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心肺蘇生法「二次救命処置」とは? 救急医療の現場の実際

心肺蘇生法「二次救命処置」とは? 救急医療の現場の実際
渡邊 伸貴 先生

自治医科大学附属病院  臨床助教

渡邊 伸貴 先生

目次
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この記事の最終更新は2019年09月10日です。

心肺機能が停止した傷病者に対して行われる心肺蘇生法は、2種類に分けられます。ひとつは医療従事者に限らず行うことができる一次救命処置、もうひとつは医師を含む医療チームによって行われる二次救命処置です。

二次救命処置はどのようなものなのでしょうか。また、日々患者さんが搬入される救急科とは、どのような現場なのでしょうか。2018年1~12月に厚生労働省で実施された救命救急センターの評価*でSランク**の判定を受けた、自治医科大学附属病院 救急科の渡邊 伸貴先生に、二次救命処置や救急科の実際について伺いました。

*救命救急センターの評価:診療体制や患者受入実績等に関する報告に基づいて点数化し、充実段階をS、A、B、Cに区分する評価制度。今回の評価は平成30年12月31日までに運営を開始した、全国289ヶ所の救命救急センターが対象。

**厚生労働省 医政局 地域医療計画課.“救命救急センターの新しい充実段階評価について(平成30年2月16日付 厚生労働省医政局地域医療計画課長通知 医政地発第0216第1号)”.厚生労働省.

二次救命処置は、医師を含む医療チームによって行われる心肺蘇生法です。心肺停止状態の患者さんに対して、自発的な血液循環や呼吸の回復を促すために、以下のような処置を行います。

  • 人工呼吸や心臓マッサージ
  • 気管挿管などによる確実な気道確保
  • 高濃度酸素投与
  • 電気的除細動
  • 静脈路確保と薬物投与

これらと並行して、心肺停止に至った原因を素早く的確に探し出し、治療を行います。

二次救命処置は基本的に医療機関で行われますが、医療従事者がドクターカーなどで現地に赴いたときにも行われます。また、心肺蘇生だけではなく、蘇生した患者さんの状態の管理、治療までが二次救命処置に含まれており、患者さんの社会復帰が最終的な目的です。

当院は毎年4月に、1年目の初期研修医に向けて、1週間のオリエンテーションを行っています(2019年6月現在)。このオリエンテーションのなかで、日本循環器学会の一次救命処置のコース(BLSプロバイダーコース)の資格を取得します。また、初期研修期間中には、日本救急医学会の二次救命処置のコース(ICLSコース)の資格を取得します。

二次救命処置のコースでは、マネキンや心電図を用いたシミュレーションで実習します。受講者は、マネキンに設定された症状や心電図の波形の動きから、心肺停止に陥った原因や治療方法を考えます。資格を取得した後は、救命救急センターにて、より実践的な実技や演習を行います。

二次救命処置では、治療をするために心肺停止に陥った原因を特定する必要があります。そのため、蘇生処置と並行して心肺停止の原因を探ります。

また、心停止に陥った原因の特定において、ひとつのカギになるのは、患者さんが心肺停止に陥る前の情報です。たとえば、高血圧であることや、糖尿病を患っているという既往歴の情報があると、素早く原因の特定ができ、治療につなげることができます。

ですが、患者さんを救うために一番重要となるのは、一刻も早い一次救命処置です。心肺停止に陥ってから1分毎に、約10%ずつ患者さんが助かる確率が減少していきます。患者さんを救うために一番必要となるのは、患者さんが倒れた現場に居合わせた方々による、救急車が来るまでの心臓マッサージやAEDの操作などの一次救命処置です。

救急医療は、患者さんが医療機関に救急搬入されてから始まる、「出たとこ勝負」というイメージを持たれることが多々あります。しかし実際は、患者さんが搬入されてくる前に救急隊員から伝えられる患者さんの情報から、想定される病気を予想し、到着予定時間までに必要とされる検査や治療の準備を行います。このように救急医療は、患者さんが搬入されてくる前から始まっているのです。

救命救急センターの基本的な役割は、搬入された患者さんの状態を安定させることです。診断がついたあと、より適した診療科がある場合は引き継ぎをします。たとえば、胃潰瘍と診断がついた場合は、消化器内科に引き継ぎます。感染症である敗血症など、重篤な症例の場合は、そのまま救命救急センターで診療を行う場合もあります。また、事故による外傷の患者さんなどで、緊急手術を要する場合は、手術室にいかずに救命救急センター内で手術を行うこともあります。

ドラマなどで、救急医療の現場で怒号が飛んでいるシーンを見たことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、実際の救急医療の現場はそうではありません。

一般的に、人は怒られると焦りが生じて、作業に余計な時間がかかったり、ミスを招いたりします。1分1秒で患者さんの命が左右される現場では、メンバーに焦りが生じないようにすることを重視する必要があります。常に緊張感が高い現場ではありますが、穏やかな指示や説明を心掛けています。

当院の救急科では、情報の集約・発信などを行うリーダーを配置してチームを動かしています。

心肺蘇生など急を要する場合は口頭での情報伝達が多くなります。そうしたときの情報伝達ミスを防ぐため、クローズドループコミュニケーションで行っています。これは、リーダーがメンバーに指示した内容に対して、指示を受けたメンバーが完了の報告を行うコミュニケーションの方法です。

たとえば、リーダーが「〇〇を投薬して」と指示した場合、それに対してチームのメンバーが「〇〇を投薬しました」と報告します。リーダーはこの報告を聞くことで、治療の段階を把握することができます。

また伝達ミスを防ぐために、クローズドループコミュニケーションに合わせて、できるだけ単純化した情報を報告するようにしています。

日本循環器学会やアメリカ心臓協会(American Heart Association)が、ガイドラインのなかで提唱している心肺蘇生法や救急心血管治療法などをメンバーが理解し、また、BLSプロバイダーコースやICLSコースの資格を取得することで、次にどのような治療を行えばよいか、そのためにどのような準備をすればよいか、という共通認識ができます。

日々さまざまな傷病の患者さんが搬入される救急科では、ほかの診療科に比べて、よりいっそう共通認識を持っておくことが重要です。一人ひとりの効率よい動きで1分1秒の短縮が可能になり、患者さんの命を救うことにつながります。

渡邊先生

船や飛行機で「お医者さんいらっしゃいますか」と呼ばれたときや、災害医療で必要とされるのは、全身を診ることができる総合力を持った救急医ではないでしょうか。医学部では、6年間かけて全身の病気の勉強をします。救急科は、その知識を存分に発揮できる診療科だと思います。

救急医療の魅力は、死の淵に立った患者さんを救い、元気に社会復帰できるほどまで回復させられることです。自分がいなかったら助けることができなかった患者さんを、助けることができたときの充実感や達成感は、何ものにも代えがたいです。

私は、「倒れている人や困っている人を何とかして助けたい」という思いから医師になりたいと考え、救急科に入局しました。皆さんも、なぜ医師を目指したのかを、初心に戻って見つめ直してみてください。数多くの症例に対応できる、総合力を持った救急医が増えて、一緒により多くの命を救っていけたら嬉しいです。

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