院長インタビュー

地域に根差した大学病院を目指して─若手医師の輩出と地域医療に貢献する東北医科薬科大学病院

地域に根差した大学病院を目指して─若手医師の輩出と地域医療に貢献する東北医科薬科大学病院
佐藤 賢一 先生

東北医科薬科大学病院 統括病院長、東北医科薬科大学病院 病院長、東北医科薬科大学病院 消化器内...

佐藤 賢一 先生

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東北医科薬科大学病院は仙台市宮城野区に位置する医学部附属病院です。30年以上にわたり地域に根差した医療を提供し続けながら、大学病院として求められる病院機能の拡充に尽力しています。総合的な診療ができる医師の育成のために発展を続ける同院について、病院長の佐藤 賢一(さとう けんいち)先生にお話を伺いました。

東北医科薬科大学病院 外観
東北医科薬科大学病院 外観

当院が医学部附属病院となったのは2016年4月のことです。もともとは1982年に当院の前身にあたる東北厚生年金病院が、現在地の仙台市宮城野区福室に新築移転したことから始まります。その後2013年に東北薬科大学の附属病院となり、地域医療だけでなく薬剤師をはじめとした医療従事者の教育機関として尽力してきました。東北薬科大学が医学部を新設することにともない、当院は東北医科薬科大学病院と改称し、今後の東北の医療を担う若手医師育成のための教育機関となりました。

東北医科薬科大学で新たに医学部を開設したことは、2011年3月に発生した東日本大震災が大きく影響しています。東日本大震災は、東北地方の医療機関に深刻なダメージを与えました。被災地の医療機関は、震災の影響で閉鎖したり、医療従事者の安全を考えて別の地域に引っ越したりしたため、地域によっては、充実した医療の提供が難しい状況になりました。そのような状況を打開するため、地域医療を実践する医師を育成することを目的として、東北薬科大学に医学部の新設が決まりました。

地域包括ケアシステムの構築が注目されている中で、訪問診療や訪問看護などのいわゆる在宅医療の整備が必要不可欠になります。在宅医療を開始しても、地域によっては、1軒と1軒の距離が遠く、医師が1日に診療できる患者さんに限りがでてしまいます。そこで、2023年3月現在、当院で導入しているのがNP(ナースプラクティショナー)による訪問診療です。

NP(ナースプラクティショナー)とは、医師の包括的な指示のもと、高度な医療を実践するための教育を受けた看護師に対して与えられる資格のことです。NPは特定医療行為を実践できるように、多くの知識と技術を研修で身に付けているため、訪問診療でも活躍できると考えています。

当院が目指す医療のあり方は、医学部附属病院となる前から地域で果たしてきた市中病院としての役割とともに、先進医療にも取り組み、充実した医療を地域に提供し、貢献することです。医学部附属病院となり、診療科やスタッフの配置を充実させたことによって、診療の幅が大きく広がりました。今後は、地域の医療機関で対応が難しい病状の患者さんを広く受け入れることができるように、院内の整備を行っていきます。

東北医科薬科大学病院のNPの方々

 

2016年に開設した総合診療科は、当院の診療を支える診療科のひとつです。具合が悪いがどの診療科にかかればよいか分からない患者さん、複数の病気を抱えている患者さん、診断がはっきりしない患者さんなどの診療を行っています。

また、総合診療科の医師は救急センターにも所属し、救急科の医師と連携を取りながら救急患者さんの対応をしています。外科的な処置が必要と診断した患者さんには救急科の医師が対応し、内科的な処置が必要と診断した患者さんには総合診療科の医師が対応します。

当院には12分野の認定看護師が所属しており、特定の看護分野において豊富な知識と高い技術で看護に従事しています。病棟内での看護以外にも、救急センターに救急看護認定看護師を配置したり、ICUに集中ケア認定看護師を配置したりして、認定看護師は多くの場面で活躍しています。そのほか、近隣の登録医療機関や訪問看護ステーションを対象に公開講座を行い、地域への情報発信もしています。

当院では、NPの増員をはかることで、多職種連携による医師の負担軽減に努めるとともに、在宅医療を必要とする地域の方々に定期的な訪問看護、訪問診療を行い、地域医療の質を高めることを目指します。

2016年4月に開設された東北医科薬科大学医学部は、幅広い臨床能力を持ち、患者さんを総合的に診療できる医師の養成を通して、東北地方の医療を支えていくことを使命としています。地域によっては、患者さんが複数の病気を持っていることもあります。たとえば、糖尿病の治療をしている高齢の方が、骨折肺炎などで来院することも考えられます。そのようなときは、自分の専門領域のみを診療するのではなく、患者さんの全身を診療することができるスキルが必要とされます。当院では、体験学習や臨床実習を通じて、さまざまな視点から総合的に診療できる医師の育成に力を注ぎます。

東北の医療の担い手を目指す臨床研修医と共に

 

2019年1月に新大学病院棟が竣工し、4月から本格稼働しています。新大学病院棟には、ハイブリッド手術室やバイオクリーンルームなどの先進的な手術室に加え、リニアックCTなどの医療機器を新たに導入しました。地域の皆さんに高度な医療の提供が可能になるとともに、本学医学部生や研修医が専門性の高い充実した研修を積むことが可能になりました。

また、医学部生の病院実習に向けて、教員となる医師をさらに拡充します。

当院が医学部附属病院となって6年が経過しました(2023年3月時点)。診療科も増え大学病院に求められる高度な医療の提供ができる体制を整えて参りました。その一方で、今までのような地域医療の提供にも引き続き尽力しております。今後も、東北地方の医療を担う医療者を育成することを目的に努力致します。大学病院とはなりましたが、地域の皆さまから頼っていただける病院であり続けたいと思っています。体調に不安なことがあれば、お気軽にご相談ください。

実地医療で多くの経験を積むことが重要だと思います。同じ疾患でもさまざまな経過や異なった症状を呈する場合もあります。多くの患者さんの診療に参加することによってしか培うことのできない臨床力というものがあります。体力、気力が充実している時期に積極的に患者さんの診療に携わってください。臨床医の力は、努力の積み重ねによって養われていきますので、決して無駄にはなりません。医師としての血となり肉となります。指導してもらえる立場というのも、若い時期しかありません。よき指導医を見つけ、しっかり指導を受け、学んでください。また、医療は医師一人の力だけでは完結しません。全ての医療従事者との共同作業によって患者さんは診断、治療を受け、社会復帰が可能となります。多くの医療従事者と交わり、良好なコミュニケーションを築く必要があります。これも、多くの診療に携わることによってしか育むことができません。さらに、今後医師としての職務を全うしていくには、医療知識・技術の習得以外にも多くのことを学び続ける必要があります。自分の腕を磨くとともに、冷静さを持続できるように心身を鍛えることも大切です。とても大変ですが、やりがいのある仕事です。皆さんならきっとできます。よき医師になるべく一緒に努力していきましょう。