インタビュー

「いつでも・どこでも・誰にでも」開かれている「緩和ケア」とは

「いつでも・どこでも・誰にでも」開かれている「緩和ケア」とは
斎藤 真理 先生

横浜市立市民病院 緩和ケア内科 科長 部長

斎藤 真理 先生

目次
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「緩和ケア」という言葉に、あなたはどのような印象を受けるでしょう。もしかしたら、人生に幕を下ろす「終末期」に行われるものだとお考えになるかもしれません。事実、その認識は誤りではなく、1990年にWHO(世界保健機関の略称)が定義した緩和ケアは「治癒を目指した治療が有効でなくなった患者」に対するものでした。しかし2002年、この定義は修正され、現在では「終末期だけではなく診断時から提供されるべき」と見直されています。病気に伴う心と体の痛みを和らげ、自分の尊厳や大切にしたいことについて見直す「緩和ケア」の重要性について、横浜市立市民病院の緩和ケア内科の斎藤真理先生にお伺いしました。

緩和ケアとは?

「緩和ケア」とは、患者さんやご家族の精神的・肉体的なつらさや痛みを軽減させる医療的アプローチのことをいいます。患者さんの「生き方」や「希望」を伺いながら、快適に過ごすことができるよう、全力でサポートする大切な取り組みだといえるでしょう。的確な対処をすることで、患者さんのQOL(生活の質)の向上に務めています。

緩和ケアを早期から行うメリット

早期から緩和ケアを行うことで、患者さんが得られるメリットはさまざまです。たとえば、がん患者さんの場合、早期から治療に緩和ケアを取り入れることで、病気によって生じた痛みが少なくなり、精神的な不安や抑うつ状態にも効果が期待できます。

また、1人の医師に全てを委ねるのではなく、がん治療はこの先生に、緩和ケアはあの先生に、と患者さんが多くの専門家に頼ることができるのもよい点です。

患者さんの「最期」のみに緩和ケア医が介入するのではなく、主治医に診断を受けたときから共に患者さんと並走していく。そんな緩和ケアを私は理想としています。

横浜市立市民病院の緩和ケアの特徴

当院では、適切な痛み止めを使用するといった基本的な緩和ケアを医師や看護師などが行える体制をとっています。より専門的な苦痛緩和が必要な場合には、緩和ケアチームが診療に参加し、患者さん一人ひとりに適した緩和ケアを開始します。

専門家から成る緩和ケアチーム

当院には、専従のがん性疼痛(とうつう)看護認定看護師(公益社団法人日本看護協会認定)*が中心となって結成された緩和ケアチームが存在します。チームは緩和ケア内科医師、精神科医師、臨床心理士、緩和ケア認定看護師(公益社団法人日本看護協会認定)、精神看護専門(リエゾン精神看護)看護師(公益社団法人日本看護協会認定)、家族支援専門看護師(公益社団法人日本看護協会認定)、管理栄養士、薬剤師などで編成され、各分野の医療従事者が意見交換しながら患者さんの体と心をケアします。週に一度はチーム全員で定例会議を行い、患者さんを回診しています。

また、ご依頼があれば、がん患者さん以外の緩和ケア・診療も行っています。

*がん性疼痛看護認定看護師・・・がんの症状によって生じる痛みや苦痛を緩和するために、治療方法を主治医や薬剤師と相談し、適切な薬剤の使用を考え使用する看護師のこと

診療するときは「五感」を使う

患者さんが感じる肉体的な症状(痛み・息苦しさ・吐き気・不眠・食欲不振・便秘 など)を診療する際に心がけていることは、「五感を使って患者さんを診ること」です。医師として、患者さんの話を聞くだけでなく、見て、触ることも大切にしています。また、何よりも患者さんの気持ちに共感し、症状のつらさを知ることが的確な診断への近道です。

いくつも重なって起きる症状の原因を探り、「どうしてこの症状が現れるのか」を言語化し患者さんに伝えるようにしています。

プライバシーと尊厳を第一に-横浜市立市民病院の緩和ケア病棟

当院の緩和ケア病棟は2009年に開設され、今年で10年を迎えました(2019年7月時点)。

病棟の特徴は以下のとおりです。

日光が差し込み、トイレまでの動線がスムーズになるよう設計されている個室
日光が差し込み、機能的に設計されている個室

個室

当院の緩和ケア病棟は、20床ある部屋すべてが個室で、家族が寝泊まりすることも可能なソファーベットが設置されています。個室空間は静かで穏やかな時間を提供できると同時に、患者さんのプライバシーをしっかりと守ることができます。

身体抑制・行動制限は原則ありません

身体抑制や行動制限をしないことを原則に、患者さんの安全管理と尊厳を守ることを同時に検討しています。以下が当院で行われている対策です。

  • 患者さんの転倒/転落を予防するために、ベッドの配置など環境を整備する
  • 苦痛や不快感を最大限減らすことに重点をおいて処置を行う
  • 適切な薬物療法を多職種で検討する
  • せん妄対策を早めに行う

これらのケアを余すところなく行うために、緩和ケア病棟の看護師たちの目と力と熱意が大いに貢献していると自負しています。

ボランティアスタッフやご家族と使用することのできるデイルーム
ボランティアスタッフやご家族と使用することのできる多目的ルーム

外来の役割-緩和ケア病棟への入院と苦痛緩和に関するご相談

当院では緩和ケア病棟入院のご希望や、病気に伴う苦痛緩和に関するご相談を外来で受け付けています。

緩和ケア病棟への入院

当院の緩和ケア病棟に入院を希望される場合には、まずは面談が必要となります。

当院のホームページより「緩和ケア病棟入院面談申込書」をダウンロードし、必要事項を記入のうえ、紹介患者予約センターへご連絡(TEL 045-341-5268)いただくか、直接来院いただき、がん相談支援センターにて面談の外来予約をお取りください。

緩和ケア外来予約日に、緩和ケア内科の医師と病棟看護師が面談をさせていただきます。面談は、入院を希望される患者さんとご家族が一緒にいらしていただく、あるいは患者さんのみ・ご家族のみでいらしていただいてもかまいません。時期にもよりますが、入院待機となってから早ければ1日、そのほかであればだいたい1〜2週間で入院することが可能です。

苦痛緩和に関するご相談

苦痛緩和に関するご相談は完全予約制のため、まずは現在通っている医療機関から当院の紹介患者予約センターへお問い合わせをいただき、紹介状をご送付願います。

気軽に戻ってこられる緩和ケア内科でありたい

必要があれば再入院も可能

昨今は訪問診療や訪問看護の仕組みが充実してきたため、緩和ケアを受けられる方も、最終的には自宅での療養を選ばれる方が増えてきました。当院では、患者さんに自宅へ戻っていただく前には、地域の訪問診療を行うチームと退院前カンファレンスを開きます。

患者さんやご家族の皆さんに安心して自宅にお戻りいただくことを一番の目標としていますが、お困りの際には私たちを頼ってください。必要なときには気軽に再入院ができるよう、体制を整えてお待ちしています。

斎藤真理先生からのメッセージ

齊藤先生

かつて緩和ケアは終末期に提供されるものだと考えられていました。そのせいか今もなお、「緩和ケア=手の施しようがない患者さんに行われるもの」と考えられ、末期患者さんが暮らすホスピス*と勘違いされることもあります。

しかし、緩和ケアは病気と診断された瞬間からスタートすると言っても過言ではなく、「いつでも・どこでも・だれにでも」開かれている医療です。自宅で療養する「患者さん個々のニーズに合わせた診療・ケア」と考えていただければ分かりやすいかもしれません。当院のスタッフはみな笑顔でお待ちしておりますので、お気軽にご相談ください。

*ホスピス・・・終末期ケアを行う施設