院長インタビュー

高度急性期医療に加えて「病院を核としたまちづくり」にも貢献するJCHO熊本総合病院

高度急性期医療に加えて「病院を核としたまちづくり」にも貢献するJCHO熊本総合病院

この記事の最終更新は2017年10月11日です。

独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO:ジェイコー)熊本総合病院は、JR八代駅からバスで10分ほどの八代城跡公園からほど近い中心市街地に位置しています。その街の中心地であるにもかかわらず、520台収容の駐車場も整備されているため、自家用車での来院にもとても便利です。そして、同院は344床、17診療科、8診療センターで、高度な急性期医療を提供しています。

2006年に病院長として就任後、病院内のみならず「まち」の改革に力を注ぐ島田信也先生にお話を伺いました。

当院の開設は、終戦から間もない1948年です。10年前には「熊本県で潰れる病院ナンバーワン」という危機を迎えましたが、何とか短期間に再生することができ、2013年に、現在の新病院建設と同時に「熊本総合病院」に名称を変更し、その翌年の2014年に、「独立行政法人地域医療機能推進機構 熊本総合病院」へ移行しました。

新病院建設のコンセプトは、「最新の質の高い医療を提供する病院」に加えて「八代の新しいまちづくりを牽引する病院」であり、そのためには「八代市のレガシーとなる100年建築」にする必要がありました。この背景には、日本の地方創生への強い思いがあり、「病院を核としたまちづくり」が新しいモデルとして、①中心市街地の活性化、②歩きたくなるまちづくり、③企業や工場の誘致による働き口の創生と人口減の歯止め、に大いに貢献することが狙いです。

今後、日本のまちづくりにおいては、建物の1つ1つを長持ちする建物-できればレガシー-にしていくことが極めて重要です。なぜならば、これまで戦後日本は、「ハコモノはカネがかかって国を潰す」の大合唱の下、プライドの欠片もないスクラップ・アンド・ビルドのまちづくり(フロー型社会)を行ってきましたが、これを繰り返していけば現在の日本の地方都市のように70年経っても何も残らず、私たちは子孫にとって恥ずかしい先祖となり果てます。ところが、価値ある長持ちする建物を1つ1つ創っていけば、100年後には、日本国民の誰もがプライドを持つ素晴らしいまち(ストック型社会)ができ、その意欲と覚悟は子孫によって脈々と受け継がれる訳です。

病院という施設は、質の高い医療を提供するだけでなく、医療とともに公にも貢献しなくてはならないと考えています。当院は、「病院を核としたまちづくり」のモデルケースとして地方創生に寄与し、全国に向けて、その新しい方向性を提唱することができれば幸いです。

私が病院長として着任した2006年当時、当院は前述の通り、「熊本県で潰れる病院ナンバーワン」で、医師の数も少なく、さらに旧病院の劣悪な施設環境によって、患者さんに多大なご迷惑をお掛けしました。しかし、レガシー的な新病院建設後には、素晴らしい医療の実践と病院環境ならびに「まちづくりへの貢献」によって、患者さんの数は増え、加えて、年々医師数も増加していきました。2006年当時に25名だった医師が、嬉しいことに、現在は65名と倍増以上となっています。

当院はすべての診療科が高度医療を行っていますが、特に4大疾病である、がん脳卒中、急性心筋梗塞、ならびに糖尿病には当然のことながら力を入れています。

2008年、当院は「がんセンター」を立ち上げました。抗がん剤治療・緩和ケアを含む外科や、放射線療法科、医療連携室などが力を合わせ、先進的かつ高度ながん診断・治療を行っています。また、治療だけでなく「セカンドオピニオン外来」も開設しました。

2010年には、熊本県指定がん診療連携拠点病院に指定されましたが、日本人に多い肺がん胃がん肝がん大腸がん乳がんなどに対し、診療科の枠を取り払った治療が可能であり、さらに緩和ケアまで十分に行える病院であると認定されたことを意味します。

脳卒中の患者さんには、神経内科・脳神経外科からなる「脳卒中センター」が24時間365日体制で対応しており、脳神経外科では3人もの指導・専門医が高度な外科手術に携わります。治療後は自宅への退院を目指すための、リハビリテーションや地域の医療機関との連携を、看護師や薬剤師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、管理栄養士、社会福祉士などで構成される「脳卒中サポートチーム」が支えます。

急性心筋梗塞のような緊急を要する心疾患は、「循環器センター」の担当です。循環器内科と心臓血管外科が連携して、同様に24時間365日体制で高度な治療にあたっています。

当院の糖尿病センターの歴史は古く、1979年の開設です。八代市のみならず、宇城地区、人吉・球磨地方、天草地方などから、かかりつけ医の先生に患者さんをご紹介いただいています。同センターの特徴は、患者さんがかかりつけ医の先生と当院を循環する「ダブル主治医制」です。普段はかかりつけ医の先生にお任せしていますが、定期的に当院でも受診いただいています。

現在、当院にある診療科は「職員自身がかかりたい」ほどのハイレベルな域に達しています。その一方、新たに開設する必要性を感じている診療科もあります。ひとつは、周産期医療です。「病院を核とした街づくり」が進めば、人口の増加とともに出産の数も増えるはずです。また、当院は市の中心に位置しているため住民の皆さんからの強い要望もあります。最終的には、周産期母子医療センターにまで、発展させたいと考えています。もうひとつは、精神科です。そして、九州でも専門医の数が少なくなってきている呼吸器内科の充実も今後の課題です。

当院は、臨床研修指定病院に向かって研修プログラムを作成しておりますが、現在は、大学の初期研修プログラムでの研修病院となっているため、毎年、4~6名の初期研修医の教育に携わっています。

当院の研修は、初期研修医の希望に沿った専門科を過不足なくローテートするために、診療センターが責任を持って研修を配慮する形で行います。センターは前記した4センターに加え、救命救急センター、腎センター、内視鏡センターなどを備えていますので、基本的に「1センター1名」とし、研修指導医がマンツーマンで指導します。

特に公的病院においては、診療や教育と同時に研究にも力を注ぐことが、医療の質を上げ、患者さんの満足度にも反映します。当院では、毎年4~8本の英文論文が国際的な医学学術雑誌に掲載され評価されています。私自身も老体に鞭打って、積極的に総説を書いて世界に発信しています。最近では、腹膜播種(はしゅ)や難治性消化器がんの治療に関する英文総説が掲載されました。

熊本大地震では、新病院であったことから幸いなことに当院の被害は軽微であり、地震直後から通常診療を行うことができました。しかし、被災した多くの施設では透析ができなくなりました。従って、県南唯一の当院の腎センターの透析部門には、数多くの患者さんが搬送されてきましたので、ドクターと医療スタッフは昼夜を問わず懸命に診療を続け、最終的に142名の患者さんの命を守るためにお役に立つことができ感謝の言葉を沢山いただきました。初めて経験する大震災だったにもかかわらず様々な被災者への治療が極めて円滑に進められたのは、日頃より全職員が自ら考えて行動する習慣がついていたためだと評価しています。 

当院の基本方針は「職員自身がかかりたい病院にする」です。昨年、厚生労働省が行った「かかりたい病院のアンケート調査」で患者さんが最も望んでおられる要件の上位2つは、「施設・設備が整っている病院」と「良いドクターがいる病院」でした。当院は、そのいずれの要件も満たしていると胸を張って自負しておりますので、どうぞ安心して受診していただきたいと思います。