院長インタビュー

患者さんが望んだ場所で生活できるように-医王病院の取り組み

患者さんが望んだ場所で生活できるように-医王病院の取り組み
駒井 清暢 先生

独立行政法人国立病院機構 医王病院 名誉院長

駒井 清暢 先生

この記事の最終更新は2018年07月25日です。

独立行政法人 国立病院機構 医王病院は、1938年に開設された石川県結核療養所を前身としています。1969年からは重症心身障害児(者)の診療に機能を転換。2005年には神経難病を中心に診療していた金沢若松病院と統合合併し、現在に至ります。

全国でも数少ない脳神経筋系疾患に特化した病院であるため、県外からの患者さんも多く受け入れています。

同院では現在、どのような取り組みを行っているのでしょうか。院長である駒井 清暢先生にお話を伺いました。

 

医王病院ご提供

医王病院は、全国に142か所ある国立病院機構に属する病院のひとつです。2018年現在は、病床数310床と10科の診療科[注1]を構え、重症心身障害児(者)と脳神経筋難病の分野を軸とした医療を提供しています。そのため、まれな病気のために他院では対応が難しい患者さんも数多く受け入れています。

難病医療は、一般的に情報が得られにくく、患者さんやご家族、あるいは地域でサポートを行う専門職の方たちも、何かしらの不安を持っている場合が多くあります。そのため、当院は院内で行う診療だけでなく、地域への情報提供や各種支援機関のサポートも積極的に行うことで、地域医療に貢献しています。

 

[注1]歯科の診療は、入院患者さんのみとなります。

当院の最大の特徴は、小児から成人までの脳神経筋疾患と重症心身障害児(者)の診療に特化していることです。そのため、脳神経の専門知識・技術を持つ医師が多く集まっています。現在は、発達障害学習障害などの治療を専門とする医師も在籍しており、その点も当院の強みだと考えています。

また当院では、たとえ重い状態であってもしっかり受け入れることを心がけています。他の病院で受け入れが難しい患者さんが、切実な思いで当院を頼ってきてくれます。いわば「最後の砦」という覚悟をもって対応しています。

院内レクリレーションの様子 医王病院ご提供

 

当院では、疾患の重症度にかかわらず在宅での療養を積極的に支援しています。たとえば、人工呼吸器や経管栄養などの医療的ケアが必要であったとしても、患者さんやご家族の希望があれば、できる限りご自宅で療養できるようにサポートします。

入院患者さんが在宅医療に移る際には、十分な準備が必要です。そのため、患者さんの退院前に、在宅で診療を担当する予定の医師に来院いただき、現状を確認したうえでしっかりと事前準備を行っています。また、在宅での療養を行うためには、訪問看護やリハビリテーション事務所などの、患者さんやご家族を支える方々への支援も重要です。こういった在宅医療へ移る前の手厚い支援が、当院の在宅医療に向けたサポートの特徴のひとつです。

RST(呼吸ケアチーム)の皆さん 医王病院ご提供

ここ数年、地域にレスパイトケアが認知されてきたと感じています。レスパイトケアとは、普段は自宅で療養されている方が、介護者の病気療養や休息のために一時的に入院することです。当院では、ここ10年ほどでレスパイトケアの利用が増えてきました。

在宅での療養を続けるためには、こうしたサービスを活用いただき、介護者が無理に頑張り過ぎないことが重要です。そうすることで、介護の質もあがり、結果的に患者さんのQOLも向上します。

「レスパイトケアの利用は、介護をする側にとっても、される側にとっても幸せなことである」と、継続してアピールをしてきたことが、多くの方に知っていただくに至った要因であると考えています。

 

当院で主に診療を行っている脳神経筋疾患には遺伝性疾患も少なくありません。このため遺伝性疾患を持つ方やご家族に対して、遺伝カウンセリングを行っています。相談者は、当院の神経内科や小児科だけでなく、ほかの急性期病院から紹介されて来院されることも多いです。遺伝子診断を希望される方に対して、事前に遺伝カウンセリングでしっかりお話しします。そのなかで、遺伝子診断を受けることで得られるメリットとデメリットを理解していただきます。カウンセリングの結果、遺伝子診断を受けないという選択肢もあります。また、遺伝子診断の結果が望ましくないものであった場合でも、ご本人とご家族に対する心理的支援をしっかり行う体制を整えています。

遺伝子診断をする、しないどちらにおいても、ご本人やご家族が納得できるよう、しっかりとお付き合いしていきたいと考えています。

 

当院では、専門性の高い疾患を看ていることから、病気への専門性とホスピタリティーの両立が求められる病院であると考えています。その点、当院では思いやりのある職員が多いように思います。意思表示ができない患者さんの意思をどのように汲み取るか、ご家族の気持ちをどのように整理して見守るかという、内面的な課題にも多くの職員が関心を持って取り組んでくれています。病気によってお付き合いの期間の長さはさまざまです。しかし、期間の長短に関わらず、気持ちの面からも患者さんやご家族を支援していくことが重要と考え、日々診療、看護にあたっています。

この数年間で、日本難病看護学会認定の難病看護師や、日本看護協会認定の慢性呼吸器疾患看護認定看護師など、専門分野を持つ看護師の数も増えてきました。認定看護師の資格を取りたいという職員には費用の補助なども行っています。

院内での勉強会も増えており、必要に応じて、東京や名古屋などの勉強会にも出向いてもらい、学んできたことをフィードバックしてもらっています。こういった取り組みは、これからも継続していきたいと思います。

デイケアの風景 医王病院ご提供

 

2007年からは、石川県難病情報・支援センターが行う難病相談事業に積極的に協力しています。難病医療は情報が少なく、何が正しいのかわからないという方が多くいらっしゃいます。そこで、当院の医師や看護師、ソーシャルワーカーなどを相談員として派遣しています。

在宅医療を支援している診療所や訪問看護・リハビリテーション事業所などに対しても、疑問や困ったことがあればいつでも相談に応じています。また、職員を研修会の講師として派遣したり、症例検討会に出向いてもらったりすることもあります。「顔の見える関係」を大切にし、難病医療に対する我々の経験値を利用していただきながら、支援を行う側も、受ける側も安心できるような体制づくりをサポートしています。

 

当院では、地域の方にボランティアとして当院の運営に関わっていただいています。当院のボランティアは、患者さんに充実した時間を提供することができる存在であると考えています。具体的には、ボランティアの方に入院患者さんの生活支援やお話し相手などをしてもらっています。私の留学時代の経験から、ボランティアはただ集まってもらうだけではなく、病院にとって大切な存在として、病院をあげて支援していくことが重要であると学びました。そのため、当院のボランティアに参加していただく際には、患者さんの病気や情報の取り扱いなどに関する講習を受けていただいています。年に1回、ボランティアの方々の意見を聞く機会も設けており、ボランティアの方々も当院の職員と同じ志で患者さんに向き合っていただいている、重要な存在だと感じています。

 

駒井 清暢先生
 

当院は、小児から成人まで幅広く神経筋疾患を経験できることが特徴です。また、カウンセリングや緩和ケア、呼吸器ケアなど、多職種間の関わりが必要な医療はチームを形成し活発に運営しています。チーム内で役割を担って参加しリーダーシップを身につけることは、若手の医師にはよい経験になると思います。

さらに成人患者さんの場合は病理解剖も行うため、ほかの施設ではなかなか得られない知識も身につけることができます。この分野に興味がある先生には、ぜひ当院にきていただけたら嬉しいと思います。

 

当院を含めた、国立病院機構に属する病院の使命のひとつであるセーフティーネット機能は、難病などでハンディキャップを持った方の地域における生活をバックアップしていくことだと考えています。

当院に対して、病気や障害のある方を収容する施設というイメージを持っている方もいらっしゃるかもしれません。しかし当院は、患者さんが望む場所で生活することを支援する病院です。まれな病気であっても、病気が重い状態であっても、当院では必要な支援を受けられるということを、地域のみなさまには知っていただけたらと思います。重症心身障害児(者)と脳神経筋難病を患っている方、そのご家族に頼っていただける存在でありたいと思っています。

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  • 独立行政法人国立病院機構 医王病院 名誉院長

    駒井 清暢 先生

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