Jul;21(4):582-8.)

骨や軟部組織への浸潤(広がり)がないT1や、限られた範囲にのみ浸潤がみられるT2の早期がんに対しては、治癒を目指した手術を行います。

術式は、外側側頭骨切除術(がいそくそくとうこつせつじょじゅつ)側頭骨亜全摘術(そくとうこつあぜんてきじゅつ)の2種類に大別されますが、T1やT2では外側側頭骨切除術が適応になります。詳しい手術方法は次の項目をご覧ください。

手術後に、より確実にがん細胞を死滅させる目的で放射線治療を組み合わせることもあります。

さまざまな条件から手術を受けることができないT1、T2の患者さんには、抗がん剤と放射線を組み合わせた化学放射線療法を行うこともあります。

T3に進行している場合、化学放射線療法によって病気を治すことは難しいため、手術が唯一の治療法となります。

T4に進行している場合、手術では治癒を目指すことができないことが多いです。そのため、各施設で複数の抗がん剤と放射線を組み合わせた治療が行われています。

がんの発生部位が外耳道に限局している(限られている)場合や、浸潤(広がり)が一定の範囲にとどまっている場合などに行われる手術です。

ただし、一括りに外側側頭骨切除術といっても、がんの広がりによって切除範囲は大きく異なります。

がんが深い場合や、周辺組織に及んでいる場合には、鼓膜、耳小骨(音を伝える骨)、顎関節、乳突洞(にゅうとつどう)、耳下腺などを切除する必要が生じることもあります。

聴力の温存は難しい

鼓膜を含めて側頭骨を切除することが多い外側側頭骨切除術では、聴力を温存できないケースがほとんどです。がんが外耳道のごく浅い部分に限局している症例など、聴力を残すことが可能なケースもありますが、頻度はそう多くはありません。

顔面神経は温存を目指す

外側側頭骨切除術は、基本的には術前に顔面神経麻痺が生じていない場合に行われます。手術を行っても、多くのケースで顔面神経を温存する(残す)ことができます。

がんが広がっており、外側側頭骨切除術では切除しきれない場合には、側頭骨亜全摘術が選択されます。

側頭骨亜全摘術とは、外耳道や中耳にできたがんを一つの塊として切除する術式です。切除範囲が広い側頭骨亜全摘術の場合、顔面神経の温存は不可能です。

なお、この手術は頭頸部外科の医師だけでなく、脳外科の医師も共に行う共同手術となる施設が多いです。

症例数の少ない聴器がんの生存率を向上させることは、単施設の取り組みだけでは困難です。そのため、現在、日本臨床腫瘍研究グループ(Japan Clinical Oncology Group:JCOG)と呼ばれる臨床試験グループが、症例や情報の集約化を進めています。

今後、JCOGが中心となり、治療のガイドライン化なども進められていくのではないかと期待しています。

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