産業医科大学若松病院は診療の面から福岡県北九州市の医療を支えています。開院当時から地域の中核病院として医療を提供してきた同院は、産業医科大学病院の分院となった現在も、地域の中核病院の役割を果たすためさまざまな取り組みを実施しています。同院の診療や取り組みについて、病院長の酒井昭典先生にお話を伺いました。
当院の歴史は、前身である遠賀郡立若松分院の開設にまでさかのぼり、120年以上の歴史を誇ります。一貫して地域の中核病院として、地域医療を守り支えてきました。
当院のターニングポイントは2011年に、北九州市立若松病院から産業医科大学若松病院となったことです。産業医科大学の分院となったことで、診療の幅を広がったほか、大学の講座、診療科に所属している医師が診療を担当することで、より専門性の高い治療を提供することができるようになりました。
また、当院は若手医療従事者の教育機関としての側面を持ち、産業医科大学医学部5年生の臨床実習や近隣の看護学校の学生の臨床実習を受け入れています。市立病院として地域医療に長く携わってきた当院での臨床実習は、リアルな地域医療を経験できるよい機会になるのではと考えています。
整形外科の診療では、特にスポーツ整形の分野に力を入れています。当院の位置する北九州市には、サッカースタジアムや野球場がありスポーツが盛んに行われています。そのため、試合中の事故でけがをした選手を受け入れ治療にあたることも少なくありません。また、整形外科からサッカーJリーグやラグビートップリーグ、バスケットボールBリーグなどにチームドクターを派遣しています。アスリートの方々が安心してスポーツに取り組めるように、サポートをしていきます。
スポーツ整形の診療では、関節鏡手術を実施し、患者さんの体に負担の少ない治療の提供を心がけています。肩や膝はもちろん、股関節鏡手術にも取り組んでいます。診療科長の内田宗志先生は関節鏡手術、股関節鏡手術を専門にしており、知識と経験にもとづいた診療をしてくれます。
また、地域の高齢化も進み、骨折や変形性膝関節症などの治療を必要とする患者さんも増加しています。今後は、高齢の方の骨折治療、変形性膝関節症に対する骨切り術や人工関節置換術にもさらに力を入れていきたいと思います。
産婦人科では、骨盤臓器脱のメッシュ手術や腹腔鏡手術に力を入れています。骨盤臓器脱とは、子宮、膀胱、直腸などの骨盤内にある臓器が、これらを支えている筋肉や靭帯が加齢や複数回の出産などによって緩むことでだんだん下がっていき、腟から体外に出てしまうことです。性器に症状が現れるために、恥ずかしさからご家族への相談や医療機関を受診するタイミングが遅れてしまうこともあります。
若松区は高齢化率が30.1%(2018年3月末時点)と高齢化が進んでいる地域です。そのため、骨盤臓器脱で地域の医療機関からご紹介されて来院する患者さんにも、高齢化がみられます。
当科では診療科長の吉村和晃先生を筆頭に、腹腔鏡手術など患者さんの体に負担が少なくなるような手術を実施することで、高齢の患者さんでも手術によってQOLを維持、向上できるよう尽力しています。
当院では一般病棟や有料個室を利用して、人生の最終段階における医療(終末期医療)(注)を提供しています。がんの患者さんを主に受け入れ、最期のときまで安心して生活を送ることができるようにサポートしています。化学療法をご希望される患者さんには、担当の医師がメニューを考えて、緩和的化学療法を提供しています。可能な限り、患者さんやご家族のご希望に沿った医療を提供しています。
注:平成27年3月に厚生労働省 検討会において終末期医療から名称変更
当院は地域の総合病院という側面と、産業医科大学病院の分院という側面を持っています。産業医科大学の各講座、各診療科に所属している医師が診療を担っているため、それぞれの専門領域にもとづいてさまざまな病気の治療に対応できる体制が整っています。
当院の医師たちはスペシャリストでありジェネラリストでもあります。スペシャリストとして専門領域の診療はもちろん、その豊富な経験のもとさまざまな病気に対応することができるジェネラリストとして地域医療を支えています。
また、当院で対応が難しい治療を必要とする病気の患者さんには、本院へご紹介という形で適切な診療を受けてもらえるよう連携体制を強めています。
地域の皆さんにより適した医療提供を実現するために、院内にご意見箱を設置して患者さんやそのご家族からのご意見を吸い上げています。いただいたご意見を、病院運営に反映することで、より地域に根差した病院となれるように努力を重ねています。また、患者さんやご家族以外に地域の方々からもご意見をいただくことができるよう、若松区自治会の皆さんと意見交換の場を設けています。自治会の皆さんは日頃当院を受診していない方々だからこそ、客観的な視点からのご意見をいただけます。
このように当院は、患者さんやご家族、地域の皆さんからいただいたご意見に対してきめ細やかに対応しています。すぐに対応が難しいご意見には対策を立てています。時代とともに、地域のニーズや病院のあり方は変化していきます。その変化に柔軟に対応し、地域のニーズに応えることができる病院を目指していきます。
当院は、長く市立病院として地域に求められる医療を模索し、提供してきました。大学病院の分院となった今も、地域の皆さんに信頼され、頼られる病院であり続けたいと思っています。大学病院の本院との密な連携ができていることが、当院のつよみのひとつでもあります。より専門的な治療を必要とする病気や症状の患者さんには、本院へのご紹介など、当院のつよみを十分に発揮して対応していきます。
大学病院の分院となったことで、敷居を高く感じてしまうこともあると思いますが、当院は今後も地域に根差した病院として地域の皆さんに寄り添った医療提供をしていきます。地域の病院として、気軽にご相談していただきたいと思います。
産業医科大学若松病院 病院長、産業医科大学 整形外科学 教授
酒井 昭典 先生の所属医療機関
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。