院長インタビュー

地域高度救急と周産期センターに力を入れ、地元の医療に貢献する岩手県立中部病院

地域高度救急と周産期センターに力を入れ、地元の医療に貢献する岩手県立中部病院
遠藤 秀彦 先生

岩手県立中部病院 院長

遠藤 秀彦 先生

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この記事の最終更新は2017年08月14日です。

岩手県立中部病院は、同県立の花巻厚生病院と北上病院が合併し、岩手県北上市村崎野に設立された開院9年目の新しい病院です。「地域における救急の最後のとりで」を自負し、434床、25診療科で診療にあたっています。同病院の特徴について、院長である遠藤秀彦先生にお話を伺いました。

当院の前身である2つの県立病院は、いずれも急性期総合病院でした。その流れを受け、当院でももっとも重要視しているのは「急性期疾患の診療」です。1日10台以上、年間で4,000台ほどの救急車を受け入れています。このような救急患者さんに医療資源を集中するためには、トリアージ(危険度に基づく治療優先度づけ)などが重要となります。そのため、ウォーク・イン(救急車以外の救急受診)で救急受診された患者さんの場合は、トリアージを実施し、重症度の低い患者さんにはお待ちいただく場合もあります。地域の急性期医療を守るために必要な措置であるため、地域住民のみなさまにもご理解いただければと思っています。

外来では紹介率が85%程度までにのぼります。地元かかりつけ医の先生方には、当院のあり方をご理解いただけていると考えております。なお逆紹介率は約90~100%です。

救急患者さんのなかで患者数が多いのは、循環器内科です。主に、心筋梗塞に対する緊急のカテーテル治療を行います。

また神経内科と脳神経外科のチームでは、脳梗塞の重症度を下げるとして注目されている「機械的血栓除去」と呼ばれる治療が可能となりました。これまで脳梗塞に対しては、脳梗塞の原因となっている血栓を溶かす薬を、発症後4.5時間以内に静脈から入れるのがベストの治療でした。しかし最近になり、血栓の場所によってはその後、カテーテルという管を血栓のところまで届け、血栓を物理的に回収すると、脳梗塞の転帰が優位に改善することがわかりました。

当院ではその治療を、今年から北上済生会病院の協力を得て行うことになりました。

当院は、地域医療支援病院の指定も受けており、地域医療包括ケアの実現にも熱心に取り組んでいます。

そのひとつとして、「民間非営利団体(NPO)法人岩手中部地域医療情報ネットワーク協議会」にも参加しています。このネットワークは最終的に、岩手中部地域(北上市・花巻市・遠野市・西和賀町)の、医科と歯科、薬局、訪問看護ステーション、介護事業所などをオンラインで結ぶ予定です。ネットワーク上で患者さんや利用者のデータを共有し、急性期治療から自宅療養まで、途切れることなくケアすることを目標としています。2017年秋には、まず医療機関のあいだで情報共有が始まります。現在、当院では地域医療福祉連携室が、地域との連携を積極的に進めています。このネットワークが動き出せば、さらにスムーズな連携が可能になると考えています。

この地域では以前から医科歯科連携が進んでいます。当院も例外ではなく、開院時から北上市の歯科の先生方と連携しています。はじめは、栄養サポートチームの回診に加わっていただくところから始め妊婦さんやがん患者さんの口腔ケアに拡大しており、今では緩和病棟にもお越しいただき、経口摂食がうまくできない患者さんなどを診ていただいています。疾患のある患者さんの口腔(こうくう)状態を歯科医の先生に正しく伝えるため、当院には歯科がないにもかかわらず、歯科衛生士が常勤しています。

昨年はおよそ700人の患者さんを、歯科医の先生に評価していただきました。おそらく県内では最多数です。

当院は地域周産期センターでもあります。岩手県中部の基幹病院として、各地域の医療機関からご紹介いただいた重症患者さんや救急患者さんの診療にあたります。年間の出産の数は700件ほどにものぼります。また、当院には新生児特定集中治療室(NICU)がないため、出産前から困難が予測される場合はNICUのある北上済生会病院と連携しています。

東日本大震災の当時、私は岩手県立釜石病院の院長でした。沿岸部に位置する同院は被災し、入院中だった患者さんの約80%を移送しなくてはなりませんでした。その際、緊密に連絡を取り合い、多くの患者さんを受け入れてくれたのが当院でした。このような経験から、災害医療には強い思い入れがあります。当院は災害拠点病院の指定を受けており、災害派遣医療チーム(DMAT)も3チームあります。

今年からは、災害医療訓練に地域住民のみなさまにも参加していただきました。参加体験を通して、災害医療に対する意識が高まればよいと思っています。

前期研修医の定員は、各学年12名ずつ。当院における研修は人気が高く、ほぼ毎年、定員通りの研修生を受け入れています。

院内組織として「臨床研修管理室」が存在し、臨床研修委員会では問題点の抽出・解決に努めています。研修はプログラム化されており、研修各科ごとの到達目標も定められています。また、研修医主体のカンファレンスも行われます。さらに、指導医に直接伝えづらいことなどがあれば、私に伝えるという手段も確保しています。これも研修改善に役立っています。

「いわてイーハトーヴ臨床研修病院群」による研修機会もあります。この「病院群」は県内12の研修病院からなり、合同でさまざまな研修機会を提供しています。

たとえば、ある施設で研修していて「この分野をもう少し学びたい」となった場合、関連症例が多いほかの施設で一定期間の研修が可能です。また2年目は全員が集合して、相互評価によるOSCE(客観的臨床能力試験)も行います。これは全国的にみても、かなり充実した研修内容でしょう。

患者さんが病院に求めるのは、「質の高い医療」だけでなく「安全」も含まれていると考えています。そこで「個人」ではなく「チーム」で安全を担保する、「チームSTEPPS」(Team Strategies and Tools to Enhance Performance and Patient Safety)と名付けられたプログラムを導入しました。同時に「5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)運動」も始めました。この「5S運動」は医療効率化だけでなく、医療安全にも役立っています。

今後も当院は、「地域救急における最後のとりで」として、質の高い高度急性期医療を提供していくつもりです。地域住民のみなさまには、このような当院の特質をよくご理解いただき、かかりつけの先生とご相談のうえ、上手にお付き合いいただきたいと思います。