インタビュー

がん患者さんへの緩和ケア-多職種で編成された「緩和ケアチーム」が活躍

がん患者さんへの緩和ケア-多職種で編成された「緩和ケアチーム」が活躍
斎藤 真理 先生

斎藤 真理 先生

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この記事の最終更新は2019年11月11日です。

高齢化に伴い、がんを患い亡くなる方は年々増加しています。自分や大切な人ががんと診断され、懸命に闘病生活を続けていく上で、多くの方が「悲しみ」や「悔しさ」、「不安」な気持ちにさいなまれます。がんという病気の特性上、肉体的な不調も出てくるかもしれません。

そんな心身の痛みに寄り添い、患者さんとご家族を支える「緩和ケア」という医療をご存知でしょうか。不安の多い「がん」という病にアプローチをかける緩和ケアについて、横浜市立市民病院緩和ケア内科 斎藤真理先生にお話を伺いました。

医師からがんという診断名の説明を受け、不安を感じられている患者さんに対して、当院ではがん性疼痛看護認定看護師(公益社団法人日本看護協会認定)、がん化学療法看護認定看護師(公益社団法人日本看護協会認定)、精神看護専門(リエゾン精神看護)看護師(公益社団法人日本看護協会認定)がカウンセリングを行い、必要であれば適切な専門医による診察をセッティングします。

また、がん告知の際の衝撃を和らげるためにも、今後は市民公開講座などを開き「がんと診断されたときの心構え」を広く啓蒙し、がんを告知する際には看護師を同席させるなど、仕組み作りも考えていきたいです。

*がん性疼痛認定看護師・・・がんの症状によって生じる痛みや苦痛を緩和するために、治療方法を主治医や薬剤師と相談し、適切な薬剤の使用を考える看護師のこと

当院では多職種で編成された緩和ケアチームが患者さんを診ています。

  • 身体症状担当医師
  • 精神症状担当医師
  • がん性疼痛看護認定看護師(公益社団法人日本看護協会認定)
  • がん看護専門看護師(公益社団法人日本看護協会認定)
  • 精神看護専門看護師(リエゾン精神看護)(公益社団法人日本看護協会認定)
  • 家族支援専門看護師(公益社団法人日本看護協会認定)
  • 薬剤師
  • 臨床心理士
  • 緩和ケア認定看護師(公益社団法人日本看護協会認定)
  • 管理栄養士

当院にはおりませんが、患者さんが生きる意味や人生について悩んだときに、お話を伺いスピリチュアルケアを専門に行う宗教家の方が勤務している病院もあります。

緩和ケア内科医として患者さんを診るときに心がけているのは「生活・自然・安心」の3要素です。以下でそれぞれの意味をご説明します。

  • 生活・・・仕事、趣味、習慣など患者さんご自身の「生活」を大切にし、患者さんがいかに心地よく過ごせるかを重要視しています。
  • 自然・・・患者さんその人の「ありのままの姿(自然)」に着目し、その自然な経過(人生を送られる姿)を見守ります。
  • 安心・・・患者さんや家族、医療者自身も安心できるような医療を提供します。

当院の緩和ケア内科は、患者さんをみんなで応援する笑顔の多い病棟です。医師が笑顔でいれば、それは患者さんに伝染しますし、明るい気持ちを保つことができます。また、緩和ケア内科の科長として、日頃からスタッフとコミュニケーションを多くとるよう心がけています。「重症化した患者さんと接する機会が多い診療科」のため、私たち医療従事者も矛盾を感じ、落ち込むこともありますが、患者さんの前では笑顔でいることができるプロ集団だと自負しております。

各家庭にそれぞれ個性があるように、当診療科にいらっしゃるご家族の皆さんにはそれぞれの事情があります。そのため、私たちは日頃よりそのご家庭に合わせた緩和ケアを提供するよう務めています。

多くの家族を見てきた医師として皆さんにお伝えしたいのは、「情報を正しく得ることの大切さ」を忘れないで欲しいということです。患者さん自身の症状によっては活用できる社会的制度の情報を知ることが肝心ですし、ご自宅のある地域の訪問診療や訪問看護をご利用いただくことも可能です。病院側から発信する情報や、ご自身で得られる情報はひとつでも多く大切になさってください。

当院の緩和ケア病棟は現在20床あります(2019年7月時点)。多くの皆さんのニーズにお答えして、今後はさらに病床を増やしていきたいと考えています。当院の緩和ケア病棟は近年増えている在宅療養のバックアップや、施設での看取りへのワンクッションとしてご利用いただいていますが、今後は新たな方法でも機能していくことでしょう。たとえば、在宅医や施設の担当医など、彼らが終末期の患者さんを診る研修の場としても広く利用されていくはずです。

当院では「緩和ケア在宅療養支援入院」の実施が予定されております。具体的には、介護者が一時的に在宅介護をすることが難しくなった際に受け入れる「期間限定の入院」を指し、介護者が疲れを感じた時、旅行や冠婚葬祭がある際に活用いただけます。

緩和ケア内科医として働くうえで、心に残っている患者さんは数多くいらっしゃいます。そのなかでも2名のがん患者さんのエピソードをご紹介します。

抗がん剤治療の副作用がつらく、やめたいと思っていた患者さん。家族も担当医も一丸となって応援してくれるため、なかなか「治療をやめたい」と言い出すことができませんでした。そんな患者さんが、「もう十分です」と声をあげ、「緩和ケア病棟に入院させてください」と話にいらっしゃいました。「もうあのがん治療を受けなくてよいのでホッとしました」と安堵された様子から、治療もケアも患者さん自身で選んでいただくことをより大切にしなければ、と考えさせられたエピソードです。

がん治療のため、入院していた一般病棟では1か月以上お風呂に入ることができなかった患者さん。緩和ケア病棟に移ってきて、チューブやコードやベルトを外すことができ、久しぶりに機械式風呂でお湯につかりました。お風呂上がりにはつやつやとしたお顔で、「極楽のようだった」とおっしゃっていたのが印象的です。その様子にご家族の方も嬉しそうでした。ケアを提供する看護師たちの顔も大変充実している気がしますし、「生活・自然・安心」の3要素が集約しているのが、入浴のケアだと感じます。

これらのエピソード以外にも、緩和ケアの現場にいると多くの経験をし、人の生き方に対するビジョンが拡大します。日々新たな発見をする医師としては、患者さんの身体から発信されている「声」を聴きとり「手」あてを丁寧に行う。その2つを今後も大切にしていきたいです。

斎藤先生

緩和ケアは全ての人にとって必要なケアですが、残念ながら日本では緩和ケアへの認識がまだまだ低いのが現状です。緩和ケアの大切さをさらに発信できるよう、私たちも頑張っていきますので、皆さんもお気軽に緩和ケア内科へご相談ください。

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