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インタビュー

耳にできる聴器がんの原因と症状-耳掃除に注意

耳にできる聴器がんの原因と症状-耳掃除に注意
吉本 世一 先生

国立がん研究センター中央病院 頭頸部外科 科長(希少がんセンター併任)

吉本 世一 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年07月31日です。

耳のがんである聴器がんは、「年間発生数が人口10万人あたり6例未満の悪性腫瘍」と定義される希少がんのひとつです。感染により起こる外耳炎と症状がよく似ており、発見や診断が難しい例も少なくはないといわれています。聴器がんの原因や、やってはいけない行為、症状について、国立がん研究センター中央病院頭頸部外科・科長の吉本世一先生にお伺いしました。

聴器がんとは、一般に耳の穴の入り口より奥にできるがんのことを指します。まずは、耳の構造をイラストでみてみましょう。

耳の構造

聴器とは一般的に耳と呼ばれる部位のことであり、耳介(耳のうち外に出ている部分)、外耳道(耳の穴から鼓膜まで)、中耳(耳小骨が存在する空間)、その奥の内耳を含みます。

学問の世界では、これらの部位に生じたすべてのがんを聴器がんと呼びます。ただし、実際の医療現場では耳介にできるがんは、聴器がんではなく皮膚がんとして扱われます。また、内耳に聴器がんが生じることは、現実にはほとんどありません。そのため、この記事では医療現場の実情に則し、聴器がんを「外耳道・中耳にできるがん」と定義してお話します。

聴器がんは希少がんのひとつに分類されるまれながんであり、日本における正確な患者数はわかっていません。希少がんとは、「年間発生数が人口10万人あたり6例未満の悪性腫瘍」と定義されるがんのことです。

聴器がんは頭頸部がんの中の一つとして分類されますが、頭頸部がんは世界的にみると、決してまれながんというわけではありません。たとえば、噛みタバコが普及している地域や、歯科が普及しておらず口腔衛生の維持が難しい地域などでは比較的多くみられます。このことから、頭頸部がんの発生には環境的素因が関与していると考えられます。

さまざまながんを引き起こす要因のひとつに、「慢性的に持続する炎症」があります。では、聴器の慢性的な刺激と炎症は、どのようなリスク因子によって引き起こされることがあるのでしょうか。

耳掃除を控えよう

耳かき

代表的なリスク因子として、耳かきを使用した耳掃除が挙げられます。耳掃除については、耳を損傷させるリスクがあるとして、アメリカの耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会(AAO-HNSF)も勧告を行っています。

参考文献:American Academy of Otolaryngology-Head and Neck Surgery. Clinical Practice Guideline: Cerumen Impaction.

本来、外耳道には細かな毛が生えており、不要なものを外部へと排出する自浄作用があります。そのため、健康な人であれば原則耳掃除をする必要はありません。

しかし、スプーン状の耳かきなどを用いた耳掃除により毛を弱らせたりしてしまうと、自浄作用は働きにくくなり、耳垢などが自然に排出されなくなっていきます。そのため、かゆみなどを感じ、繰り返し耳掃除を行って外耳道の上皮を傷つけてしまうという負のループが生じるのです。

このような理由から、硬いスプーン状の耳かきを使用した耳掃除は、今日からでも控えていただいたほうがよいとお伝えします。

どうしても外耳道のかゆみなどが気になる場合は、硬いスプーン状の耳かきを使用せず、お風呂上がりなどに柔らかい綿棒で拭き取るのみにとどめましょう。

湿性耳垢の人は耳鼻科での耳掃除を

本来、耳掃除が必要な人とは、耳垢に粘り気がある湿性耳垢(しっせいじこう)の人のみです。ただし、湿性耳垢の方の場合は、耳鼻科での耳掃除が必要になるため、いずれにしてもご自身での耳掃除はおすすめできません。

次に挙げる症状は、聴器がんのうち外耳道にできるがん(以下、外耳道がん)に多くみられる症状です。

参考文献:N.yin et al. Analysis of 95 cases of squamous cell carcinoma of the external and middle ear. Auris Nasus Larynx. 2006 251-257

外耳道がんの症状のうち、最も多くみられる症状は耳垂れです。耳垂れとは、医学的には耳漏(じろう)とも呼ばれる耳汁のことです。

ただし、耳垂れは外耳炎など、ほかの病気でも生じる症状であり、この症状だけで外耳道がんを疑うことは困難です。

2番目に多い症状は耳の痛みです。耳痛(じつう)は良性の外耳炎でも生じますが、外耳炎の場合は抗生物質の投与により1~2週間ほどで落ち着きます。

一方、悪性の病気である外耳道がんの耳痛は数か月と長く継続し、非常に強い痛みへと進展していきます。

耳の穴から血が混ざった耳垂れが生じる出血性耳漏(しゅっけつせいじろう)は、良性の外耳炎では起こりにくい症状です。

出血性耳漏と強い耳痛の2つが同じ患者さんに現れている場合は、外耳道がんである可能性を考えるべきときといえます。

耳

良性の病気ではなく、悪性腫瘍ではないかと疑いを持つポイントのひとつに、「症状が長く続き、徐々に悪くなっていくこと」が挙げられます。

たとえば、耳の痛みが1週間ほど続いている患者さんの場合は、まず良性の病気である外耳炎などの可能性を考えます。その後、症状が軽くならず、たとえば1か月以上、そして2~3か月と持続し、さらに徐々に悪化するようであれば、その時点で初めて悪性腫瘍の可能性を考えます。これは耳の痛みだけでなく、耳垂れなどの症状にも共通していえることです。

聴器がんの代表的な進行症状のひとつに、顔面神経麻痺が挙げられます。片側の表情筋が動かせなくなる顔面神経麻痺は、大きくなった腫瘍が耳の近くを通る顔面神経を圧迫するために起こります。

麻痺の程度が軽い場合、顔(表情)の動きがわずかに左右非対称となるだけで、患者さんご自身も気づかないということもあります。そのため、診察時には顔を動かしてもらい、軽い麻痺がないかを慎重に見極める姿勢が大切です。

なお、顔面神経麻痺は、最も重症度の高いステージであるT4まで進行して初めて現れる症状です。聴器がんのステージ分類については、次の項目をご覧ください。

実際の医療現場で聴器がんの重症度を分類するときには、聴器がん全般ではなく、外耳道がんのステージ分類である“Pittsburgh分類”を使用します。

【Pittsburgh分類によるT stage】

聴器ガンのステージ分類

(参考:Moody SA1, Hirsch BE, Myers EN,Squamous cell carcinoma of the external auditory canal: an evaluation of a staging system.Am J Otol. 2000 Jul;21(4):582-8.)

聴器がん全般のステージ分類には、“Stellによる外耳道・中耳がんに対するT分類”というものがあります。しかし、外耳道よりも深い部分である中耳のがんは発見が難しく、多くは相当に進行してから初めてみつかります。そのため、現場において実際に役立つステージ分類は、聴器がん全般ではなく外耳道がんのステージ分類である“Pittsburgh分類”といえます。

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