埼玉県ふじみ野市にある富家病院は、「されたい医療・されたい看護・されたい介護」を理念に掲げ、重度の患者さんを積極的に受け入れています。同院が進める「ナラティブホスピタル」という取り組みは、その功績が評価され、2015年に『グッドデザイン賞』を受賞しました。理事長の富家隆樹先生に、「ナラティブホスピタルの取り組み」についてお話を伺います。
当院では、2008年より「ナラティブホスピタル」という取り組みを始めました。
ナラティブとは、英語で「物語」を意味します。ナラティブホスピタルとは、患者さんをみていくうえで、病歴だけでなく、その方が持つ過去や現在の「物語」を知ることが大切であるという考えに基づき、患者さん、ご家族、病院スタッフが一緒になり、一人ひとりの「物語」をつくる取り組みです。
「ナラティブノート」を患者さんの枕元に置き、日常の出来事などを思い思いに書き留めていきます。ナラティブノートは、患者さんやご家族はもちろん、医師や看護師などの病院スタッフも自由に記入します。
「今日は天気がよかったのでお散歩をしました」「熱が下がってよいお顔をしています」といった何気ない内容でも、ナラティブノートに書き留めることで、患者さんの物語が少しずつ進んでいきます。そして、たとえ患者さんが動けない、あるいは意識がないといった状態であっても、周囲の人々が物語を進めていくことができるのです。
また、当院には患者さんの写真を飾った「物語の階段」があります。週に一度カメラマンに来ていただき、入院患者さんの写真を撮影しています。退院された方やお亡くなりになった方を含めて、物語の階段には、写真が増え続けています。
この取り組みは、患者さん一人ひとりとどのように向き合うかを試行錯誤していた頃に出会った、佐藤伸彦先生の著書『家庭のような病院を』を教典のようにして構想したものです。
認知症や気管切開後の方、透析治療を必要とする重度の患者さんを受け入れる病院として、「患者さん一人ひとりを大切にしたい」という思いを形にするため、「ナラティブホスピタル」の具体的な取り組みを計画し、スタッフに意識を浸透させるために奮闘しました。
日常業務で多忙であるがゆえに、初めは一部のスタッフから不満の声も上がりましたが、根気よく思いを伝え、どうにか日常業務のなかにナラティブ活動を組み込めるよう進めていきました。現在では、グループが一体となり、ナラティブホスピタルの取り組みを活発に実行しています。
この富家病院の取り組み「ナラティブホスピタル」は、2015年に『グッドデザイン賞』を受賞しました。これからも私たちは、患者さんの物語を、ご家族と共につくり続けていきたいと考えています。
医療法人社団富家会富家病院 理事長
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